【DEEP119】倉本大悟戦へ、北岡悟の“ひらめきの打率”「確変が起きるとしたら引き出しが勝手に開く時」
【写真】MMAを語る時の北岡の言語感覚や表現方法は非常に興味深い(C)TAKUMI NAKAMURA
3日(金・祝)に東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP119 Impactにて、北岡悟が倉本大悟と対戦する。
Text by Takumi Nakamura
2023年11月の泉武志戦に敗れて、3勝1敗という成績で1年を終えた北岡。泉戦後に生活環境も大きく変わり、今回の倉本戦を迎えることになった。この試合を技術的に語る際、北岡は“札を切る”や“ひらめきの打率”という表現を使った。そして北岡が「5月3日の金曜日に答えが出る」と語る一戦だからこそ、このインタビューを読んでいただきたい。
――北岡選手、インタビューとしてお話するのはかなり久々です。これまで数えきれないくらい取材を受けてきたと思うのですが、昔はこういうことを言おうと考えたり、用意していたりしたのですか。
「そうですね。あとそういうことが好きだったんですよ。試合に向けて日々を過ごす中で浮かぶ言葉をフレーズにして。今はSNSでそれを発信できてしまうので、その必要性がなくなった部分はありますよね。でも僕はあえてSNSでは出さずに、あえて取材で出すという“とっておき感”を持ってやってはいます」
――今は試合前後にYouTubeで自分の言葉を発信する選手も多いので、取材する側も質問する内容であったり、インタビューのテイストはより考えなければいけないなと思っています。
「自分のような考えが時代的に抜き去られたというか追いやられたということも感じつつ、それでも自分のことを見てくれている人たちのためにやっているし、そういう人たちがいるからこそ頑張れている・継続できているし、そういう人たちが期待…なのかどうかは分からないけど、それに返したいと思ってやっていますからね。もちろん生きるため、自分がやりたいから(格闘技を)やってはいるんですけど、周囲の視線みたいなものは常に感じています」
――さて試合についてですが、昨年11月の泉武志戦以来、約6カ月ぶりの試合となります。このくらいの時期に試合をしたいという希望はあったのですか。
「11月の泉戦が自分の中ではコンディションが良いつもりで挑んだけれど、なかなか自分に失望する試合でした。めちゃくちゃやられた試合でもなく、当時SNSで『負けたけど負けてない』と発信したんですけど、負けは負けで。結構気持ち的にダメージがありました。プライベートでも引っ越しして同居が始まって、43歳~44歳にして生活環境が変わるのはハードだし、今の環境で強い自分を作れるのか?と。年齢を言い訳にはしたくないけど、それは現実なので、そことの向き合いでしたね。泉戦の直後はDEEPに『すぐ試合をやりたい』と伝えて、早くても3月になると言われて。最初はそのつもりでいたんですけど、具体的な話をするなかで5月に変えてもらったんです。ジムのことや生活環境のことを考えて、3月に試合するのは愚行だと」
――練習環境よりも生活環境の変化は大きいですよね。
「言って僕も自分勝手に生きてきた人間で、そもそもの自分の優先順位が変わったんですよ。明言できないくらい変わったものがあって。だから(結婚や生活環境の変化は)結構な変革だったんです。奥さんは変わらず自分がやることを許してくれる・理解してくれている人なので、そうさせてもらっているんですけど、だからこそそういう人を大事にしないとなって。どうしても惚気というかそういう話になっちゃうんですけど。だから背負うものだけはどんどん大きくなりますよね。ジムを持って家庭も背負うことになったので」
――そのなかでどうこれまでと変わらない練習を続けてきたのですか。
「2人の生活のリズムのなかでの練習のやり方もそうだし、加齢によってコンディション的に変わることもそうだし、時間をかけたことで取り組み方が見えてきましたね。ちょうど2月に彼女が実習でいない期間もあったりして、戻ってきた3月くらいに『このリズムだったら(試合用に)作ることができる』という感じになった。だから5月が試合できる状況としては最速だったし、3月はやっぱり無理だったと思います。ただそれで試合をやってみて結果が出なかったら不正解になるわけですから、そこは5月3日の金曜日に答えが出ます」
――試合に向けて気持ちを作るという部分はいかがでしょうか。
「それも5月3日の金曜日に答えが出るでしょうね。やっぱり試合に向けて練習していればアップダウンがあるわけですよ。それこそ年齢とキャリアを重ねてアップダウンがあること自体を分かっているので、そのうえで試合まで作っていきます。まぁ…それが分かっていてもダウンの時は嫌なものですけど(苦笑)。ただダウンの時の自分を知らない若さ=強みにもなるし、それこそ次の相手(倉本大悟)はキャリアで1敗しかしていなくて、イケイケなわけじゃないですか。そういう淀みのない、フレッシュな選手ですよね」
――倉本選手は今年30歳、キャリア的にも6戦5勝1敗で、怖さや負けを知らないことの強みはあるでしょうね。無知の強さというか。
「無知…なんだろう?(少し考えて)気づいていない強さですよね。気づきがない強さ。それだな」
――その気づきがない強さが一発勝負では良い方向に出るのが格闘技じゃないですか。
「そうでしょうね。経験は武器にだけなるわけじゃないから、それは重々承知しています」
――もちろん北岡選手は経験を武器にするために色んな取り組みをしているわけですよね。
「色々と勉強は出来ていますよ。それが競技で勝つうえで武器になるかどうかは分からないのかもしれないけどい、武器にするべくやってはいるし、なるように取り組んではいます。気合いだけでも駄目で、小手先の技術やごまかしだけでも駄目、その両方が必要で、なんなら運も必要じゃないですか」
――ありきたりな表現になるので嫌なのですが“持っている”ことも必要だ、と。
「それを測るには表に出なきゃ駄目なんですよ。表に出ないと“持っている”かどうかすら分からなくなるので。表に出ずに存在し続けていれば、それこそ老害ですからね。話題を変えて技術の話でもしましょうか」
――分かりました。では今回の試合に向けて北岡選手は技術的にどのようなことを考えているのですか。
「僕的には大木良太戦はせこく勝ち切ることが出来て、泉戦は勝ち切る試合ができなかった。かつ試合としてつまらないというか。もっとエンターテインメントでありたいという気持ちもあるので。勝つために一生懸命やることがエンターテインメントだと信じて疑わないんですけど、それでいて技の札が出るものであってほしい思っています。結局大木戦も泉戦も、相手は僕の良さを消すために札の交換をしないという選択をしてきた。今度の相手も同じ選択をする可能性もあるけど、キャリアが浅いから、そこまで気にせず札を切り合って来るかもしれない。相手がどちらの選択をしてきても戦える準備はしています」
――北岡選手のキャリアの多くは札の交換をしない・切ってこない相手との戦いですよね。
「はい。多く…というかほぼそうですね(苦笑)。僕は自分からエイヤ!エイヤ!と札を切ってきて、すべての試合がそうだとは言いませんが、ほとんどの試合でそうして来ましたから」
――その中で今の北岡悟というファイターは手札を多く持っている方がいいのか。それとも強烈な1枚を持っている方がいいのか。
「いいこと聞きますね。いたずらに手札が増えてしまったところはあると思います。この相手だったらこの札を切るべきだったと思うこともあれば、用意していた札を出さずじまいで終わったこともある。それが老いなのかもしれませんが、ひらめきの打率って言うんですかね、その打率が落ちた・外してしまった試合は枚挙してしまうぐらいの感じではあります。特にパンクラスイズム横浜を作ってからは。でも今その辺りのセットアップはやれているのかなと思いますね」
――具体的なことは聞けませんが、北岡選手がどんな手札を持っているのかは気になります。
「確変が起きるとしたら引き出しが勝手に開くときだし、だからこそ引き出しを整理することが練習では必要なわけですよ。過去の試合を見る……とも違うし、やっぱりそこは練習なんです。八隅さんが優秀なのは僕が自然にやっていることやひらめきでやっていることを理屈で説明してくれるところですよね。あとたまたまInstagramにも書いたんですけど『馬鹿になれ』と。ああ…そうかと。アントニオ猪木は偉大ですね」
――そういったこともすべてひっくるめて、試合後にまた北岡選手に話を聞きに来たいと思いました。
「ありがとうございます。だからこそ勝たないといけないですね」
■視聴方法(予定)
5月3日(土)
午後5時50分~YouTube DEEP/DEEP JEWELSメンバーシップ、U-NEXT、サムライTV
■ DEEP119対戦カード
<64キロ級/5分3R>
元谷友貴(日本)
平松翔(日本)
<メガトン級/5分3R>
水野竜也(日本)
ANIMAL☆KOJI(日本)
<ライト級/5分3R>
北岡悟(日本)
倉本大悟(日本)
<フライ級/5分3R>
村元友太郎(日本)
KENTA(日本)
<フライ級/5分2R>
関原翔(日本)
マサト・ナカムラ(日本)
<バンタム級/5分2R>
日比野“エビ中”純也(日本)
木下尚祐(日本)
<バンタム級/5分2R>
窪田泰斗(日本)
橋本優大(日本)
<アマチュア70キロ契約/3分2R>
信原空(日本)
小沼魁成(日本)