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【Polaris39 & THE OKINAWA INVITATIONAL】高橋Submission雄己が語る、ベイビーシャークとポラリス王座戦。そして――「今なら間に合うかもしれない」

【写真】グラップリングファンとしての目線、グラップラーとしての矜持と本音――やはり興味深い(C)SHOJIRO KAMEIKE

3日(土・現地時間)、英国サウス・ヨークシャー州のドンカスタードームで開催されるPolaris39で、高橋Submission雄己がシェイ・モンタギューと空位のバンタム級王座を争う。さらに高橋は11月21日(土)、沖縄県沖縄市のKINGにて開催される「THE OKINAWA INVITATIONAL」で、キース・クリコリアンと対戦することも決定している。
Text by Shojiro Kameike

今年2月、念願のEBI王者となった高橋は、続いてONEでベイビーシャークことをジオゴ・ヘイスと対戦した。結果は3-0判定で敗れたものの、EBIルールで培ってきたグラップリング技術を披露することができた内容でもあった。

その高橋が遂に、EBIとともにもう一つの念願であるポラリスのベルトを賭けた戦いに挑む。対戦相手はIBJJFノーギ世界王者でもあり、UFC BJJでも戦うシェイ・モンタギューだ。さらに通常は高橋より1階級上のフェザー級で戦いながら、昨年はもう1階級上のライト級でEBI王者となっているクリコリアンと戦うことに。沖縄で階級を超えたEBI王者同士の対決が実現する。その戦いに、高橋はポラリスの王座を手にして臨むことができるか。

今回はベイビーシャーク戦の振り返りと、決定している2試合について。さらに現在のグラップリング・シーンに関する話が膨らむなか、どうしても外すことはできない、あの男の名前も――これが、高橋Submission雄己の「サブミッション・グラップラー」としての生き方だ。


エディ・ブラボーって凄いな、とマジで感嘆しましたね。『グラップリングとは、こういうことなんだ』と

――今年5月のベイビーシャーク戦から約5カ月が経ち、10月と11月で2試合が決定した高橋選手です。まず結果は判定負けでしたが、ベイビーシャーク戦の感想から聞かせてください。

「とにかくスピードが速かったです。あのスピードをパスガードで発揮されたら対処できないと思っていたので、ゲームメイクとしては『スクランブルの中で上を取っていこう』と考えていました。でもベイビーシャークはスクランブルのスピードも速く、バックを綺麗に取られて自分が逃げるという展開の繰り返しになってしまいましたね」

――……敗れた試合を振り返っているのに、嬉しそうな笑顔になっています。

「アハハハ、そうですか」

――その笑顔の理由は何なのでしょうか。

「どうなんですかね? 『いやぁ、負けちまったな』という苦笑いのつもりですけど(笑)。もちろん負けは負けとして、一方で『ベイビーシャークと戦えて良かった』という気持ちはあります。ベイビーシャークは今回のADCCにも出ず、自分のジムを立ち上げて――実質リタイアに近い状態になっているんですよ。特にグラップリングマッチは、僕との試合を最後に戦っていないという認識で。

ベイビーシャークは間違いなく、世界最強のトップゲーマーだったわけじゃないですか。僕たちの代においては、トップとスクランブルとパスの速さと強さの究極系で。もちろん彼に勝つことができたら素晴らしかったけど、引退する前に触れることができて良かったと思っています。ベイビーシャークの強さを体感しないまま強いとか弱いとかを論じている状態は嫌だったし、そのコンプレックスは一つ解消されました。自分のキャリアが全て終わった時に、『俺はグラップリングをやっていたんだよ』と胸を張って言えます」

――敗れはしたものの最強のグラップラーを相手に、昨年7月のEBIで見せた、バックを取られた時のエスケープが存分に発揮されていました。EBIルールで培ってきたものを出すことができたのではないですか。

ベイビーシャーク戦ではバックマウントからのエスケープを見せ続けた高橋。同時にベイビーシャークの対応もまた速かった。その強さを体感できたONE出場だった(C)ONE

「確かに、そうですね。その点でいえばEBIルールの意味を、ベイビーシャーク戦を通じて少し理解しました。『エディ・ブラボーは、そういう設計思想でEBIルールを創ったんだ』というのが身に染みて分かったんですよ」

――というと?

「グラップリングというのは、パスとガードの攻防に終始するものではない。ポジションは、その先にサブミッションがあるから意味を持つ。あるいは打撃があるという前提において意味を持つ。つまり『ポジションとは、ただ取るだけでは特に意味がないもの』と捉えたうえでの設計思想だと思うんです。

その結果、EBIルールはパス&ガードの攻防とともに、ポジションを取られたあとのスクランブル&エスケープとが同列になっているルールになっていると思います。ポイントがつくグラップリング――たとえばADCCやIBJJFだとパスされた時点で大きく不利になるから、パスとガードの攻防が要衝となる。おそらくEBIには、パスとガードの攻防を要衝としない世界観があって」

――別の世界観があるEBIルールで培ったものが、ONEのようなサブオンリーのルールでも生かされた。それは高橋選手にとって凄く意味のあることだったかと思います。

「僕はベイビーシャーク戦に向けて、『パス&ガードの攻防で勝てなかったらグラップリングは成立しないのか?』という問いかけに答えるようなゲームプランを練っていました。結果、ああいうバックを取られて、エスケープするという形になりました。予想外だったのは、ベイビーシャークのスクランブルやバックフックのスピードと、組手の崩しがないところから飛び込んでくるテイクダウンの異常なスピード。自分としては『いくら速くても、崩しがないなら止められるだろう』という算段があったんですよね。そういうパス以外でも発揮される、彼の圧倒的な瞬発力みたいなものが敗因でした」

――なるほど。

「僕はEBIを見てグラップリングを始め、EBIルールを経験し、EBIの中では世界一になりました。それこそEBIの前に出ていたフィニッシャーズもEBIルールだったわけで、しかし今まではEBIのルールに沿って勝つためにサブミッションとエスケープを重視してバックエスケープを練習する、という感覚だったんです。

EBIでベルトを巻いた昨年5月――さらにその先でエディ・ブラボーの思想を体現することとなった(C)YUKI TAKAHASHI

でもベイビーシャーク戦を通じて『いや、そうでもないよな』と。結果的に相手のスピードがパスとガードの攻防以外でも発揮されたがゆえに、ドミネイトされる時間が長くなってしまいました。ただ、自分があの展開で綺麗にバックフックを入れさせず、バックスケープを全部カウンターで取ることができたら、勝てていたわけで。

だから自分の仮説は間違っていなかった、と思います。エディ・ブラボーは10年前にこのグラップリング観を持ち、EBIルールを創った。エディって凄いな、とマジで感嘆しましたね。『グラップリングとは、こういうことなんだ』と」

明確に世界のトップ戦線の中でマッチメイクが行われるような立場と肩書きになった

――「グラップリングとは、パスとガードの攻防に終始するものではない」「ポジションとは、ただ取るだけでは特に意味がないもの」というのは、昨今のMMAにおける判定基準の変化にも通ずるものがあります。UFCが誕生してから30年以上が経過したなかで、パスとガードの攻防の末に、バックテイクとバックキープ、そしてフットロックの技術が大きく変化しています。その変化をどう捉えるか。

「そこなんですよね。柔術に関していえば、IBJJFが柔術を広めたから寝技というものが大きく発展してきたことは間違いないです。ただ、IBJJFが定義した有利・不利の価値観に縛られているところも大きくて。エディは10年前からグラップリングというものの本質を捉えて、EBIルールを設計した。彼のグラップリング観において、最終的に価値があるものとは、相手に打撃ダメージを与えられるポジショニング、またはサブミッションに繋がるポジショニングなわけで。だからオーバータイムの設計も凄く納得できるんです。

それもEBI王者になった時には分からなかったんですよ。EBIルールのアスリートとして、ルールに即して勝ったという感想しかなかった。柔術やグラップリングで圧倒的なステータスを持つベイビーシャークと戦うという宿題を与えられて、初めてエディの設計思想に気づきました。エディの設計思想を、心で理解することができた。エディって凄い。本当に天才ですよ、アハハハ」

――そのベイビーシャーク戦を経て、2カ月連続の試合出場が決まりました。高橋選手から直接聞いていたのは、最初に決まったのが沖縄でのキース・クレコリアン戦で。そのクレコリアン戦に関するやり取りをしていた時に、ポラリスの王座戦が決まったという流れです。

「あのタイミングでポラリスのタイトルマッチが決まるとは、全く予想していなかったですね(笑)。もともと10月か11月に――とは言われていました。でも、その後こちらから連絡しても返答がなかったり、微妙な回答だったりしていて。ポラリスの試合がないと今年は5月の1試合だけで終わってしまうから、沖縄の話を進めていたんです。そうしたら、ポラリスの話が来て(笑)。でも冷静に考えたら正式なオファーから試合まで1カ月半、イギリスから帰ってきてクレコリアン戦まで1カ月半あるのでやれるだろう、と。僕としては、ここで試合が流れてしまうことが嫌で」

――はい。

「ポラリスの61キロ戦線ってタレントがいればやるけど、タレントがいなければ動かさなくて良いもの、というか。それこそ前のチャンピオンは、5年前のアシュリー・ウィリアムスで、以降はずっと空位らしいんですよ。僕が去年の2月に勝って『タイトルマッチをやらせてほしい』とアピールしたあと、ここまで1年半ぐらい動いていなかったのは、タイトルマッチの格にふさわしい相手の選手がいなかった。

昨年2月にジェイク・ゴールドソープを極めて、タイトル戦をアピールしてから1年8カ月。遂に実現する(C)Polaris

イギリスで名前のある選手は、みんなプレリミで倒してしまっていて。ヨーロッパを見渡すと、もう相手はシェイ・モンタギューしかいませんでした。でもシェイがマイキー・ムスメシと対戦するためにUFC BJJと独占契約を結び(※今年2月、マイキーの持つバンタム級王座に挑み一本負け)、ポラリスのタイトルマッチも宙ぶらりんになっていたんですよ。それが今回、シェイがポラリスに出ることができる。ここを逃がしたら次の欧州の軽量級トップ選手が出て来るまでお預けになってしまいますからね。試合できる時にやっておこうと思いました」

――ポラリスのタイトルマッチが決まる前に、沖縄での試合の話を進めていたのは、どういった経緯だったのでしょうか。

「もともと沖縄や九州、あと主催者の方が10thプラネット系で、10thプラネットの黒帯も出ている大会のようです。今回から新しい試みとして、通常の試合のほかに世界的な選手の試合を一つ組む。それが『レジェンズ・シリーズ・マッチ』で、僕とクリコリアンが対戦することになりました。ルールはほぼEBIルールで、掌底はなしですね」

――ただ、EBIでいえば高橋選手はバンタム級で、クリコリアンはライト級と体重差が大きいです。

「その点はルール面で交渉しました。僕もクリコリアンと試合したいし、最初はポラリスも決まっていなかったので、ここで試合が流れるのも嫌でしたから。

今回は試合だけでなく、僕とクリコリアンのセミナーも含めたイベントなんです。しかも前日にセミナーを行うから、クレコリアンは厳しい減量ができない。そのため契約体重は70キロで――ということで、試合時間は調整させてもらいました。EBIルールで試合時間は5分2R、オーバータイムは1分3セットというルールになっています」

――モンタギューは過去にマイキーやベイビーシャークと対戦しており、クレコリアンはEBIライト級で優勝している。それだけ世界トップクラスのグラップラーと連戦する道には入ったわけですね。

「明確に世界のトップ戦線の中でマッチメイクが行われるような立場と肩書きになった。それは素直に良かったと思います。日本からだと、そこに入っていくルートはないじゃないですか。自分なんてEBIに出るためにロサンゼルスの10thプラネットの本部に行き、エディの前で彼の黒帯から取りまくって『俺は強いからEBIに出せ』と直談判してきたんですよ」

――それは道場破りでしょう(笑)。

「アハハハ、確かにフレンドリー道場破りですね。でも、そういう道なき道を創ったから、今ここにいる。やっぱり『俺も強いはずなのに、なぜ置いてけぼりにされているんだ』『コイツらは自分たちだけで最強を決めようとしているんだ』という憤りはありましたよね。でも今その道に入ることができたので『よしよし、今までのことは許そうか』という感じです(笑)」

自分に今できることはEBIとポラリスという、世界中の誰も無視できない2冠王になること

――その目線も高橋選手らしいです。では目前に控えたポラリスのタイトルマッチで戦う、モンタギューの印象を教えてください。

「細くて長くて柔らかい技巧派、ガード巧者ですよね。自分はEBIの時やベイビーシャーク戦はスクランブルゲームを主体とした試合を展開していました。今回はSubmissionのニックネームに相応しいような試合運びになるんじゃないかなと思っています」

――最近の試合はSubmissionのニックネームに相応しくないと思っていたのですか。

「高橋Escape雄己だったかな、と(笑)」

――アハハハ!! そういえばモンタギューとクリコリアンは、ADCC世界大会には出場していませんでしたね。

「シェイはIBJJFだとルースター級(57.5キロ以下)なので、ADCCの66キロ級には見向きもしていない、という感じじゃないですか。クリコリアンはUFC BJJとの契約が大きいんじゃないかと思います。細かいことは分からないけど、ADCCの予選が始まる時にUFC BJJとの契約があったのかもしれない。これまでもポラリスやWNO、EBIと大きなプロリーグは今まで世界中にたくさんありました。そのなかでもUFC BJJは完全にエクスクルーシブ(独占的)な契約を結んでしまうから、ADCCや他の大会に出られなくなってしまうという裏事情があって」

――契約問題ですか。

「はい。ただ、今回のADCCは今までで一番面白かったと思っていて。ADCCは毎回、JT・トーレスやベイビーシャークのような毎回『明らかにこの人強いな』という人が出てきて、凄く堅い試合をして優勝していた。決勝戦も『何度かポラリスやWNOで見たことのある対戦だな』と思ったり。でも今回は圧倒的な優勝候補がどの階級にもおらず、予想通りの展開にならなかった。それこそ安楽龍馬さんが1回戦でオーウェン・ジョーンズに勝ったことも、ニューフェイスの登場として『おぉっ!!』となったはずだし。だから目が離せない、本当に面白いトーナメントだったと思います」

――それだけ新しい選手が登場してきている。グラップリング・シーンも時代が移り変わっているということですか。

「はい、目まぐるしく変わっていますね。グラップリングファンの一人として、最近上がってきて強いと言われているヤツ同士の対戦があったりして、メチャクチャ面白かったです」

――一方で、これはポラリスの王座戦を控えている選手に聞くことではないかもしれませんが……UFC BJJがMMAと同じように独占契約を結び、開催されている。現在グラップリング・シーンにおけるプロイベントの頂点は、UFC BJJなのでしょうか。

「UFC BJJというより、マイキー・ムスメシじゃないですか。UFC BJJはマイキーのために61キロの階級を行っている。そのマイキーもMMAをやるんじゃないか、という話があるし今後もUFC BJJの61キロ戦線が稼働していくかは分からないです。とにかく自分に今できることはEBIとポラリスという、世界中の誰も無視できない2冠王になること。それとクレコリアンもUFC BJJの契約選手ではあるので、彼を倒せばUFC BJJにも上がるチャンスは出て来るかな、とは思っています。

今はマイキーが頂点で、マイキーがいるからUFC BJJに61キロ級がある。ベイビーシャークがいるからONEで61キロ級があるように。僕としては、マイキーとベイビーシャークが去ったあとの61キロの覇権を獲れるような道を模索したいですね」

――……去ったあとで良いのですか。

「え?」

――破れはしましたが、ベイビーシャークとは一度対戦しました。だからこそもう一人の頂点と……少なくともその頂点に触れることを目指さず、『俺はグラップリングをやっていたんだよ』と胸を張って言えるのか、と。

「……、……うん、そうですね。

マイキーが去ったあともUFC BJJの61キロが稼働していて、自分がその王座に就いたとしても、自分がマイキーに追いついたと言えるのか。マイキーが去ったあとでは、それはもう誰も比べようがないですよね。

どうなんだろう? もうすぐマイキーがMMAに行ってしまうのか――今なら、ギリで間に合うかもしれない。誰とタイトルを争うよりも厳しい道にはなるけど、やっぱりマイキーと戦いたいです」

■Polaris39視聴方法(予定)
10月3日(土・日本時間)
午後10時30分~ Fro Grappling

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