【WEC35】世界へあと一歩、敗れて尚”世界のミウラ”に
8月3日(日・現地時間)、米国ネバダ州ラスベガスのハードロックホテル&カジノで『WEC35』が開催された。メインイベントでは、6月の『WEC34』における前田吉朗のWEC世界バンダム級王座挑戦(vs.ミゲール・トーレス)に続き、日本人選手・三浦広光がウェルター級王座に挑戦。UFC同級王者=ジョルジュ・サンピエール、EXC同級王者=ジェイク・シールズと並ぶ、ウェルター級三大王者の一人、カーロス・コンディットと対戦した。
【写真】王者コンディットを、あと一歩のところまで追い詰めた三浦。MMAファンの心も揺さぶる壮絶な死闘を繰り広げた (C) ZUFFA
1Rから“ジュウドースルー”を繰り出した三浦が、コンディットを豪快に投げすてるも、コンディットはスタンドで攻勢とするや、グラウンドになっても長い手足を武器にヒジ打ち&パウンドで三浦を追い込んでいく。
しかし、驚異的な粘りを発揮した三浦は、毎ラウンド必ずといっていいほど訪れる劣勢をことごとく挽回。幾度もスイープを試み、上になっては渾身のパウンドを放ち、4Rには、スタンドでのパンチでコンディット攻略にあと一歩のところへと迫った。それでも、一瞬の隙をついて立ち上がったコンディットの右ヒザが三浦の顔面をヒット。正座するように、前方にダウンした三浦は完全に動きが止まり、ここでコンディットがパウンド、鉄槌を落とすとレフェリーが試合をストップ。激しく攻守が入れ替わる死闘は、王者コンディットが19分43秒のタフファイトを切り抜け、王座防衛に成功した。
また、ライトヘビー&ライト級選手権試合は、ライトヘビー級で王座交代劇が生まれた。地元ラスベガスの大声援をバックにスティーブ・キャントウェルがブライアン・スタンを撃破。ライト級では、ジェイミー・バーナーが圧倒的な強さを誇示し、挑戦者マーカス・ヒックスを退けた。
日本の大沢ケンジは、スコット・ヨルゲンセンに判定負け。WEC三大選手権試合と並び、注目を集めたブライアン・ボーウルズ×ダマッシオ・ペイジのバンタム級戦は、ペイジがボーウェルスを抱え上げたところで、ボーウェルスのギロチンチョークが極まって勝負あり。ボーウェルスが、現バンタム級王者ミゲール・トーレスの次期挑戦者確定とも言える、価値ある勝利を挙げている。
次回、『WEC36』は、”WECの顔”ユライア・フェイバーにパウロ・フィリョが出場、それぞれマイク・ブラウン、チェール・ソネンと対戦するフロリダ大会が、9月10日(水・現地時間)に決定している。
■WEC35 全試合結果【主要試合レポートへ】
■第5試合 ウェルター級/5分3R
カルロ・プラター vs. ブロック・ラーソン
×[1R37秒/TKO]○
ウェルター級王者カーロス・コンディットにチャレンジし、敗れた者同士の対戦。再び、フロントラインに戻ってくるためにも負けられない一戦だ。
テイクダウンが強いラーソン、そのサウスポーの構えにプラターがハイキックを見せる。これを難なくかわしたラーソンは、いったん距離をとる。と、右腕を前に差出しフェイントをかけながら、同時に左ストレート。体重の乗ったパンチを受けたプラターが、後方へ倒れると、一気呵成にパウンドで追撃を加えたラーソンが、秒殺KO勝利を手にした。
■第6試合 フェザー級/5分3R
ミカ・ミラー vs. ジョシュ・グリスピ
×[1R50秒/TKO]○
21歳のミラーと、19歳のグリスピの対戦。フェザー級とは思えない長身のミラーは、グリスピのローでパラウンスを崩し、グラウンドへ。距離を取ったグリスピは、立ち上がったミラーの顔にハイキックを放つが届かない。しかし、飛び込んできたミラーに対し、グリスピの右クロスがヒットすると、ミラーは正座するようにダウンする。すかさずパウンドを連打したグリスピ、ここでレフェリーが試合をストップした。
WECデビュー戦のマーク・ホーミニックに続き、ミラーも1RでKOしたグリスピ。今後、フェザー級戦線で注目が必要なティーン・エイジャーが現れた。
■第7試合 バンタム級/5分3R
ブライアン・ボーウルズ vs. ダマッシオ・ペイジ
○[1R3分30秒/ギロチンチョーク]×
頭一つ長身のボーウルズに対し、果敢にハイキック、ミドルを放つペイジだったが、突っ込みすぎてバランスを崩す。ボーウルズはインサイドからパウンドを落とし、ペイジが立ち上がろうとしたところにギロチン一閃。自ら引き込むようにフィニッシュを狙ったが、ここでペイジが首を引き抜きトップを奪取する。
自ら立ち上がりスタンド戦を望んだペイジは、飛び込みながらパンチを放ち、距離が縮まるとハイキックやヒザを狙う。テイクダウン狙いのボーウルズ、これを阻止されると、ヒザ蹴りを放つ。抜群のタイミングで片足タックルからリフト、スラムを仕掛けたペイジだったが、ボーウルズは待っていましたとばかりにギロチンチョークの態勢へ。
タイトに極まったギロチンに、ペイジは成す術なく尻もちをつき、タップアウト。ボーウルズがキャリア6戦6勝とデビュー以来の連勝をまた一つ伸ばした。
■第8試合 WEC世界ライト級選手権試合/5分5R
【王者】ジェイミー・バーナー vs. 【挑戦者】マーカス・ヒックス
○[1R2分8秒/TKO]×
サウスポーのヒックスがテイクダウン狙いで飛び込んでくるところに、ヒザを合わせようとした王者バーナー。構わず組みついた挑戦者は、王者のヒザ蹴りを抱えあげ、豪快なスラミングに成功する。すぐに立ち上がろうとしたバーナーに対し、ヒックスはギロチンを仕掛け、これを逃げられるとまたも豪快なスラムで王者を叩きつけた。
ペースを握ったかと思われた挑戦者だったが、バーナーのハイに続き首相撲からのヒザを顔面に受けると、一気に動きが鈍る。タックルでごまかそうとしたが、右ストレートの三連打を浴びてダウン。尻もちをついた状態で、片足タックルを狙うが、無防備になった顔にパウンドを浴び続けてしまう。
いつレフェリーが試合と止めておかしくない状況の中、必死の形相で立ちあがったヒックスだったが、ここでバーナーの右ストレートを思い切り打ち抜かれて万事休す。腰から崩れ落ちたところで、ようやくレフェリーが試合をストップ、王者バーナーがベルトを守った。
「あんなテイクダウンが強い選手と戦ったのは初めて。アリゾナ・コンバット・クラブでギロチンのトレーニングをずっとやってきたから逃げられた」とバーナーは、ジム・メイトに感謝の言葉を述べた。
■第9試合 WEC世界ライトヘビー級選手権試合/5分5R
【王者】ブライアン・スタン vs. 【挑戦者】スティーブ・キャントウェル
×[2R4分1秒/TKO]○
地元ラスベガスファンの熱い声援を背にする挑戦者キャントウェルは、左右のショートフック、ハイキックを放っていく。ロングレンジから、飛び込んで右を放とうとした王者スタンだったが、キャントウェルのフックに前進を拒まれる。
ならばとローキックを放ち、キャントウェルを牽制するスタンに、かまわず距離を詰めてきたキャントウェルは、スタンの鋭いストレートにひるむことなく、パンチを交錯させるとミドルとパンチから組みつく。テイクダウンにはならなかったが、離れて打ち合いになると、キャントウェルは、ここでもスタンを後退させた。
再び組みついたキャントウェル、首相撲からヒザを狙ったが、フックを浴びて距離を取る。互いの右が相打ちでヒット、打撃戦が続くなか、ヒザを突き上げたキャントウェルがバランスを崩して、キャンバスに倒れる。スタンがパウンドを放ち、キャントウェルが片足タックルからバックをうかがったところで1Rが終了した。
キャントウェル・コールが起こった2R、スタンのローキックがキャントウェルの急所を直撃し、試合が中断する。再開後、スタンのローにキャントウェルが右を合わせるが、両者とも決定的なシーンをつくることができないまま、試合はラウンド中盤へ。
キャントウェルの左ボディアッパーから、左ハイ。ケージまで下がったスタンに強烈な左フックを放つ。組み付いてから、再び自ら距離をとったキャントウェル。ここでもテイクダウン狙いは失敗に終わるが、左ミドル、左ボディで王者の動きを止めることに成功する。口をあけて苦しげな表情を見せるスタンは、得意のパンチ攻撃がかなわないと、他に攻撃手段がないことを露呈してしまう。
組みつくこともできず劣性な打ち合いを続け、さらにパンチを受けてしまった王者。最後の力を振り絞り、右ストレートを放ったが、この一発に右ショートを合わされると、そのまま前方に倒れこんでKO負け。ベルトをキャントウェルに手渡した。
■第10試合 WEC世界ウェルター級選手権試合/5分5R
【王者】カーロス・コンディット vs.【挑戦者】三浦広光
○[4R4分43秒/TKO]×
ラスト・サムライとコールされた三浦。王者コンディットは、不精ひげを生やし、これまでにない険しい表情を見せる。
試合はコンディットの右ミドルでスタート。「立って戦いたい」と宣言していた三浦は、左から右で距離を詰めるも、ローを蹴り合った両者、三浦が飛び込んだところにコンディットの右のカウンターがヒットする。
思わず柔道の投げを見せようとした三浦。打撃戦の攻防の中、背負い投げからサイドポジションを奪うが、公約通りスタンドへ戻る。足払いでコンディットを倒した三浦だったが、直後に右ストレートを受け、ここでも投げでリズムをつかみなおす。
三浦の右をよけて、コンディットの右がヒット、ダウン状態の三浦に対し、ニーインザベリーの状態からパウンドやヒジを落としていく。クロスフィックに移行したコンディットはサイドポジションから腕十字で試合を決めにかかった。
が、ここで腕を引き抜いた三浦は、立ち上がろうしたコンディットから再び足払いでテイクダウンを奪いパウンドへ。攻守の入れ替わりが激しい1Rが終了した。
2R、ハイ、ミドル、前蹴りを王者が見舞うと、バランスを崩した三浦は後方へ倒れこんでしまう。ガードを取り、腕十字を狙った三浦に対し、コンディットは身をひるがえすようにパスを狙い、続いて側転パスガードでサイドを奪う。ハーフに戻した三浦は、もぐりからスイープを仕掛けるが、首をコントロールされ態勢を変えるに至らない。
ハーフからアームロック、エルボー、さらにパスとすべての攻撃が連携するコンディットは、三浦がスイープを狙ったのに合わせて、マウントを奪取する。ブリッジで立ち上がろうとした三浦は、王者の腕十字を防ぎトップを奪い返したが、動きが少なくブレイクがかかる。
試合がスタンドへ戻ると、三浦の左がヒットしたが、直後に王者がバックを奪い、試合は再びグラウンドへ。三浦が堅くクローズドガードを取ったまま、ラウンド終了を迎えた。
3R、右を振るいながら突っ込む三浦。コンディットは片足タックルからテイクダウンを狙うが、ここで三浦が投げを狙うと両者はもつれた状態で、ケージ際へ移動。王者がギロチンチョークからマウントを奪うことに成功する。
腕十字狙いの王者、三浦がしっかりと腕をクロスするとエルボーからパウンドへ、作戦変更。三浦は、フルパワーでロールし、またもトップを奪う。ハーフからパウンドを落とす三浦。この攻撃でコンディットの頭が大きく揺れる場面も見られた。
そのまま左右のパウンドを見舞う三浦だったが、コンディットは立ち上がり、三浦のフックをかいくぐりテイクダウンからバックマウント、マウントへと移行。パウンドを連打した。
今度はしっかりと、三浦の反撃を考慮しバランスを保ち、マウント、バックマウントをキープする。ラウンド終了15秒前に、コンディットはチョークをしかけるが、三浦はしっかりとディフェンスし、ラウンド終了。終了のホーンが鳴ると、王者、挑戦者ともに大きく息をついた。
4R、右目が塞がれた三浦、コンディットもスタミナ切れから動きが鈍い。三浦の強烈な左右のフックを嫌がったコンディットは、必至の形相で三浦に組みつき、テイクダウンに成功。スイープでトップを奪った三浦は、ハーフガードから左右のパウンドを落とす。
ヒザ十字を仕掛けた王者、足を引き抜いた三浦はトップをキープする。少しでも動きが止まると、容赦なくブレイクをかけるレフェリーに、試合はスタンドへ。両者、スタミナを著しくロスしているが、瞬発力は三浦が上か。ただし、試合巧者の王者は殴り合いに応じるふりをして、すぐにバックへ回り込みテイクダウン。そのままマウントを奪取する。
明らかにスタミナ切れを起こしている王者、テンポを落としてパウンドを落としていく。それでも、三浦の「1、2、3」のタイミングのリバーサルで、あっさりトップを奪われてしまう。強烈な左右のパウンドを落とし、完全にペースを握った三浦が王者を攻め続ける。
しかし、一瞬の隙をついて立ち上がったコンディットの右ヒザが三浦の顔面をヒット。正座するように、前方にダウンした三浦は完全に動きが止まってしまう。パウンド、鉄槌を落とすコンディット、ここでレフェリーが試合をストップ。激しく攻守が入れ替わる死闘は、王者コンディットが19分43秒のタフファイトを切りぬけ、王座防衛に成功した。
「本当にタフだった。WEC王者を守り続けたい」というコンディット。これまでのような一方的な勝利でなかった分、最後の最後まで勝負を諦めない、そして試合を決めることができる武器を持つなど、彼の真の実力が見えた防衛戦といえるだろう。
そのコンディットの底力を導きだしたのが三浦の頑張り。強烈な打撃と投げ、寝技でのディフェンス能力。敗れてなお、三浦は評価を挙げたのだった。