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【UFC】佐藤天に訊いた日米の違い─02─「高い意識の者が突き抜けてしまうようじゃ強くなれない」

【写真】このインタビュー、全てが金言といっても過言でないです(C)MMAPLANET

日本に帰国中の佐藤天インタビュー後編。強くなる──誰もが思っているはずの思考だが、佐藤は日本とサンフォードMMAの違いに関して腹を割って話してくれた。

目標はどこでも良い。強さを求める選手、そして日本を強くしたいと思っているMMA関係者の全てに、佐藤天の言葉を伝えたい。

<佐藤天インタビューPart.01はコチラから>


──佐藤選手が環境の違いという言葉を口にするのは、そういう選手たちのモチベーションという部分だったのですね。

「ハイ。だから米国のジムに移った方が良いとか、そういうことは言わないです。ただし、1度は経験してみると良いとは思っています」

──それは湾曲的な言い回しになりますが、UFCで戦いたいという目標を持っている選手達はということになりますか。

「そういう目標を持っている選手もいるだろうし、色々な目標があると思います。色々な目標があることは良いと思っています。

でも、その目標に向かって……どこまでやっているのか。若いから遊びたいっていう気持ちも分かります。でも、サンフォードMMAで『一回、機会をつくって皆で飲みたいね』とか話していても、実現しないです」

──皆が一緒に飲みに行く時間が創れないと。

「日本でも高い目標を持ち、それだけの気持ちを持って練習している選手はいます。そうなるとその選手の実力が少し抜けるようになる。

そうなると、選手同士ではその抜けた選手に意見できなくなるというように見えることがあります。やっている選手こそ、指導者だけでなく選手からも色々と意見してほしいはずなんです」

──佐藤選手がサンフォードでは、選手から色々とアドバイスをもらうとうことですね。

「ハイ。それが日本だと自分もUFCファイターなり、言われなくなりました。青木さんや元々の先輩ぐらいで。でも強さ、弱さなんて関係ないんです。言ってほしいですよね。どの言葉にも強くなるヒントが隠れている。そういうことを言い合えるのがチームだと思うんです。

高い目標を持って、強さが抜けてくると──『〇〇は強いから』という風になってしまう。そうなってくると、選手は孤独になるし。誰にも理解してもらえないという状況のなかで、強くなるしかない。そういう頑張っている選手が、周囲の選手から『話が合わないよね』なんて風になってしまう。こういう風になってしまうと、『この環境だとしょうがない』って気持ちに陥ってしまいますよね」

──なるほど、設備やジムの広さでなく。日本のMMAを持つ問題点はそういう部分でもあるのですね。

「自分だけ頑張れば良いっていう風になる。それはもう練習している集団であって、チームではないです」

──佐藤選手のこの言葉の真意が伝わってほしいと思います。

「もちろん、自分の知らないところでそういうチームがあったり、そういう関係でできている選手もいるかもしれないですが……。練習って下に合わせる必要はないんです。でも上に合わせるというのではなくて……そうですね、サンフォードだと皆が上を見ている。合わせるとかじゃないですね。

何とか上に行ってやろうという連中が、上を見ている。そうでないヤツは勝てなくなっていなくなっちゃいます。チームメイトも頑張っている選手をサポートしたくて、皆が協力的になれます。そうじゃない選手とは、どうしても表面上の付き合いになります」

──そこで数の論理になってしまいますが、日本では高みを目指す選手ほど浮いてしまうということですか。

「まぁ、そうなるかと……。1人だと感じるようなことがある選手は辛いと思います。それでも頑張っている選手って、もう近寄りがたい存在になってしまうじゃないですか。本当に上を目指して、足らないことがあると思ってもがいているのに、『アイツは違う』って感じで何も言ってもらえないって本当に辛いと思います。もっと色々と言ってほしいはずです」

──私も取材をしていて、今、佐藤選手が話してくれた事例に当てはまるような選手は幾人が思い当たります。そういう選手って取材が終わってからも、話が尽きないというか……どこまでが取材で、どこからプライベートなのか線引きが難しいことがあります。

「モヤモヤしていますよね。そういう選手って。だから、そこが分かってくれる人を信じる。分かってくれているような人も信じる。一本気があるから、付け入られることもあるし……」

──それが選手同士で盛り上げていくことができれば、もっと余裕もできるということなのですね。あぁ、でも本気でUFCで戦おうという選手は、そこが上手くできるセンスを持つ選手と、それこそ一本気で人間関係に苦労する選手に分かれますね。

「そこも分かります。人間関係は難しいです(笑)」

──佐藤選手は、そこもしっかりとしています。

「人は良いところも、そうでないところもあります。だから誰かが話している内容でその人と判断するのではなくて、自分が直接話して真意を理解していきたいと思っています」

──そんなバランス感覚に優れた佐藤選手が、ここで言ってくれていることは本当に有難いです。米国に行くだけで強くなれるということではない。そこに通じているかと。

「サンフォードで練習しているからって、強くなれるわけじゃないです。これは日本での練習でも見られることだと思うのですが、プロ練習の時間が終わった。そこで練習を続けている人間がいる。

『アイツ、凄いな』って寝転がって見ている人間、影響を受ける人間がいます。サンフォードでもアダム(ボリッチ)はとにかく練習の虫です。チーム練習が終わって、20分、30分と動いている。そうなると、そこに引っ張られる人間が何人かいる」

──まさに良く働く2割、なんとなく働く4割、働かない2割の法則ですね。

「いや、本当にそうです。アダムに引っ張られてモチベーションが上がる選手は多いです。でもアダムは孤立せず、そのアダムに皆がどんどん意見する」

──今、佐藤選手が日本に戻って来ていて、そういう米国のジムの真実を尋ねてくる選手はいますか。

「ハイ、います。今日も取材の前に、1人の選手と会って話していました。知らないで良い、悪いを判断してほしくないですね。知った上で、自分で選択してほしいです。知ることは凄く大切で、そこが前提にあってどうするのかを自分で決めれば良いと思います。

それこそサンフォードにいても強くならない人間はいるわけですしね。ホント、全ては自分で。その個人として、強くなるためにどん欲な選手がより良い環境にいることができるか。頑張っている人間が、精神的に厳しくならない環境は日本にいても創れるはずです。個々の気の持ち方で。

ヘンリーもカミも、グレッグも本当に素晴らしいコーチです。でもヘンリーは『俺たちはナンバーワンじゃない。ナンバーワンになるためにやっているんだ』と常に言っています。正直、設備面なんかは日本よりずっと整っています。でも、そこが一番重要じゃないことをコーチたちに教えてもらっています。

だから、あの場にいるだけ強くなれるとか勘違いはしないです。より良い環境に身を置くだけで、強くなれるなんて思わない。それは日本も同じです。でも、そういう指導者にどれだけの選手がついて行っているのかって……。

選手がやる気がいないと、指導してくれる人だってやる気はでないですよね。練習している選手が、その程度かって思われているようだと。本気度がトレイナーの方が上なら、そりゃ上手くいかないです。

個々のモチベーションの集まることで、全体のモチベーションができあがる。そのなかで、高いモチベーションを持つ選手が1人や2人なのと、10人、15人だとチームとしてのモチベーションが違ってくる。高い意識の者が突き抜けてしまうようじゃ強くなれないです」

──今日は本当にありがとうございました。MMAに限らず、全ての道において当てはまる話ばかりでした。

「海外のジムに行くから強くなるなんてことはないです。そのジムで何が行われていて、どういう状況なのか。海外が合わない選手、事情があって海外へ行けない選手もいます。

でも、国内にいても強くなれる。個でなく、チームがその選手を強くできる状況になれば……。もっとやらないと──もっと考えないといけないという風に常に意識する。この感覚が大切だと思います」

──だからこそ、個々の問題でもあるのですね。ここまで色々と考えている、そして分かっているとフルに練習できないもどかしさも人一倍でしょうね。

「まぁ、本当に練習はしたいです。でも、そこまで理解してくれているヘンリーが休めと言ってくれたので。今は休む時だと思っています。

ただ負けているままなので、勝つまではモヤモヤが続くので。このままUFCと再契約できても、それはチャンスをもらえるということに過ぎないです。とても大切なことですが、そこから勝たないと……。敗北って失敗ですよね。そこから何をやっていかないといけないのか、明確にはなっていますし……気合はめちゃくちゃあるので、練習に戻った時には爆発させます(爆)」

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