【UFC87】金網の支配者GSP×無冠の帝王フィッチ
9日(土・現地時間)にミネソタ州ミネアポリスのターゲットセンターで開催される『UFC87 SEEK and DESTROY』。
【写真】胸に『犠牲』のタトゥーも鮮やかなフィッチ。最強のチャレンジャーとしてGSPに挑む (C) MMAPLANET
当初、今大会にはUFCのミネソタ初進出の背景に、同地在住の元WWEスーパースターでミネソタ大のレスリング部で大活躍したブロック・レスナーが、ライバル大であるオハイオ州立大レスリング出身でUFC殿堂入りを果たしているマーク・コールマンと対戦するキラーコンテンツが存在していた。しかし、コールマンの負傷により早々に同カードは消滅。レスナーは、ヒース・ヒーリングとの対戦に落ち着いた。
それでもUFC世界ウェルター級選手権試合=ジョルジュ・サンピエール(以下、GSP)×ジョン・フィッチ戦に、レスナーと同じく地元出身のロジャー・フエルタが事実上のライト級次期チャレンジャー決定戦挑む一戦など、興味深い布陣が揃っている。
GSPは、1981年5月19日生まれで、カナダのフランス語圏ケベック州出身の27歳。現在、MMAワールドでパウンド4パウンドを挙げるとすれば、ヘビー級のエメリヤーエンコ・ヒョードル、ミドル級のアンデウソン・シウバ、ライト級のBJ・ペンと、このGSPの4人の争いとなることに不満を持つ者はいないだろう。
GSPこそパウンド4パウンドと言い切れるものではないが、この4人の中では、アンデウソン・シウバとともにコンスタントにリングに上がり続け、その時々の最強のチャレンジャー、最強のライバルと戦っているのもGSPだ。
また、その対戦相手のアベレージの高さもアンデウソンのそれと比較して、上回っているといっても語弊はないだろう。04年1月に初めてUFCオクタゴンに登場して以来、一度だけ地元モントリオールのTKOのリングに上がっている以外は、キャリアの全てをUFCで過ごしてきた(UFC戦績は10勝2敗)。
敗戦のうちの一つは、GSP自身が経験不足を認めた3戦目のマット・ヒューズへのチャレンジ。もう一つの敗戦は今も世紀の大アップセットとして記憶に新しいマット・セラ戦での敗北だ。
だが、敗北を与えてくれた両者には、その後しっかりとリベンジを果たしているGSP。彼がUFCで破ってきた他のファイターは、DREAMで名を馳せるジェイソン・メイヘム・ミラー、戦極のリングに上がり“三崎を破った”フランク・トリッグ、IFLウェルター級王者ジェイ・ヒエロン、BJ・ペン、ショーン・シャーク、ジョシュ・コスチェック、カロ・パリシャンら強豪ぞろい。
GSPの勝利の特徴は、そんな彼らを相手に圧倒的な勝利を挙げていること。BJ・ペン戦以外は、一進一退の攻防などなく、常に先手を取り、ピンチに陥ることなく勝利を掴んできた。
最近ではなぜか士道館の文字が入った道衣を着用しているが、極真空手出身でノヴァウニオンの強豪柔術家ヴァグネイ・ファビアーノに柔術の手ほどきを受けてきた。以降、BTTやヘンゾ・グレイシーの下でグラップリングの技術を磨き、レスリングではロシア出身のコーチの下でトレーニングを積み、カナダの五輪代表ととも練習を重ねてきた。
あのエディ・アルバレスともトレーニングを積む予定があるというGSP。このオクタゴンの支配者=ルーラーが、9日に対戦するのは無冠の帝王ことジョン・フィッチとなる。
王者GSPのキャリアが14勝2敗なのに対し、フィッチは21勝2敗。UFCに限っていえば、8勝0敗というパーフェクトレコードを残しており、チアゴ・アウベス、弘中邦佳、ジュカォン・カルネイロ、ディエゴ・サンチェスらを破ってきた。
ミドル級はおろか、ライトヘビー級でも通用しそうな体格をハイパー・ダイエットでウェルター級にカットし、カレッジ・レスリングで培った抜群のテイクダウン能力を武器に、ここまで勝ち上がってきたフィッチ。
地元インディアナから、MMAでの成功を求め、アメリカン・キックボクシング・アカデミー(AKA)で練習するためにベイエリアのサンノゼに移り住んで5年。キックの名伯楽ハビ・メンデス、MMAを念頭においた柔術マスター=デイヴィッド・カマリロの指導を受け、抜群の距離の作り方、そして組み技のディフェンスを駆使し、モンスターの異名をとるまでの強さを見せるようになった。
打撃が冴え、テイクダウンとパスガードの強さに定評ある王者GSPに対して、挑戦者は鉄壁のカウンターアタックの実践者といえよう。
フィッチについて、不安点を探るのであれば、今年3月のクリス・ウィルソン戦で見せた戦い方になるだろう。地味という評判を気にしたのか、ハイキックや攻めの寝技を繰り出し、ややチグハグは動きとなり、試合は判定までもつれこんでしまった。
無名の強豪ウィルソンが対戦相手という点を差し引いても、本来の強さが見えなかったフィッチ。とはいえ、勝利至上主義のAKA、客席が静まりかえろうが、選手権試合では自らのやるべきこと、勝利への方程式はできあがっているはず。
全てにおいて穴のないGSPだが、ジェイ・ヒエロンやメイヘム・ミラー戦を上回るフィジカルの違いは脅威。フィッチがサンチェス戦で見せた鉄板のカウンターアタックを繰り返せば、新王者誕生もおおいにありえる、それが9日のUFCウェルター級選手権試合という訳だ。