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【Pancrase351】新フェザー級KOP三宅輝砂「格闘技を始めた頃から、新しい何かを考えるのが好きでした」

【写真】取材は名古屋市中区新栄のZOOMERフィットネスジムにて(C)SHOJIRO KAMEIKE

2024年12月15日(日)、東京都港区のニューピアホールで開催されたPancrase351で、三宅輝砂が平田直樹をKOして空位のフェザー級KOPのベルトを巻いた
Text by Shojiro Kameike

当初は平田とキム・サンウォンの間でKOP王座決定戦が行われる予定だったが、キム・サンウォンはPFL出場が決まり欠場に。代わりに三宅が平田とベルトを争うこととなった。過去の実績でいえば平田が有利とみられた試合で、三宅は平田をわずか72秒――右ヒザ蹴りでマットに沈めている。あれから1カ月、名古屋の三宅を訪ね、衝撃の王座奪取劇の裏側で何が起こっていたのかを訊いた。そこには考え続けた末にベルトを巻いたファイターの姿があった。


こんなに簡単に勝っちゃうんだ……

――昨年はベルト奪取、おめでとうございます。

「ありがとうございます!」

――タイトルマッチは誰も予想できなかったであろう試合内容でした。試合直後、三宅選手も「実感がない」と仰っている動画がYouTubeにアップされています。

「そうなんです。勝った瞬間は『こんなに簡単に勝っちゃうんだ……』とビックリしました」

――その「簡単に」とは「楽に」という意味ではなく。

「はい。当たると思って出したヒザ蹴りではありますけど、倒れちゃった――僕自身が考えるよりもヒザ蹴りが効いた、という感覚で」

――あのヒザ蹴りは倒すためではなく、テイクダウンに来る相手への牽制だったのですか。

「はい。倒そうと思って出したヒザではなかったです」

――なるほど。今回のタイトルマッチは、PFL出場が決まったキム・サンウォンの代役として平田選手との王座決定戦に臨みました。

「このタイミングで僕がタイトルマッチに出場するとか、全く考えていなかったですね。本当にラッキーだなと思っていました」

――三宅選手のキャリアを考えると、タイトルマッチまでは上位ランカーともう1~2試合は必要ではないかと思っていました。

「実は12月大会って、もともと他の選手との試合が決まっていたんですよ。でも相手の負傷で試合が流れて。そうしたらキム・サンウォンのPFL出場が決まって、空いている者同士のタイトルマッチに――と言ったら良くないかもしれないですけど」

――三宅選手としても、もう1~2試合やって自分の実力を確かめたいと……。

「確かめたい、という気持ちはなかったですね。あの段階では『平田選手は強い。まだ自分は勝てない』と思っていて。正直、タイトルマッチが決まった時は『自分にはまだ早い』と考えていました」

――試合直後の動画ではベルトを抱えながら「防衛したくない。返上したい」とも仰っていました。

「あぁ、あれは――5分5R戦いたくないなって(苦笑)」

――アハハハ。

「これからは追われる立場か、って考えていなかった展開になりましたからね」

僕の左ジャブには秘密があって、まだ誰も気づいていない

――前回のインタビューから、三宅選手の試合内容も大きく変わってきたかと思います。まず2023年3月に中田大貴戦で敗れたあと、同年11月の櫻井裕康戦は新鋭同士の白熱した試合展開になりました。結果は三宅選手がRNCで一本勝ち。正直なところ三宅選手に対して、あれだけ白熱した試合展開を見せる印象がなかったです。

「アハハハ、あの試合から連勝が始まりましたね。技術的に何か大きく変わったわけではないんです。技術に関しては積み上げてきたものが大きかった、という感じで。

それよりはメンタル面の変化が大きいです。今までは持っているものを試合で出すことができなかった。でもメンタルで余裕が生まれたことで、練習通りの動きを出せるようになったと思います」

――櫻井戦の前までは、行ける時に行けないということもあったのですか。

「そもそも試合が好きじゃなくて。なるべく試合はやりたくなかったんですよ」

――えっ!? ではなぜプロになったのですか(笑)。

「プロになっちゃった、試合するしかないかなという感じでした。もともと格闘技は好きで、練習もクラスの指導をさせてもらうのも好きなんです。そんななかで試合に出る理由は、『自分の可能性を知りたい』というのが一つ。もう一つは練習している技術の証明をしたい、というものでした。練習している内容を証明するには、試合に出るしかないですから」

――メンタル面が変わったのは、何かキッカケがあったのでしょうか。

「特に大きなキッカケがあったわけじゃないけど、やるからには悔いを残したくない。応援してくれる人たちに喜んでもらいたい、と思いました」

――そうだったのですね。櫻井戦の次は昨年2月に大阪で名田英平選手をKOしました。あの大会ではメインとコメインともに左ジャブで削り続けて倒す、という珍しい展開でした。

名田戦は左ジャブで削り続けた末、左ボディで仕留めた。ジャブを効かせる秘密はーーぜひ試合を観て探してほしい(C)SHOJIRO KAMEIKE

「コメインの葛西和希選手も左ジャブで削っていましたね。あの時、僕の左ジャブには秘密があって――細かいことは言えないけど、まだ誰も気づいていないだろうなと思っています」

――左ジャブの秘密! それは名田戦の前に気づいたことですか。それとも以前からやっていたことが試合で出たということでしょうか。

「あの試合から打ち方を変えました。しかも試合直前に思い浮かんで(笑)」

――試合直前に! それは凄い。

「相手も分からないから、あれだけ当たったんじゃないですかね。自分でも試合中に『これはヤバい打ち方を見つけてしまった』と思っていました。でも直前に思いついたことを試合で出すことができたのも、やっぱり普段から左ジャブの練習をし続けたおかげです。

ボクシングはアマチュア出身の方に教わっていた時、練習相手に高校3冠の選手がいたんですよ。そこで伸びる左ジャブを教えてもらい、今はその応用でやっています」

――さらに右カーフも効かせるようになりました。この左ジャブと右カーフがあるおかげか、距離のつくり方から変わり、試合で安定した力を発揮できるようになったかと思います。

「カーフキックも昔から練習していたんです。左ジャブとの連携ができるようになって、より得意になっていきましたね。だから2024年はどんどん自分の気持ちも変わってきたし、プロ意識も芽生えてきたと思っています」

――昨年7月の石田陸也戦は左ジャブと右カーフ、つまり上下の攻撃があるからこそド真ん中に三日月蹴りが炸裂しました。

「あのカーフにも三日月蹴りにも秘密があるんですよ」

――秘密ばかりじゃないですか!

「フフフ、そうなんです」

――そうした秘密の技は、自分自身で思いつくのですか。それとも他の選手の試合から影響を受けるのでしょうか。

「自分で思いつきます。たとえば最初は左ジャブが当たらない。『当てたいな。どうやったら当たるんだろう?』と考えて、いろんな方法を思いついて何度も試していくんです。もちろん同じ当て方をしている選手もいたりはしますけど、それも自分で思いついたあとに分かるというか」

――三日月蹴りは何度も失敗していると、足の指を骨折しませんか。

「実は骨折しない蹴り方を思いついたんですよ。秘密ですけど、フフフ」

――まだまだ出していない秘密がありそうで、今後が楽しみです。

「そうですね。たぶん秘密が分かっても、次の試合までには新しい何かを思いついているでしょうし。良い感じで進んできているので嬉しいです」

――もともと格闘技だけでなく、考えること自体が好きですか。

「好きですね。それだけやっていたいぐらいです。試合には出ずに(笑)」

5Rの試合でも、できるだけ早く仕留めたい

――先ほど「試合に出たくない」と仰った気持ちが分かりました。とにかく格闘技を追求していく、武道家のような感覚ですね。

「そうかもしれないです。格闘技を始めた頃から、新しい何かを考えるのが好きでした」

――格闘技以外では?

「カメラが好きなんですけど、まずメッチャ調べてからカメラを買って。そこから構図や編集方法を調べたりするのが好きです」

――分かります。自分もこの仕事を始めた頃は、まずセンスを磨くよりもカメラの性能を学ぶことから始めました。

「そうじゃないと理解できないし、発展しないですよね。あとビリヤードが好きで、ビリヤードも動画を視て研究したりします。ジムの指導もそうです。自分が考えていることだけじゃなく他の選手の試合映像を視て、それをどう分かりやすく会員さんに説明できるのかを考える。すると自分の中に、他の選手の技を落とし込むこともできて」

――お話を聞いていて、試合時に仕留めに行くイメージとのギャップに驚きました。

「本当は根暗で気弱な人間なんです。アハハハ」

――それだけ考えることが好きだと、もう5R対策も考えているのではないですか。

「……、……、……そこはあまり考えずに」

――今「やっぱり5Rはやりたくない」という表情を浮かべましたね(笑)。

「アハハハ! 5Rの試合でも、できるだけ早く仕留めたいですね。やることは変わらないと思いますし。今の左ジャブが当たり続ければ、相手も2Rには耐えられなくなるでしょうし。平田戦も左ジャブさえ当たれば、いずれ相手も削れてくると考えていました」

――組みはNTT=寒天練習でも練習しているのですか。

「NTTと、週1回はstArtの練習に参加させてもらっています。タイトルマッチでは日沖さんの存在がメチャクチャ大きかったです。タイトルマッチが決まって、日沖(発stArt代表)さんに週1回のパーソナルトレーニングをお願いしたんですよ。そこで戦略を考えてもらったり、あとは特にメンタルのつくり方が勉強になりました。『やっぱり世界で戦ってきた人は凄いな』って思いました。僕の中では、そこで変わりましたね。前回の試合に向けてお願いしていたことですけど、また試合が決まればお願いしたいと思っています」

――なるほど。その次の試合というのは……。

「まだ発表されていないんですけど、○月に××と対戦することになるかもしれません。絶対に殺してやろうと思います」

――殺してやる、って……先ほどまでの冷静な語り口から、ギャップが凄すぎです(苦笑)。

「根暗で気弱だからこそ、ですよ(笑)。ただ××のことはマジで嫌いなので、絶対に殺してやります」

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