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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ギャリー✖ウィリアムス「負けて頂き有難う」

【写真】相手の自滅で勝つ。自らの自滅で負ける。自らの技量が勝つ、自らの技量で敗れる。これが勝負事は表裏一体で、前者の方が多いのかもしれない (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たイアン・ギャリー✖ジョーダン・ウィリアムスとは?!


──アイルランドMMAの未来、イアン・ギャリーのUFC初戦でした。

「序盤、対戦相手のジョーダン・ウィリアムスが良かったです。ウィリアムスが距離を取ってカウンター狙いで、そこのギャリーが入れなかった。そこに入っていくと、やられるからローを出すとかぐらいで、あそこから何があるということではなく、何もできないからアレを出す。そして前に出ることができていなかったです。

この試合を見る限りでは、ギャリーもカウンターファイターなのかと思いました。そういうなかで後の先を取ったのはウィリアムスだった。つまり先の先を取るパンチがギャリーになかったということですね。

ギャリーの方がリーチが長いのに、入ることができていなかったですから。自分より小さな選手にカウンターを合わせるのは上手いかもしれないです。結果的に勝ったのもそういうカウンターの右ストレートでしたから。

両者の質量はそれほど変わらないのですが、序盤はウィリアムスが間を制していました。そして先を取っているのもウィリアムスです。先の先、後の先だろうが先を取らないと当てることはできないわけで。ウィリアムスもカウンター狙いで、自分から攻めているわけではなかったのですが、後の先を取っていたことになり、ギャリーは先の先を取っていないから入れなかった。前に出られなかったです」

──そのように序盤は優位だったがウィリアムスですが、なぜ組んでいったのでしょうか。そのままでも良かったのに、組んで行ってからペースを失っていったように感じました。

「あれですねぇ。なぜ、あの流れで組むのかは理解できないです。考えられるとすれば、あの短時間で疲れてしまったのか、打撃戦を続けることに。あそこで組みに行くって、メチャクチャですよね。体を入れ替えられて、テイクダウンも取れなかったわけですし。

あのクリンチの展開から、打撃に戻った時にはウィリアムスの質量はメチャクチャ落ちていました。その状態で自分から打ちに行くという武術では絶対にしてはいけないことをやり、ギャリーがカウンターの右を合わせてKOしました。言ってしまえば、そういうことです。クリンチの展開の前と後の違いは何だ、と。あんなに風になるのは、バテてたからとしか考えられないです。あの短時間で。

まぁ武術的に見れば、序盤の打撃戦で先の先、後の先を考えるなら分かりやすい試合でした」

──UFCの初戦は力が発揮できない。UFCジッターという言葉があります。

「緊張してしまうのですね。これまで通りの試合が、UFCという場で期待値が増すとできなかった。それはやはり再現性がないからです。とにかく指導者の役割とは、色々な個性のある選手たちに対して原理・原則を徹底して練習させることだと思うんです。

スパーリングを5Rとか、7Rしたという練習で選手たちは達成感があります。ただし、それで試合の準備になっているのかということなんです。試合から逆算して考えると、イアン・ギャリー陣営としてはUFCジッターという事例が以前に存在しているなら、そこも引き算して準備をしないといけない。

試合の準備って、本当に引き算が多いです。ただし、足し算でやってしまうことが多々あります」

──高く見積もってしまうわけですね。

「そんなことできないですよ。本来は。指導中の指示、セコンドの指示、そこは本当に考えないといけないです。『ローでも良いんだよぉ』なんて言われても、『じゃあ、何でも良いだろう』ってなっちゃうじゃないですか。その指示の意図はどこにあるのか、そこをしっかりと考える必要があります。

話をギャリーに戻すと、それでもアレだけ攻められても、しっかりとKO勝ちしている。それはウィリアムスが自滅したから。だから、勝ちにつながった。MMAって、そういうことが多いです。勝負ごとは」

──確かに、相手が自滅した。相手が勝たせてくれた。この連載中によく聞かれる言葉です。

「勝ったからといって浮かれるのではなく、相手に対して『負けていただきありがとうございます』という気持ちで試合後を過ごしたいですね。もちろん、ケージの中で嬉しさを表すのも勝利者インタビューで威勢の良いことを話すのもありです。ただし、そこから一歩下りれば、相手が負けてくれたという想いを大切にしたいと思います。自分自身のために。

勝負って強いから勝つより、相手が負けてくれることが多いです。ここは本当に試合の真理で。ウィリアムスがバテた。だからギャリーが勝ったなんて、何にも面白くない結論ですよ。でも、そこにリアルがあることを見つめないといけないんです。

選手たちは勇敢で、勝つ気満々でいても、そこは早く家に帰って寝たいという気持ちと常に裏腹です。そこを捉えて、指導をしなければならないです。相手だって帰りたい。自分だって帰りたい。そういうなかで折れないことが大切なんです」

──疲れたウィリアムスが自滅し、ギャリーは勝たせてもらったと。

「それでも、ああいう最後の技を持っている選手がどれだけ日本にいるのか。そこを考えると、ギャリーは最後の右を正確に使っていました。アイルランド、英国系は拳闘に強い。UFCジッターがあったかもしれないし、ウィリアムスは序盤が良かったのに、疲れてダメになったのもあります。それでも、アレを使って勝てるのは……練習環境から、何かあるのでしょうね。次も見てみたい選手です」

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