【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月─その参─伊澤星花✖本野美樹「頭抜けて良かった」
【写真】この逸材が、どのようにさらなる強さを身につけていくか (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
引き続き2021年6月の一番、第三弾は20日に行われたDEEP JEWELS33からDEEP JEWELSストロー級選手権試合=伊澤星花✖本野美樹戦について語らおう。
──青木真也が選ぶ2021年6月の一番、最後の試合をお願いします。
「伊澤星花✖本野美樹です。伊澤選手は3試合目とかなんですよね」
──ハイ。デビューが去年の10月で、12月のノンタイトル戦で本野選手に判定勝ち、今回は1Rで一本勝ちしDEEP JEWELSストロー級王者となりました。
「3戦目とは思えない完成度の高さがあります。前回のノンタイトルのときはフィニッシュでなかったけど、タフなゲームを勝ち切った。試合内容としては、前回の方が決着はつかないという部分でも良い試合で。仕上がっているなって思いました。
技術体系として、この選手は蹴りがある。サウスポーの相手に対して、蹴ってから頭を抜いてテイクダウンへ行く。独特いうか……僕は頭を抜いていきたいけどいけないんです」
「ハイ、サウスポーに対して手前の方に抜いて入ることができなくて。アレができるのは独特だし、どういう感性でやっているのかなって。いや良い選手です」
──首を取られる恐怖とかが、ないのですかねえ。
「あぁ、まだ3試合だからそういうのがなく、思い切り戦えているのかもしれないですね。知らない強さもあるけど、しっかりとした強さを持っていると思います。
男子でも女子でもサブミッションがあるのは強い。特に今の女子のレベルだと強いです」
──極めの前の動きからして、しっかりとしていると感じました。
「ニールアダムス式、いやヤスケビッチ式というか」
──背中にのっていないヤスケビッチのような感じだったかと。
「そうですね、ゴロンと返して。しっかりと技量があります。ストロー級だけど、大きくなるかもしれないからフライ級もあるかもしれないですね。ここから、どういう風に可能性が広がっていくのか」
──国内はアトム級までが盛んですが、ストロー級とフライ級は海外ではマーケットが広がっています。
「僕らの時代と違い、国際戦は少ないし。特にコロナ禍においては韓国人選手まで来日できなくなっている。この国内の土壌で、どうやって育てていけるのか。こういうことをいうとアレだけど、女子格闘技は若さとルックスが大切じゃないですか」
──ハイ。
「これ言っちゃうと、フェミニストたちに怒られそうだけど(笑)」
──アハハハハ。それは怖いですよね。そういうリツイートとかありますしね。でも、実際に存在する事象について話しているだけですし、そこまで気を回すと何も発言できなくなります。
「まぁ、そうですよね。そういうので怒られるのは嫌だけど、女子格闘技界には若さとルックス重視というのが、可視化できない部分であるのは確かだと思うんです。そこってフェアな判断がされないってある」
──はい。ルックス以上に顕著なのは、年齢ですよね。30歳過ぎは、35歳過ぎは……という判断で契約をしないプロモーションは絶対に存在します。
「明確にありますよね。その基準で救われる人がいるのも、当然で。それはそれで良いと思っています。ソッチで救われる人がいても良い。でも選手として、競技者として可能性のある人間がやっていける活路って、どこかないのかなって思っちゃうんです。やっぱり、それってないんですよね……」
──そう青木選手が思うということは、伊澤選手はそれだけ可能性があるということでしょうか。
「そう思っています。日本に韓国人選手が入ることができれば、韓国の女子MMAには日本にいないストライカーがいるだろうし、そういうところと交わって経験を積んで欲しいですし。とうしても日本の女子MMA選手は柔道OGが多いので。と同時に伊澤選手は打撃の勘も悪くないと思います。ここまで強いなって思った選手は、久しぶりです」
──そこまで、ですか。青木選手がそこまで買うポテンシャルがあるのであれば、なおさらどのようなキャリアアップができるのか気になりますね。女子選手はもともとベースになっている競技で培った強さが、かなり大きな割合を占めていると思います。
「村田夏南子、渡辺華奈、その通りですよね。村田選手はもとから強かった。そこにMMAの技術を練習で修得していった。渡辺選手は吉田秀彦です。柔道のままで結果を残した」
──下手をすると、戦って強くなる土壌がUFCやBellatorなのかもしれないです。
「ハイ、これは北岡さんも言っていたけど、女子はまだUFCやBellatorでもレベルの差が大きい。男子ほど詰まってない。だから結果を残せば、引っ張れる確率は高くなる。それが日本でできるのか、海外に照準を持っていくのか」
──本人も外の世界でDEEP JEWELSの強さを見せたいと明言していました。そうなると……現状ではどれほどの財政状態にあり、日本から選手を招聘できるのか分からないのですが、Invicta FCはもうキャリア5戦以下の選手はいくらでも出場していますよね。
「あぁ……そうなっちゃいますよね。強かった選手がごっそりUFCにステップアップしてしまったので、もうグラスルーツショーです」
──それこそファイトマネーを抑えることができるレベルの戦績だと思います。
「UFCやBellatorに行ってから、ビジネスしてくださいと。でもインヴィクタでチャンピオンになるとUFCかBellatorへはいける。国内で力をつけて、海外から引っ張れる。それは正しいし、そうあるべきものです。でも、現実はそうじゃない。だからこそ、どうすれば良いのかを考えるのが大人の役割になってきます」
──強く、成長できるマッチアップと結果を残すこと。まさに理想論ですね。
「そうやって次世代に繋いでいくのが、あるべき姿です。僕が女子MMAに触るとクサしているように受け取られることが多いんですけど、全くクサしていなくて。伊澤選手のキャリア3戦にして、あの完成度。頭抜けて良かった──男子でもなかなかない完成度の高さで。
だから、次が楽しみで期待できると、本気で思いました。だから甘い蜜の存在をかき分けることができる指導者が必要だし、メディアもそういう役割を担うべきだと真面目に考えちゃいましたね」