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【UFC330】展望 10年間無敗のマカチェフ×妻のマインドコントロール?!で不人気ギャリー。シャポリンも

【写真】自己主張は毒にも薬にもなる。それにしての丸裸にされる世の中だ (C)Zuffa/UFC

15日(土・現地時間)、ペンシルベニア州フィラデルディアのエクスフィニティ・モバイル・アリーナにて、UFC 330:「Makhachev vs Machado Garry」が開催される。
Text by Isamu Horiuchi

(C)Zuffa/UFC

新王者マッケンジー・ダーンにジリアン・ロバートソンが挑む女子ストロー級王座戦をコメインとする今大会。プレリミの130ポンド契約で、エドゥアルド・シャポリンがショートノーティスで待望のオクタゴン初陣を迎える。

キャリア15勝2敗、11のフィニッシュ勝利を挙げているシャポリンは2023年11月にLFA王座に就くと、昨年8月に暫定王者イゴール・シケイラを破って王座統一し、TUFシーズン33にトライした。しかし、チーム・コーミエーの#01ピックだっが、同シーズンを制することになるジョセフ・モラレスに初戦で敗れてしまう。

その後TUFで知り合ったダニエル・コーミエーの指導を受けるようになり、レスリング面を強化し、昨年8月にはデヴォン・ロジェイから初回KO勝ちを収めLFAフライ級王座防衛戦に成功。その僅か11日後にコンテンダーシリーズにショートノーティスで出場し、アン・トゥアン・ホーから判定勝ちを収めながら、契約はならなかった。

(C)Zuffa/UFC

この1年、LFAのケージで戦うこともなかったシャポリンが、苦節10年――ついにUFCで戦う。対戦相手は奇しくも元LFAフライ級王者のチャールズ・ジョンソンだ。

ここの勝者が今後、日本勢と絡むことも十分にあり得る130ポンド契約マッチにも注目したい。そんなUFC330のメインは2階級制覇の王者イスラム・マカチェフに、イアン・ギャリーが挑むウェルター級タイトルマッチだ。


マカチェフはUFCで16連勝となり、伝説のミドル級王者アンデウソン・シウバの記録に並んだ

(C)Zuffa/UFC

約10年間無敗の王者マカチェフは、2022年10月にシャーウス・オリヴェイラを2R肩固めで仕留めてライト級王座に輝くと、そのベルトを4度防衛(3フィニッシュ)して絶対政権を築き上げた。その後ベルトを返上し、昨年末にウェルター級王座に挑戦。ジャック・デラマダレナから全ラウンドにてテイクダウンを奪うと、強烈無比なトップコントロールで試合を完全支配し、判定3-0にて2階級制覇を成し遂げた。

この勝利にてマカチェフはUFCで16連勝となり、伝説のミドル級王者アンデウソン・シウバの記録に並んでみせた(ちなみにマカチェフの兄貴分カビブ・ヌルマゴメドフは生涯戦績29戦全勝で引退したが、UFCでの連勝は13に留まっている)。今回勝利すれば、マカチェフは単独トップに躍り出ることとなる。

長年パウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングのトップ3をキープし続けてきたマカチェフ。近年、重量級で無敗を誇ったジョン・ジョーンズが引退し、さらにマラブ・デヴァリシビリ、カムザット・チマエフ、アレックス・ポアタン・ペレイラ、イリャ・トプリアといったPFP上位勢が軒並み敗れたことで、現在2位以下を大きく引き離してPFPランキングを独走している。現在34歳、世界が恐れるダゲスタン軍団のエース=マカチェフこそ、この地球上の全MMA人口の頂点に君臨する存在だ。

対する挑戦者のギャリーは、幼少時からボクシングをはじめ、やがて同郷の不世出のスター、コナー・マクレガーに憧れてMMAを志した選手だ。21歳でプロデビューし、7戦全勝でケージ・ウォリアーズのウェルター級王座に。2021年11月にUFCデビューし、さらに連勝を重ねていった。勝利後にマクレガーを模して胸を張り両腕をだらりと下げて行進し、インタビューでは名言「We’re not here to take part, we’re here to take over!」を使う等、マクレガーの栄光を継ぐ男としての自己演出も頻繁に行っていた。

そして2024年12月のUFC320──フライ級王者のアレッシャンドリ・パントージャが、UFC初参戦にしてタイトル戦に抜擢された朝倉海を2Rチョークで仕留めた舞台──のコメインにてギャリーは、やはりここまで全勝のシャクハト・ラクモノフとのタイトル挑戦権を賭けた大一番に挑んだ。

実力拮抗の激闘の末に迎えた最終回、ギャリーはラクモノフのテイクダウンを切り返してバックを奪取し、チョークを深く食い込ませた。しかし驚異的な身体の力を誇るラモマノフは、足のフックが効いているにもかかわらず正対して上になり、難を逃れた。結局、1,2,4Rにテイクダウンを取ったラクモノフが3者とも48-47の判定で辛勝。が、1,2Rはごく僅差の内容であり、トータルマストだとギャリーの勝利では、と思わせるほどの接戦だった。全勝対決に敗れてなお、ギャリーは世界トップクラスの実力を証明した。

その後カルロス・プラチス相手に打撃で距離を支配し、テイクダウンも決めて快勝したギャリーは、続く昨年11月、前王者のベラル・モハメッドと対戦。鋭い左ジャブや右の前蹴りを当てて距離を保ち、組み付かれても振り解き、一度もグラウンドに持ち込ませずに判定3-0で完勝した。

試合後のインタビューでは、1週間前にウェルター級王座に就いたマカチェフに「ベラルは俺をテイクダウンできなかった。マカチェフよ、俺をテイクダウンしてみろ! お前はウェルター級世界ベストの俺と戦う義務がある」と王座戦をアピール。申し分ない実績を積み上げて、今回初挑戦が実現した。

ファンはギャリーを「マクレガーの道を歩む男」とは断じて認めていない

さて、この試合において興味深いことが一つある。それは今回、多くのファンがUFCの提示する「公式ストーリー」をこぞって拒絶していることだ。

マカチェフは兄弟子であるヌルマゴメドフの無敗のレガシーを守り続ける男であり、ギャリーはマクレガーの再来を自認する新鋭だ。故にUFCが製作したカウントダウン映像でも、この試合を、2018年に総合格闘技史上最高のPPV売り上げを記録したスーパーファイト──ヌルマゴメドフ×マクレガーの続編とする見方が提示されている。以降現在まで続くダゲスタン・グラップラーズによる絶対政権に、一敗地にまみれたアイルランドが輩出した新星ギャリーが8年越しのリベンジを挑む…というスケールの大きい物語だ。

しかしSNS上のファン達の反応を見るに、そのような物語を受け入れ興奮する声を見つけるのは難しい。代わりに圧倒的に目立つのは、むしろこの公式の物語を「作り物」として拒絶する、あるいは一笑に付すような態度だ。

その理由はギャリーが、選手の言動を追う熱心なファン達からは、驚くほど「不人気」な選手だということにある。彼らは、マカチェフが背負うレガシーは認めても、ギャリーを「マクレガーの道を歩む男」とは断じて認めていない。

反感を買っているのはギャリーの戦いぶりというより、オクタゴン外での言動だ。マクレガーよろしく頻繁に対戦相手にトラッシュトークを仕掛けるギャリーだが、本家のように人を魅了することはできず、嫌悪感を抱かせることがしばしばだ。特に2023年8月のニール・マグニー戦前に、マグニーが「父親として懲らしめてやる」と語った言葉尻を捉えて「お前のような児童虐待者に発言権はない」と非難した件は、人々のギャリーに対する印象を大きく悪化させた。

加えてギャリーが14歳年上の女性と結婚しており、その女性がかつて「WAGになる方法」(WAGとはwives and girlfriendsの略で、スターアスリートの妻や彼女として華やかな生活を送る女性という意味だ)という短いパンフレット本を著したことがあるという事実も、そのネガティブイメージに拍車をかけている。ギャリーは妻にまんまと捕まり虜にされてしまい、その筋悪なトラッシュトークも、全て彼女が裏で指示してやらせているに違いない、というわけだ。

つい数週間前にも、ギャリーの口は「炎上」を招いている。とあるインタビュー動画番組に出演したギャリーは、両親は自分に体罰を行った、母親は自分のMMAキャリアを応援してくれなかった等と実の家族を批判。対照的に、全面的に自分をサポートしてくれる現在の妻がいかに素晴らしい存在かを、いつもの独断的な口調で語ってみせた。

すると、ギャリーの実兄と思しき人物が反論のコメントを投稿。両親は自分たち兄弟を大切に育ててくれた、家族全員が弟イアンの初期のMMAキャリアを手厚く支援していたと主張するとともに、弟が件の女性と結婚した後に家族への態度を豹変させたこと、祖父の葬式も無断で欠席したこと等を暴露した。

その後動画作成者がこの兄の投稿を削除したことも事態を悪化させることに。コメント欄は、配偶者の言うなりになり家族を貶めて自己正当化を続ける(ように見える)ギャリーと、彼を守るために情報統制を試みるメディアへの批判で溢れ返り、格闘技系配信者たちによる批判動画までいくつも作られた。

実際UFCデビュー以前のギャリーは、(現在の本人の主張とは反対に)両親がいかに自分の力になってくれているかを強調していた。現在の彼が、過去の自分の発言のニュアンスを大幅に塗り替えて、家族を咎めているのは確かだ。

ちなみにMMAPLANETが行った初ギャリー・インタビューは2022年4月で随分と今とは印象が違い、初々しさ全開の言葉が聞かれていた。

ただし、そんな殺到するギャリー批判の中に、男性中心の格闘技文化であるが故の固執した性別観が伺えることも否めない。上述の動画内でファンから最も大きな批判と嘲りを受けているのは、妻を絶賛するギャリーが語った「もし女性がこの世界を支配し、我々男性はただ彼女らの言うことを聞き、仕切ってもらったならば、この世界ははるかに生き易いものになるだろうね!」という言葉だ。ここには過去を歪曲するギャリーへの正当な怒りに、「男のくせに女の言いなりになるなんて」という偏ったジェンダー意識が混ざり込んでいる。

シンプル英語「We have to check that」で人気爆発のマカチェフ

さて、母語である英語でヒートを買い続けるギャリーとは対照的に、非ネイティブでありながら、英語での受け答えでファンからの支持を増やしているのがマカチェフだ。トラッシュトークに興味を示さず、常にシンプルな英語で真面目に語るマカチェフだが、ネイティブの口からは出てこないストレートすぎる語りが可笑しみを生み、共感を呼んでいる。

そんなマカチェフ語録の中でも特に有名なのは、ダスティン・ポイエーが柔術の黒帯だという話を振られた際に、真剣な顔で口にした「誰が彼に黒帯を渡したんだ? 確認(チェック)する必要があるだろう(We have to check that.)」という言葉だ。あまりに単刀直入にして、その強さ故に圧倒的な説得力を持つ(ので面白い)この言葉は、SNS上のミーム(多くの人が真似したりパロディを作って拡散する定番ネタ)として、さまざまな形で転用されている。

そしてつい先日のインタビューで、マカチェフは自身がテコンドーの黒帯を授与されたことが話題になった際に「このベルトは確認する必要がある。(This belt we have to check.)ギフトだよ。僕が本当にそれに値するわけじゃない」と、自分の言葉で自分を責めるジョークを飛ばしてみせた。これがファンには大受けし、大袈裟な言葉で自分を正当化するギャリーと、シンプルな言葉で自分の黒帯の正当性さえ疑う誠実なマカチェフの対照がますます際立つこととなった。

なお、マカチェフは件のギャリーの炎上インタビュー動画も視聴したとのことで「あの動画のギャリーは本当に見栄えが悪かったよね。背後で家の誰かが彼をコントロールしているに違いない」とコメント。ファン達を喜ばせた。

英語を母語とするギャリーがファン心理を逆撫でし、ロシア人マカチェフの素朴な英語が支持を増す横断的な現実。ギャリーの不人気など存在しないかのような映像を作る主催者側と、それを拒否するファン達のズレ。さらに後者の態度の背後にあるジェンダー観の偏り。この世界戦は、グローバル・スペクタクルとしてのUFCのさまざまな側面を垣間見せてくれる。

ただ肝心の試合自体に目を向けると、この一戦が世界の頂点を決める、極上の戦いであることに疑いの余地はない。

当然のごとく下馬評は、PFP一位を独走するマカチェフ優位と出ている。しかし、そのマカチェフはウェルター級ではまだ1試合しか戦っておらず、しかも相手のデラマダレナとマカチェフの間に体格差は殆どなかった。対してギャリーは身長191センチ。王者の過去のどの相手よりも遥かに大きなフレームを持つ。ウェルター級王者としてのマカチェフの真価は、今回試されると言える。

ギャリーのスタンドは「ボクシングモード」と「キックボクシングモード」があるとベラルが指摘

この試合の焦点はきわめて分かり易い。王者のテイクダウンを、挑戦者が──宣戦布告時の言葉通りに──凌ぎ続けられるかどうかだ。一度背中を付けさせられたら、途轍もない圧力を持つマカチェフの抑え込みからギャリーが逃れることは難しいだろう。マカチェフ本人も「イアンはあまりグラウンドは上手くないよね。テイクダウンを取れればフィニッシュできるよ」と語っている。

挑戦者としては、何としても倒されずに試合をスタンドで保ちたい。が、今まで王者相手にそれをやれた者は一人もいない。挑戦者に手立てはあるのか。

(C)Zuffa/UFC

この点に関して、マカチェフの練習仲間であり、前戦でギャリーに敗れたベラル・モハメッドの言葉が参考になる。ギャリーがスタンド戦において「ボクシングモード」と「キックボクシングモード」を使い分けていると喝破した元王者は、「イアンはボクシングモードでは腰が低くなり、イスラムからすればローを蹴るチャンスや、(ワンツーを)スリップしてテイクダウンを取るチャンスが生まれる。イアンが勝つにはキックの距離を保つことだ。同時にセンターを取る。ペースを支配し、ワンツーを出しては左右に動くことだ」と語っている。

センターを取れとはすなわち、ケージを背負うなということだ。相手をケージに押し込んでからの多彩なテイクダウンは、マカチェフの常套手段の一つ。今回も王者は「彼はよく逃げるけど、常に追いかけてプレッシャーをかけ、スペースを与えないつもりだよ」と語っている。ケージを背負う回数をできる限り減らすことが、挑戦者の勝利可能性を増やすことにつながるのは間違いない。

が、前に出ると予告する王者相手に「距離を保ちつつも、ケージを背負わない」というのはほとんど矛盾した要求だ。挑戦者は、その最大の武器である左ジャブや前足への関節蹴りをいかに使って間合いを保つのか、常にテイクダウンに入られる危険を孕む右ストレートをどこで出すのか、王者の圧に下がるのではなく、左右に動いてケージから遠ざかり続けることができるのか。

ヴォルカノはギャリーに「絶対に下になるな」

ここでもう一人識者の見解を参照したい。かつて誰よりもマカチェフを追い詰めた男、アレクサンダー・ヴォルカノフスキーのそれだ。この現フェザー級王者は、自分がマカチェフ戦で心掛けていたのは、「絶対にボトムを受け入れないこと」だったという。テイクダウンを取られても瞬間に反応し、自ら下になるイチかバチかのギロチンチョークなどは決して狙わず、起き上がることに専念する。それが功を奏して、マカチェフを苦戦させることができたのだと。

そして、そこにギャリーの問題があるとヴォルカノフスキーは指摘する。ラクモノフにダブルレッグを仕掛けられると、ギロチンを狙い極めきれず下になったり、抵抗せずに下を「受け入れて」ガードポジションを取ったギャリー。マカチェフに同じ戦いをしたら、命取りになるというのがフェザー級王者の見立てだ。

このヴォルカノフスキーの言葉は、テイクダウンを取られた際の攻防だけでなく、スタンドで組みついて来る王者への対処においても当てはまるのではないか。つまり、ギャリーに必要なのは、組まれること自体を受け入れず、接触そのものを断ち続けることだ。それを25分間、強固な意志で貫き続けた時に、世紀の番狂わせへの道が拓けるのではないか。

どれだけ嫌われようが、まったく揺るがず妻を賛美し、我が道をゆく男ギャリー。最強の王者相手にもその鋼のメンタルを貫き通し、アンチたちを絶望の淵に叩き込むことはできるのだろうか。あるいは全MMAファイターの頂点に立つ男マカチェフが、再び強さを見せつけ、偉大なるダゲスタン・グラップラーズのレガシーを改めて世界に知らしめるのか。オクタゴンのなかは世間の評判は一切関係ない、強さのみが競われる場だからこそ、両雄の本性が見られるだろう。

■視聴方法(予定)
8月16日(土・日本時間)
午前6時30分~UFC FIGHT PASS
午前6時00分~U-NEXT


■UFC330対戦カード

<UFC世界ウェルター級選手権試合/5分5R>
[王者]イスラム・マカチェフ(ロシア)
[挑戦者]イアン・マチャド・ギャリー(アイルランド)

<UFC世界女子ストロー級選手権試合/5分5R>
[王者]マッケンジー・ダーン(ブラジル)
[挑戦者]ジリアン・ロバートソン(カナダ)

<ライト級/5分3R>
ジェイリン・ターナー(米国)
カウエ・フェルナンジス(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
マンスール・アブドゥルマリク(米国)
ダスティン・ストーツフス(米国)

<ライト級/5分3R>
エジソン・バルボーサ(ブラジル)
エステバン・リボビチ(アルゼンチン)

<ウェルター級/5分3R>
チディ・ンジョグアニ(米国)
ヨエル・アルバレス(スペイン)

<130ポンド契約/5分3R>
チャールズ・ジョンソン(米国)
エドゥアルド・シャポリン(ブラジル)

<ミドル級/5分3R>
ドンテ・ジョンソン(米国)
エリック・マコニコー(米国)

<ミドル級/5分3R>
ヴィセンチ・ルケ(ブラジル)
トレシャン・ゴア(米国)

<ライトヘビー級/5分3R>
ハファエル・トビアス(ブラジル)
ルカス・フェルナンド(ブラジル)

<ウェルター級/5分3R>
ニール・マグニー(米国)
ラムズ・ブラヒメジ(米国)

<ウェルター級/5分3R>
ジェレマイア・ウェルス(米国)
ミクティベク・オロルバイ(キルギス)

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