【Special】フィリンピンMMAを知る。ククイ・エロルデ、ボクシング一大ファミリーがMMAに進出
【写真】日本で戦いたいと集まったフィリピンの無名ファイター達。後列右から5人目がオリニド。10代や20代のファイターに混ざって、PXCやBRAVE CFで戦っていた40歳のレックス・デララ(後列左から5人目)の姿も見られた(C)MMAPLANET
22日(日)に大阪府豊中市の176BOXで開催されるGLADIATOR020にフィリピンからジョン・オリニドが来日し、笹晋久と対戦する。
フィリピンはチーム・ラカイのONEでの台頭以来、アジアで最高のポテンシャルを持った国と言われて久しい。オリニドはグラジのタレントリレーションに職に就いた長谷川賢が、12月に行ったフィリピンMMA視察で発掘したキャリア3勝0敗のファイターだ。
この場を彼に提供したのが、ククイ・エロルドという女性マネージャーだった。
長谷川のMMAの練習を見学したいという要望に、自らがマネージメントする選手を18名も集め、さながらトライアウトのようなスパーリングが見られた。ククイ・エロルデ女史はフィリピンの英雄的ボクサー=1960年代WBAジュニアライト級王座を10度防衛戦したガブリエル・フラッシュ・エロルデの末娘で、母ローラさんの跡を継ぎ20のボクシングジムを経営し、同時にプロモートとマネージメント業を行ってきた。
メトロマニラ、パラニャケにあるエロルデ一族の拠点エロルデ・スポーツセンターを訪ねると、そこは一族が運営する建物にはボクシングジム、会議場を使用したボクシング会場だけでなく、闘鶏という賭博場も備えたスポーツ・コンプレックスだった。
フィリピンMMA界の今──をプロモーター&マネージャー、ファイター、そして指導者の目から伝えたい。ムエタイに続きMMAファイターのマネージメントも始めた──フィリピンの一大ボクシングファミリーを牽引するククイにフィリピンMMAの現状を尋ねた。
──素晴らしいトライアウトを開いてくれてありがとうございます。初対面のククイさんに、MMA畑の人間として尋ねさせていただきます。ボクシングリングが2つ、ケージが一つというジム、闘鶏場、ボクシング会場となる会議場のあるエロルデ・スポーツセンターという拠点を持つ……一体、ククイさんは何者なのでしょうか。
「私はフィリピンでボクシングのプロモーターライセンスとマネージャーライセンスを持っていて、このファミリービジネスを母から受け継いで20年になるわ」
──そのククイさんが、なぜMMAファイターを集めることができたのでしょうか。
「私は今ではMMAファイターとムエタイという分野にも手を広げていて。アマチュアMMAのプロモートもしているの。でも本当の意味でプロフェッショナルのMMA興行は、ここフィリピンではONEチャンピオンシップぐらいで。
ONEがずば抜けていて、URCCや他のプロモーションを圧倒している状態ね。イベントプロモーターは多いの。でも、MMAの大会は決して多くないのが現状よ」
──MMAファイターの成長には試合経験が大切になってきますが、それほどフィーダーショーとなるローカルの大会数は多くないということですね。
「そうなの。大会は多くないわ」
──それはコロナが影響しているのでしょうか。コロナ前はもっと盛んにローカルショーが行われていたと記憶しています。
「そうなの。Covidの影響で、MMAプロモーションは減ってしまって。ボクシングプロモーションだけが、以前のように活動している状態ね」
──そういうなかでMMAファイターをマネージメントとしており、どのようなプロモーションに選手を送り込もうと思っているのでしょうか。
「それはUFCであり、ONEチャンピオンシップね。そして今日の機会をきっかけに日本、グラジエイターで選手を戦わせたいと考えているわ」
──ククイさんはまだMMAのマネージメント業を始めたばかりなのですか。
「イエス。でもボクシングのマネージメントは20年間やってきたわ。WBCアジアン・カウンシル・コンチネンタル・ライト級王者ジュレス・ビクトリアーノやアーネル・バコンナジェをマネージメントしているし、WBAアジア・スーパーフェザー級とIBFアジア・スーパーフェザー級王者のチャーリー・スアレス……14連勝0敗のスアレスも私の選手よ」
──スミマセン、ボクシングには知識がなくて……。
「12月11日に大阪で行われたThe Heatという大会にもロニー・バルドナドとクライデ・アザルコンを出場させたわ。日本には何度も行ってるし、ジョー小泉さんとは色々と一緒にやってきたわ」
──おお、ジョー小泉さんなら私も分かります。そんなククイさんから見て、ボクシングと比べて、フィリピンのMMAの現状はいかがでしょうか。
「ファンベースでいえばMMAの方がボクシングより大きいわ。先日のONEチャンピオンシップでも会場は満員のファンが訪れていた。ボクシングにはあれほどのサポーターはいないわ」
──本当ですか!!
「そうよ。ボクシングの会場には、あんなに多くのファンは集まらないから」
──その要因はどこにあると思われますか。
「私が想うにはファンはもっと血生臭さを求めているんじゃないかしら。そう、そういう戦いをボクシングの代わりに見たがっていると思う」
──コンテンダー目線でいえば、若い人々はボクシングとMMA、どちらに興味を持っていますか。
「私たちは20のボクシングジムを持っていて、そこにはMMAとキックボクシング、ムエタイのクラスもあるわ。そして若い人達はMMAが一番好きね。ボクシングよりも、MMAの方が人気はあるわ。
ボクシングよりMMAの方がエキサイティングなようね。パンチだけでなくキックもあって、レスリングもあるから。若い選手はエキサイティングなMMAの練習をする方が多くなっているのが事実ね」
──なるほどぉ。米国ではMMAの勃興期に、ボクシング界はアスレチックコミッションと共にMMAを締め出しました。ボクシングの歴史が長いフィリピンで、そのような動きは見られないでしょうか。
「フィリピンではボクシングコミッションが、MMAコミッションの役割も果たしているから、コミッションは1つ。だから、そういう問題は起こりえないでしょうね。ボクシングもMMAもプロフェッショナルで戦うには、18歳になって正式にライセンスを手にする必要があるわ」
──今日は色々とフィリピンの現状を話していただきありがとうございました。ところで、フィリピンンには闘鶏があります。もちろん、賭けの対象です。ではボクシングやMMAでも賭けは行われているのでしょうか。
「イリーガルで、ね。闘鶏は国から認められている賭け事だけどね。ここでもやっているように」