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【ECI06】身長149センチの猛者エステヴァン。D1AAレスラー、柔道&ノーギワールズ王者テラオに要注目!!

【写真】スーパーアグレッシブなエステヴァン・マルチネス。高橋はとんでもないグラップラーと相対することになるかもしれない(C)WNO/CLAYTON JONES

29日(土・現地時間)、ニューヨーク州シセロで開催されるEmerald City Invitational06のバンタム級トーナメント展望後編。
Text by Isamu Horiuchi

高橋Submission雄己が出場する32人制ワンデートーナメントには、日本では無名でもとんでもない力量を誇るグラップラーたちが参戦している。そんなECI06バンタム級T優勝候補筆頭と目されるのは、ベガス出身にしてZRチーム所属、21年のノーギワールズ最軽量級王者のエステヴァン・マルチネスだ。発表されている身長が4フィート11インチ(149.85センチ)と軽量級選手のなかでもことさら低く、太く低い手足を持つタンクのような選手だ。

<ECI06展望Part.01はコチラから>


戦い方はきわめてアグレッシブにしてダイナミック。スタンドでは積極的にダブルやシングル、ファイアーマンズキャリー、アームドラッグ等を繰り出し、たとえ潰されて下になっても簡単には抑え込ませず、動き続けてスクランブルでトップを取り返す力がある。

相手が下になれば側転、ニースライス、かつぎと矢継ぎ早にパスを仕掛け、上から滑り込んでのベリンボロでのバック取りや跳びつき三角、上からダイブしてのキムラやギロチンも狙う。リスクを厭わないスタイル故に相手にバランスを崩されることも多いが、持ち前の瞬発力と反応速度、ボディバランスと重心の低さをフル活用してトップをキープし攻撃を続け、相手を疲弊させてゆく。

ベイビーシャークが頭一つ大きいって──どういうこと?

何より特筆すべきは、体型も味方に付けての一本負けの少なさだ。

マイキー・ムスメシと対戦した際にも再三の足関節狙いを凌いで判定に持ち込んでおり、ジオゴ・ヘイスやコール・アバテといった、二回り大きい軽量級世界最高峰からも一本は許していない。6分という制限時間内にこの選手から一本を奪うのはきわめて困難だろう。

その上強烈なチョークを得意としていて、バックを奪われた状態からスピンして逃れる瞬発力にも長けているので、OTへの適性も悪くない。

階級上のキース・クレコリアンとのOT戦においては、四の字ロックを作ることができず3度連続で高速エスケープを許して敗れてはいるが──エステヴァンを誰が止めるのかが、この大会の第一の軸となりそうだ。

実は、このエステヴァンと一昨年の今大会フェザー級トーナメントにて対戦し、あと一歩のところまで追い詰めた選手がいる。20歳のキャメロン・メロットだ。

大会主催のエメラルドシティ柔術と同じヒカルド・アウメイダ・アソシエーション傘下にして、トム・デブラス率いるオーシャンカウンティ柔術所属。昨年のノーギワールズ紫帯ライトフェザー級3位と、帯色や実績では他のトップ選手には及ばないが、そのガードワークはまぎれもなく一級品だ。

前述のエステヴァン戦では、怒涛のアタックに対して下から足を効かせ続けてパスを許さず、逆に足を取りにゆく場面もあった。やがてクローズドから体をずらして見事にバックを奪うことに成功し、首に深く腕を食い込ませてあわや大金星かという場面まで作った。

執念でエスケープを果たしたエステヴァンの粘りの前に試合がOTにもつれ込むと、レフェリーから優勢と判断されて先攻後攻の選択権を与えられたのはメロットの方だった。結局OTの第2ターンでチョークを極められて敗退したが、見る側が──仮定の話をしても仕方ないとは知りつつも──「もしEBIルールでなければ…」と思ってしまうほどの大健闘だった。

このメロットのような、まだ世界的には無名だが大きな可能性を秘めた若手選手を見つけるのも、このトーナメントの見所だろう。

さらに他競技でも実績を挙げている選手として、ライアン・ホールの50/50柔術所属のデイヴィッド・テラオにも注目したい。「スタンフォード」というとても賢そうなミドルネームを持つこの日系人選手は、ワシントンDCにあるアメリカン大学在学中の16年に、NCAA Division 1のオールアメリカンに輝いている。

さらに柔道でもハワイ州の高校王者であり、現在も米国チームの一員としてIJF主催の国際試合で活躍中。昨年チュジニアで行われたアフリカンオープンでは4試合を勝利して準優勝、さらに今年キューバで行われたパンアメリカンシニア(21歳以上)オープン大会では、4試合中3試合を一本勝ちで優勝に輝いている。

グラップリングでは、色帯時代には三角絞めや足関節で敗れる姿も見られたが、着実に戦績を伸ばしてゆき21年ノーギワールズの茶帯ライトフェザー級で優勝。

決勝は自らシッティングガードを取り、一瞬で相手を引き込む三角絞めで攻め込んだ。終盤は逆転を期した相手が下からワキを差して上を取りに来たところをウィザーからの内股で防ぎ、逆に小内刈りと相手の足を内からすくう合わせ技で倒して上をキープするという──レスリング&柔道の技術を存分に活かしての勝利だった。

なお、大会後に師のホールから黒帯を授与されたことを受けてテラオは、日本人である祖父が教えてくれたという「arigatai」という言葉を用いて、今まで格闘技で出会った人々に感謝の気持ちを表現している。

黒帯取得後も柔道と並んでIBJJF系の大会に精力的に出場しており、昨年12月のノーギワールズでは初戦を突破して準決勝で世界柔術準優勝のカーロス・アルベルトと対戦。残り数秒で三角に捕まるまでポイント0-0、アドバンテージ2-3の好勝負を展開し銅メダルを獲得している。

テラオのようなレスリングや柔道の強力なバックグラウンドを持つ選手が、細かい技術への対応を身に付けた時には脅威と化すのは間違いない。それがサブミッションオンリーという舞台で、他の柔術グラップリングベースの選手たちとどのような化学反応を見せるのか。またOTとなった時に、テラオが柔道で培った極めをいかに活かすのかもきわめて興味深い。

もう一人知名度のある選手として、マニー・ヴァスケスも注目したい。現在サウスカロライナ州の10th planet グリーンヴィル支部を主催するヴァスケスは、もともとはBellatorやダナ・ホワイト・コンテンダーシリーズ(1stシーズン、第1週&第1試合に出場しジョビー・サンチェスに敗れる)にも出場した実績のあるMMAファイターだ。

18年5月までに12勝3敗の戦績を残しており、19年2月にはベラトール215で元王者のエドゥアウド・ダンタスとのキャリア最大の大勝負が予定されていたが、詳細未発表の負傷を原因に欠場。以降2年以上戦線から遠ざかっていたが、21年5月にコンバテ・グローバルで復帰戦が決まった際、実は悪性リンパ腫(がん)の治療を行なっていたことを明かした。

過酷な抗がん剤治療を乗り越えて臨んだこの試合に惜しくも判定1-2で敗れた後は、グラップリングに専念している。

MMA出身者らしくトップからの圧力で相手の攻撃を封じてゆく戦い方を信条とするヴァスケスは、昨年9月に行われたEBI形式の大会Midwest Finishers 9を制覇。決勝戦でも本戦で終始トップを維持する安定感のある戦いを見せ、OTでバックから極めた後にエスケープを果たしての優勝だった。

またその前の月には、今大会優勝候補筆頭のエステヴァン・マルチネスともワンマッチで対戦しており、敗れたものの最後まで極めさせず判定に持ち込んだ。後半はパスを許してバックも奪われてしまい、組技の地力はエステヴァンが勝っていることを印象付ける内容ではあったものの10th planet勢が研究を重ねるOTが採用されている今大会で再戦が実現した場合、どうなるかは分からない。

以前EBIでジョー・ソトがジョアオ・ミヤオをOTで下したことがあるように、MMA畑のファイターはOTへの適性が高いことが多い。

以上紹介した以外にも、さまざまなメンバーが顔を揃えたこのトーナメント。エントリー選手たちの所属道場を見るだけでも、アトス、AOJ、ヘンゾ系列、デイジー・フレッシュことペディゴ・サブミッション・ファイティング、ATT、10th planet各支部、普段はセルフディフェンスを中心に練習を行なっているホイス・グレイシー系列道場等、豪華絢爛にして百花繚乱、米国グラップリングシーンの裾野の広さが窺われる。この中にあって、今成柔術のバナーを背負って単身日本から乗り込む高橋が快進撃を見せてくれるなら、これほど痛快なことはない。

選手としてだけでなく、常に日本の業界全体の将来を視野に入れて活動する高橋。その彼が北米の最先端と触れ合うこの大会から、何を感じて何を持ち帰るのか。結果がどうあろうと、今後の日本のグラップリング界に少なからぬ影響を与えてほしいものだ。

■視聴方法(予定)
4月30日(日・日本時間)
午前6時00分~Flo Grappling

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