【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その弐─ヌルマゴメドフ×ゲイジー「引退は信じちゃダメ」
【写真】スクランブル全盛時代、スクランブルにならない強さを持つヌルマゴメドフだった (C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年10月の一番、第2 弾は24日に開催されたUFC254からガビブ・ヌルマゴメドフ✖ジャスティン・ゲイジーの一戦を語らおう。
──10 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?
「ヌルマゴメドフとゲイジーですね。この試合で面白いと思ったのは、やっぱり総合格闘技だということ。ヌルマゴメドフって打撃が粗いと思うんです。でも、だからって打撃が上手じゃないってことではなくて、組みありきだから。それであれだけプレッシャーを与えることができる。あの個体の強さがあって、組むまでにあの打撃があれば無敵だと思いました。
あれだとゲイジーは前に出られない。出ると殴られるし、倒される。それでヌルマゴメドフが押し切っちゃいました」
──あのジャスティン・ゲイジーを相手に……。
「ハイ。ゲイジーが疲れるって、凄いモノを見ましたね」
──テイクダウンも強いですが、テイクダウンをしてからも強かったです。
「ヌルマゴメドフの一番の強味は寝かせる技術です。今回の試合はあまりなかったですけど、倒してから寝かせることができる。だから殴って、極めもある。でも、今回はゲイジーが殴る前から消耗していて。
フォークスタイルはスクランブルがあるといっても、あれだけ力の差があるとゲイジーは無理でしたね。ただヌルマゴメドフも正直、初回は効いていたと思うんです。それでも前に出続けることができる強さ……新しいスタイルじゃないんですけどね」
──新しいスタイルではないというのは?
「凄くテクニカルにMMAを戦うわけじゃないです。GSPよりの前の世代というか。スタイルとして前の世代で、アレは新しいとか最先端ではない」
──打撃からテイクダウンで倒されない。倒されても直ぐ立つ。だから今のスクランブルMMAの時代になったのですが、ヌルマゴメドフは倒して抑えることができてしまう。
「ハイ。GSPはもっとテクニカルで、ジャブも綺麗でレベルチェンジも素晴らしい。そしてレスリングもテクニカルでした。だから参考にしたくなりますけど、ヌルマゴメドフを参考にしようとは思わないですよね」
──確かに、その通りですね。
「結論として、ヌルマゴメドフが強いからってことで他の選手がやってもああはならない。ヒョードルっぽいですよね。マネできるものじゃない」
──そのヌルマゴメドフが無敗のまま引退を決めました。
「あぁ、なんでしょうね……UFCのシステムだと次のスターが生まれるから、また次の戦いが見られる。ヌルマゴメドフがいなくなったからって、UFCがつまらなくなると思わないです。どんどん、出てくるでしょう。マイケル・チャンドラーもいるし、階級を上げたり、落としたりっていう選手もでてくるだろうから。
ゲイジーもまだやるだろうし、ファーガソンもいる。他のロシア人や中央アジア人も出てくるでしょう」
──ただしUFCとしては痛くないでしょうか。
「えっ、なぜでですか」
──ヌルマゴメドフがここまでの存在になったのは、コナー・マクレガーがいたから。ヌルマゴメドフはその彼に勝った。いわばレガシーを継いだ。青木選手やコアファンは、強いファイターが出てくると楽しめる。ただし、UFCに必要な一般層は、そういうレガシーを継ぐ選手なのではないかと。
「あぁ、でもヌルマゴメドフは勝ったままいなくなるってことですね。引継ぎができなかった。そうですね、マクレガーが今、試合をしてもタイトル戦の軸にいないし。そこが継げる選手は出てこないわけだ」
──BMF路線は名実ともにトップにはなれないです。人気は抜群であったとしても。
「そうですね。そもそも僕にとってマクレガーはチャド・メンデス、ジョゼ・アルドまでで。ネイト・ディアスとの時はいわばBMF路線でしたよ。でも、一般の人はそこが必要なんですよね、UFCといえども。タイトル戦の抱き合わせっていうPPVじゃない王者がいなくなるわけだ。
でも、ヌルマゴメドフもまた出てきますよ」
──引退撤回しますか。
「マクレガーにしても一生食えるのに出てくるって……明確にファイトジャンキーですよ。覚せい剤と同じなんでしょうね、やったことないから分からないけど(笑)」
──アハハハハ。例え話でないと、人生破滅です。
「要は快楽ですよ。快楽が欲しくなればヌルマゴメドフも戻ってきます。格闘家とミュージシャンの引退は信じちゃダメです(笑)」