【RTU ASIA 2022 Ep06】UFCへの道、準決勝=野瀬翔平戦へ。中村倫也─01─「達人がここにいる」
【写真】ちょっとリー・ジンリャンな中村倫也(C)MMAPLANET
10月23日(日・現地時間)にUAEはアブダビのエティハド・アリーナで開催されるROAD TO UFC AISA2022 Episode06で、中村倫也が野瀬翔平と対戦する。
UFCとの契約を賭けたトーナメント準決勝まで3週間を切り、追い込み練習の真っ最中というなか中村はこの日(※10月5日)、正午前から夕方までパンクラスイズム横浜で汗を流し続けた。
プロ練習、ファンクショナルトレ、そしてマモルとのパーソナル。中村はキャリアの分岐点となる一戦を前に「未来を見据えた」トレーニングもしていた。
──Road to UFCまで3週間弱、現時点での仕上がり具合はいかがですか。
「実家住まいで移動が大変という面はやはりありますが、自分のことを本当に応援してくれる人が常に近くにいる。5年以上1人暮らしをしていた時と比較すると、今の状況はモチベーションになりやすいと改めて実感しています。1日1日のエネルギー量が増えた。『1日24時間じゃ足らない。もっと練習したい』という感覚が久しぶりに戻ってきています」
──そんななか今日はパンクラスイズム横浜での練習となりましたが、スパー等も少し軽めのように映りました。
「そうですね、時期的にも疲労がピークにあるのはもうしょうがないことで。だからこそ自分のやるべきことの確認、そのためのムーブメントとグラップリングの対応……これはしつこいタイプの野瀬選手と戦うための対策練習でもあります。そこを頭においてスパーリングを行い、そのまま岳(大宮司)さんと打撃から組みのつなぎという部分でのファンクショナルトレーニング。そして、このインタビュー後にマモルさんのプライベートで、首相撲の指導を受けます」
──疲労がピークで確認作業と言いつつもスパーリング中心のプロ練習が正午から1時間半、そしてファンクショナルトレーニングが1時間、本来であればそのままパーソナルに入るところで取材を挟ませてもらったということで、実際は3時間半ぶっ通しのトレーニングではないですか。
「だからこそ体の訴えを全て感じ取って、無理をして良いところとしないところの見極めをしながら練習しています。そのためにも午後はずっとパンクラスイズム横浜さんで、練習を続けさせてもらうことにしているというのもあります。移動は実家とここだけで、間に何か挟まない。違う場所に移動すると、疲労が蓄積してしまうので。移動時間は減らして、パンクラスイズム横浜さんで集中して体を動かすようにしています。
ここにはそれぞれの部門でプロフェッショナルが集まっているので、凄く有難い環境で練習させてもらえています」
──マモル選手と倫也選手の組み合わせは、凄く新鮮に感じました。
「でもMMAに転向してから、パンクラスイズム横浜のプロ練習に参加させてもらっていて、月に2回はマモルさんが仕切る日だったんです。だから2年前から少しはマモルさんから教わっていました。この間にマモルさんに習ってきたことが、色々なパーツを接合……融合しやすいと感じていたので、パーソナルをお願いすることにしたんです」
──打撃と組みの融合、それが首相撲ということなのですか。
「メインが組み相撲ですね」
──私の印象ではレスリングは力のぶつけ合い、真っ向勝負だという感覚をずっと持っていました。ただし、R-1のリコ・チャッパレリのスパーリングを見た時に引退して10年以上も経つリコが、MMAファイターにほぼ手をつかわず肩を使っていなすなどしていて。『レスリングの達人は合気道だ』と感じたことがありました。
「マモルさんも達人です。先週とか『ちょっと組んでみようか』と言われて、胸を合わせて取り合ったらめっちゃ吹っ飛ばされました(笑)」
──五輪を目指し、U23で世界チャンピオンだった倫也選手のレスリングは、達人系ではなく真っ向勝負系だったのですか。
「実は……自分では体の機能とか他の選手とは違っていると思っていて。力でやるのではなく、抜いても戦えるという気でいました。でも今となっては、こうやってマモルさんと組ませてもらったりしていると、まるっきり力でやっていたことが分かりました。ホントに、達人がまさにここにいるという感じですね(笑)」
──マモル選手は東農大でレスリングの出稽古をしており、そこからムエタイに傾倒していったことで、MMAに適した首相撲を身に着けたという印象が強いです。
「その通りだと思います。シチュエーションによっては大木のように大地に根をしっかりと張っていて、びくともしない。でも、違う状況になると滑落……重心がストンと抜けるような動きでいなされます。脱力こそ最高のスピードが出るので、そこがマモルさんは本当に上手いです」
──まさにJ-MMA界のエロ系……もとい無形文化財ですね(笑)。
「アハハハ。現状、僕はまだMMAでは常にフルパワーのように動いてしまうので、その足りない要素をマモルさんに教わり、力や瞬発力でいくところとミックスすることで、凄く良いモノがデキるんじゃないかと思っています」
──世界レベルのフリースタイルレスリングと、達人の首相撲の融合。これは楽しみです。
「そうですね、要所でヒジを入れてレベルチェンジだとか。それがあることでテイクダウンを取りにくい選手からも、取れるようになるだろうし。そこをイメージしつつ、ミットでは絶対的な動きをバンバン打つことで、体に落とし込んでいます。そういう風に流れが切れないミットを持ってくれて、自然と体から出るような感じの創り方をしてくれます」
──MMAに落とし込む。そこをイメージできるという部分こそ、中村倫也の最大の武器ではないかと。
「ただし、これが次の試合で成果が出るかと言えば、そんなに簡単なモノでないです。やはり試合ですから、色気を出すようなことはしたくない。それで足下をすくわれると元も子もないので。実際にそういう経験をたくさんしてきましたし。だから、マモルさんから習っていることが次の試合で出るかは分からないです。ただし、ここが勝負だという時には形になっていたいですね」
──つまりはUFCとの契約を賭けたトーナメント戦のなかでも、次の試合に勝つためだけでなくベースアップとなる練習も続けてきたということですか。
「ハイ。常に野瀬選手のことは意識していますけど、そこが当然あるうえで未来を見据えた練習をしていくということですかね」
──では改めてですが、野瀬選手の印象を教えてください。
「大変な過去がある(※高校時代に柔道の試合で首を骨折。呼吸ができなくなる危険な状態で、搬送された大学病院では手術ができないほどの重症だった。運よくこの症状に対応できる日本で2つしかない病院の1つがドクターヘリで移動できる距離にあり、脊椎損傷センターで足の骨を削り、脊椎を繋いで固めるという6時間の手術を受けて命を繋ぐ。野瀬本人によると術後は『痛みという言葉の範疇に入らないほど全身が痛いけど、何もできないので殺してくれと泣き叫ぶばかりでした。また手術をして、あの痛みを経験するなら舌を噛んで死のうと思っていました』という状態だったという。痛みが消えたのは1年後、それでも一生車椅子の生活と宣告をされたが、強靭な肉体と精神力で体を縛った状態で立った状態を保つというリハビリを経て、文字通り奇跡的に回復。『拾った命、体だからやりたかったMMAをやろう』と柔道ではなく、MMAの道を進むこととなった)選手です。
正直なことをいえば、対戦が決まるまで余り注目していなかった。でも改めてちゃんと試合をチェックすると、蹴りが上手くてグラウンドも強い──普通に強いだと思いました。気を抜くことはできないです」
<この項、続く>
■ROAD TO UFC AISA2022 Episode05対戦カード
<Road to UFCフェザー級T準決勝/5分3R>
イー・チャア(中国)
松嶋こよみ(日本)
<Road to UFCフライ級T準決勝/5分3R>
チウ・ルェン(中国)
チェ・スングク(韓国)
<Road to UFCライト級T準決勝/5分3R>
キ・ウォンビン(韓国)
ジェカ・サラギ(インドネシア)
<Road to UFCバンタム級T準決勝/5分3R>
風間敏臣(日本)
キム・ミンウ(韓国)
<ライト級/5分3R>
SASUKE(日本)
パラチン(中国)
■ROAD TO UFC AISA2022 Episode06対戦カード
<Road to UFCフェザー級T準決勝/5分3R>
イ・ジョンヨン(韓国)
ルー・カイ(中国)
<Road to UFCバンタム級T準決勝/5分3R>
中村倫也(日本)
野瀬翔平(日本)
<Road to UFCフライ級T準決勝/5分3R>
トップノイ・キウラム(タイ)
パク・ヒョンソン(韓国)
<Road to UFCライト級T準決勝/5分3R>
アンシュル・ジュビリ(インド)
キム・ギョンピョ(韓国)
<バンタム級/5分3R>
シャオ・ロン(中国)
フィリッピ・リマ(ブラジル)