【Shooto2023#02】ここにもいた、格闘ジャンキー=関口祐冬─01─「サンチンで、ヒザの上にコップを」
【写真】宇宙の背景は意味がないという関口だが、話を訊いていると何か通じているような気がしてくる……(C)SHOJIRO KAMEIKE
19日(日)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるSHOOTO2023#02で、修斗世界フライ級1位の関口祐冬が、フライ級契約で世界ストロー級王者の新井丈を迎え撃つ。
Text by Shojiro Kameike
2020年から5連勝でランキング1位まで昇りつめた関口だが、現在この階級のベルトはUFC参戦中の平良達郎が保持している。そこで関口が他のランカーと暫定王座決定戦を行うのか――と予想されたなかで、1階級下の新井がフライ級に進出してきた。新井の挑戦状を受け取った形の関口祐冬とは、いかなるファイターなのか。インタビューを試みると、MMAマニアっぷりが発揮された。
――関口選手が所属する修斗GYM東京のプロフィールには、格闘技を始めたきっかけが少林寺で、好きな選手はコナー・マクレガーとありました。現在のファイトスタイルは、その少林寺とコナー・マクレガーの影響が大きいのでしょうか。
「あぁ、ジムのホームページに載っているプロフィールですよね。細かく言うと、まずお父さんが空手と少林拳をやっていました。もともと自分の中では、決まったスタイルがないのが僕のスタイルだと思っています」
――決まったスタイルがない! どういうことでしょうか。
「次に対戦する新井君や、分かりやすいところだと堀口恭司選手って、コレっていうスタイルがあるじゃないですか。僕はマクレガーの距離の取り方や堀口選手のステップワークも好きだし、コーディ・ガーブランドのスタイルも好きなんですよ。そういう選手の良いところを、ちょっとずつ取り入れているような感じですね」
――そうだったのですね。以前、試合前に体勢を低くして相手を見つめていたところも、マクレガーを意識していたのかと思っていました。
「あれはジョン・ジョーンズです(笑)。ジョン・ジョーンズって四つ這いで相手を見て、動物的な動きで相手に近づいていくじゃないですか。あのスタイルが好きで」
――色々と取り入れていますね。ガーブランドは、どのようなところが好きなのでしょうか。
「ガーブランドがドミニク・クルーズからベルトを獲った試合(2016年12月に判定勝ち)が、一番分かりやすいですよね。頭を振って、相手のパンチをかいくぐりながら、パンチとレスリングを織り交ぜて戦う。そういうスタイルがカッコいいなと思っています。ハファエル・アスンソンを2Rラウンド終了間際にKOした試合(2020年6月)もシビれましたし。
ああいう動きを見て、使ってみようかなって練習してみるんです。多くの人は、そうやって練習しても実戦で使うことは少ないと思います。それが僕は試合でも使ってみたくなるタイプですね」
――ガーブランドは先日のトレヴィン・ジョーンズ戦も、相手との実力差はあったとはいえ、ステップとの距離の取り方が抜群でした。
「すごく良かったです。相変わらずボクシングとレスリングを巧く組み合わせていて。新井君はガーブランドから、ステップワークと頭の振りを抜いたタイプだと思っています。ただ、KIDさんもそうでしたけど、体格で劣る選手が相手の中に入っていく姿は、見ていて興奮しますし憧れますよね。純粋に、カッコいいです」
――ただ、関口選手はフライ級の中で体格が小さいわけではないですよね。公式プロフィールでは、身長が180センチとなっています。
「そうですね。フライ級の平均より少し大きいぐらいだと思います。僕の理想は、全部できるようになることです。たとえば相手の体格によってスタイルを変えることができる――何か一つのスタイルをゴリ押ししていくようなことは、僕にはできないですから。それが可能なのって、何か一つが突出している選手なんですよ。
でも僕には、他の競技を経験して何か突出したものがあるわけじゃないので。MMAを始める前も、ちゃんと格闘技と向き合っていたわけではないので、一つひとつのレベルは高くない。どちらかといえば相手のスタイルや体格に合わせることのほうが多いです。
宮城選手との試合(2022年3月、宮城友一に判定勝ち)は、宮城選手のほうが身長は高かったので、僕がガーブランドのように頭を振って中に入っていきました。でも梶川選手の場合(2019年3月、梶川卓に判定負け)は僕が体格で上回っていて、マクレガーのように前手で距離を取りながらパンチを合わせるスタイルを選択したんですよね」
――それだけ普段からMMAの試合を観ているということですね。
「最近は新井君との試合を想定して、ガーブランドとディラショーの試合を観ています。一方はリーチが短くて、一方は体格が大きいっていう試合で。ディラショーとガーブランドは、ディラショーが2連続KO勝ちしていますけど、ガーブランドのパンチが当たっているシーンもありましたから。そこは参考にしたいです。
国内だと今は、和田竜光さんや上久保周哉選手の試合を観ていますね。結局、フライ級ってパンチが当たっても相手は立ち上がってくることが普通じゃないですか。となるとデメトリウス・ジョンソンもそうだし、和田さんや上久保選手のように相手を組み伏せる力がないと、シーソーゲームになっちゃうので。UFCのフライ級でも、ブランドン・モレノとフィゲイレドが、そういうシーソーゲームになっていて。
僕も昔は一発頼りだったんですよ。一発で倒す試合って、憧れるじゃないですか(笑)。それがヘビー級だと一発で終わるのに、フライ級だと倒れない。だから、パンチで倒したあとに組み伏せられる力を身につけないといけない――ここ最近は練習でも、それを痛感しています」
――なるほど。
「やっぱりMMAは観ていて楽しいですよ。僕の試合がある日に、UFCでレオン・エドワーズとカマル・ウスマンが対戦しますよね。3度目の対戦(過去1勝1敗)で、どうなるのかなって。さすがに試合当日の朝だから、僕も体を休めていると思いますけど……でも観ちゃうかな(笑)」
――アハハハ、それだけMMAが好きということですね。それだけ現在はMMAが好きであるにも関わらず、MMAを始める前は格闘技にちゃんと向き合っていなかったというのは……。
「子供の頃は、本当に格闘技が大っ嫌いでしたね。お父さんは最初に空手をやっていて――流派が何だったかも聞いたことはないです。そのお父さんに、無理やり空手をやらされていました。思春期で友達と遊びたくても、家に帰って厳しい練習が待っていて。さらにお父さんが少林寺を習い始めて、空手とミックスしたものを始めたんです。それも日本で広まっている少林寺拳法ではなく、中国で行われているやつなんですよ」
――えっ!? 嵩山少林寺の方だったのですか!!
「だから対人で行われる大会はなくて。あるのは型の大会で、それも映画で見るようなものでした。ジャッキー・チェンの酔拳みたいなものや、三節棍を使った型がありましたね。僕も映画でジャッキー・チェンがやっていた練習を、実際にやっていましたよ。サンチン立ちのような形で、ヒザの上にコップを置かれ、水がこぼれないように1時間その体勢のままでいるとか」
――幻想が膨らむお話です。とはいえ、お聞きしているだけで、幼少期にその練習はキツかっただろうと思います。
「もうね、『この家から早く出たい』と思っていました。格闘技はやりたくない、格闘技とは縁のない会社員か公務員になりたい――と考えていましたけど、今こうしてMMAをやっていますね(笑)」
<この項、続く>