【HEAT50】プログレス提供コンバット柔術で江木伸成と対戦、生田誠「答え合わせをやりたい」
【写真】素晴らしい姿勢を持ち続けている。脱帽だ(C)SHOJIRO KAMEIKE
5月7日(土)、名古屋市熱田区の名古屋国際会議場で開催されるHEAT50で、プログレス提供試合として生田誠と江木伸成が、コンバット柔術ルールで対戦する。
Text by Shojiro Kameike
生田誠といえば、UFCでホイス・グレイシーが戦う姿に影響を受けて、柔術を始めて22年――柔術界の大ベテランだ。特に、生田ガードとも呼ばれたリバース・デラヒーバは、生田の代名詞的な技であった。その生田がコンバット柔術ルールに挑む。ガード主体の柔術家であった生田が、打撃有りのコンバット柔術で何を見せるのか。そこには、柔術家として生きる生田誠の原点があった。
――生田選手がコンバット柔術ルールで戦うと聞いて、驚きました。対戦相手の江木選手もガード主体の柔術家で、コンバット柔術ルールでどのような試合になるのか興味深いです。
「江木君は正直、そんなに絡んだことはない選手なんですよね。ただ、MMAのパウンダーよりは戦いやすいんじゃないかと思います。もっとこちらの寝技に付き合ってくれて、面白い試合になるんじゃないでしょうか」
――生田選手は現在、どれくらいのペースで試合をしているのですか。
「今は試合に出ても、1年に1回か2回ぐらいですね。柔術も全日本とかではなく、小さい大会ばかりで……。何かタイトルを獲ろうとか、そういう気持ちではなくて。いま一番興味があるのが、コンバット柔術なんです。だから前回のIREにエントリーして、グラップリングマッチ2試合とコンバット柔術に出場して、経験を積みに行きました」
――昨年8月、コンバット柔術ルールで長野将大選手と対戦し、オーバータイムで生田選手の50/50から抜けた長野選手が勝利しています。
「MMAファイターを相手にバリバリ引き込んで、下から仕掛けていったら、上からバチバチ掌底を当てられて(苦笑)。
一本負けやKO負けはしなかったものの、オーバータイムで足の取り合いをした時に、自分が疲れてしまっていて……。そこまで柔術やグラップリングでは負けなしで来ていたんです。でもコンバット柔術で久しぶりに負けてしまい、何とかコンバット柔術で勝ちたいなと思っているところに、ちょうど今回のオファーを頂いたんですよ。それで、そのオファーを受けさせていただきました」
――そもそも、なぜコンバット柔術ルールの試合に出ようと考えたのでしょうか。
「もともと僕が柔術を始めたのは、打撃有りの戦いの中で、どう柔術家が戦うかに興味があったんですよね。初めてUFCでホイス・グレイシーを見た時から。だからMMAに興味がないわけでもないんです。せっかく柔術の黒帯を取ったし、今は競技柔術への興味も無くなってきているので、MMAをやるかどうかという考えもあったんです」
――えっ!? MMAを戦おうと考えていたのですか。
「でも、年齢も45歳になっちゃいましたからね(苦笑)。今からハードな打撃有りの競技をやるのも有りだけど……と考えていた時にIRE、コンバット柔術にチャレンジしてみようと。
自分の中では柔術をやるうえで、ずっと『打撃があったらコレはどうなんだろう?』と想定しながら続けていました。今も僕はリバース・デラヒーバを使います。それでコンバット柔術でも相手の打撃をもらわない距離感を保って、スイープして上を取れば何とかなるだろうと思っていました。でも結果は打撃に飲み込まれてしまって――。だから、まだ自分の中で答え合わせができていないんです」
――……。
「たとえば……そのポジションにいたら殴られるから、足関節があったらベリンボロやるとどうなるか、とか。そういうことは、今のモダン柔術ではそこまで徹底して考えられてはいないじゃないですか。それって競技柔術をやっているとハッキリしないというか、分かりにくいというか……。自分の中で、その答え合わせをやりたいんですよね。
だから今、プログレスやコンバット柔術で若い選手に勝ってチャンピオンになりたいとか、そういうことではないんです。どうやれば柔術の技術を使って安全に戦うことができるのか、それが知りたくて」
――UFCでホイス・グレイシーを見てから柔術を始めた生田選手にとって、追いかけているのはブラジリアン柔術ではなく、グレイシー柔術なのですよね。
「ホントに、その通りなんです。今はブラジリアン柔術として世界的なスポーツになっているじゃないですか。それは良いことなんです。でもその反面――グレイシー柔術ではないよなって。
柔術って選手の動きを誘導するルールじゃないですか。たとえばガードに引き込んでも、パスガードのポイントがあるから相手を抑え込もうとする。マウントの4ポイントがあるからマウントを取る、バックマウントに4ポイントがつくから……要は、打撃有りの戦いを想定して作られているルールなんですよね。
先日、黒帯の四段を取得した時にルール講習会を受けたんです。そこでは安全性を強調しているように感じたんです。あとは護身術としてのコンセプトを伝えていきたい、と。それはそれで凄く良いことなんです。でも、当時見たグレイシーの戦いではないなと思ってしまいました。
ハファエル・メンデスが出てきた時もそうだと思うんですけど、ルールを守りながらいかに勝つかという技術が増えてきました。その最たる例が50/50ですよね。50/50が出てきたことで、いろんなものがガラッと変わってしまいました。50/50って今は、本来の使い方とは違うじゃないですか」
――というと?
「昔、バレット・ヨシダさんからお聞きしたのは、『もともと50/50は足を取るための技術であり、50/50から上を取ったり下になったりというシーソーゲームをやるのは、あまり意味がないよね』と。そうやって、なぜ50/50が生まれたのかを考えると、僕自身もすごく足関節の攻防に意識が行きました。ただ50/50や足関節のことを考えるならば、必ず意識しておかなくてはいけないのは――足を取りに行った時、相手に立たれて殴られてしまうことなんです。
競技柔術をやっている人たちに対して思うのは、ベリンボロもそうですけど、バックを奪う動きを否定するつもりは一切ありません。ただ、自分のリバース・デラヒーバも含めて、打撃有りの中では危険すぎると思っていて。
するとクローズドガードの技術や、距離ができたら立ち上がる柔術立ちの技術とか、それがグレイシー柔術の根幹なんじゃないかなと感じるんです。でも競技柔術の練習だけをしていると、その感覚が疎かになってしまうんですよね。結果、コレで本当に強くなっているのかなって思ってしまう。
もちろん競技が普及し、皆が楽しめるものになるうえで、現在のブラジリアン柔術のルールやモダン柔術を否定するつもりはないんですけど」
<この項、続く>