【ONE】活動再開、ONEアスリートの今─01─エドゥアルド・フォラヤン「僕らはトレーニングし続ける」
【写真】心の強さでいえば、この人の右に出る者はいないといっても過言でない静かなる戦士エドゥアルド・フォラヤン(C)MMAPLANET
31日(金・現地時間)にタイのバンコクで活動を再開するONEチャンピオンシップ。5カ月振りのイベント再開を前に、世界各地で非常事態を経験してきたONEアスリートたちは何を想い、どう過ごしてきたのかを尋ねるシリーズ。ONEアスリートの今、第1回はONEの歴史とともに、アジア最強のチームに君臨してきたのがフィリピンのチーム・ラカイからエドゥアルド・フォラヤンの登場だ。
マニラやセブ島では、今も感染者が増え続けているという情報が入ってくるなか、天空の街バギオやベンゲット州はどのような状況なのか。そしてチームの活動を元ONE世界ライト級王者でラカイの精神的支柱でもあるフォラヤンに尋ねた。
──エドゥアルド、お久しぶりです。あまりルソン島北部の山岳地域の様子は日本には伝わってこないのですが、ご家族は変わりないですか。
「ファミリーは大丈夫だよ。本当に限られた移動範囲で生活をしているけどね。まだ子供も小さいし、外に出すことは控えているよ。とにかく我慢の時だね」
──今年の1月にはフィリピンでONEが開催され、あの時点でもCOVID19の問題は存在しました。
「確かに。ONEのホテルや会場でもマスク姿の人が多くなってきていたよね。消毒液がレセプションにも置かれるようになっていて。そうだね、それが一気に世界に広まってしまったね。フィリピンでも3月になり感染が拡大したんだ」
──フィリピンはアジアでも感染者はインドネシアに次ぎ、アジアで2番目です。マニラやセブはコミュニティ隔離が行われているままです。ルソン島では都市間の移動が禁止され、夜間は外出禁止、買い出しは1人でという政策もありました。バギオやベンゲット州はどのような状態でしょうか。
「コルディリェラの行政の働きは良かったよ。しっかりとしたガイドラインを作り、警察も協力していた。だから感染者の数を抑えることができた。僕らのバランガイ(市と町で構成されるフィリピンで最小の地方自治単位)ではロックダウンは7日間ほどだけだった。この間に感染者との濃厚接触があった人々のテストが行われ、結果的に僕らのバランガイでは感染者数は40人程度だったんだ」
──素晴らしいですね。
「6月になってからはMGCQ(Modified General Community Quarantine=修正を加えた一般的なコミュニティ隔離処置※政府が定めた4段階の警戒レベルで最も下位のモノ。マニラ首都圏やセブ島は一番上のECQ=Enhanced Community Quarantine=強化されたコミュニティ隔離処理)に指定され、一部の宿泊施設以外の経済活動はガイドラインに沿って再開されたよ。でも今回のパンデミックは世界的に多くのビジネスに影響を与えている。フィリピンでも多くの企業が倒産に追い込まれているよ」
──そんななかチーム・ラカイでのトレーニング状況はどうなっていますか。
「MGCQでもスポーツに関しては、接触の限られたモノという規定になっているんだ。でも、ラカイではプロフェッショナル・アスリートは練習しているよ。一般のジム生の来館は許されていない状態だけどね。
いずれにしても、COVID19に関してはワクチンや薬が開発されてないと、ずっとこういう状態が続くことになるだろうね。エコノミーだけでなく、人々の健康をずっと蝕むことになる。本当に怖いウィルスだね」
──そのなかでMMAの練習はソーシャルディスタンスを取るというわけにはいかないです。
「ソーシャルディスタンスを保っていたら、MMAの練習はできないよね。これはコンタクト・スポーツ、トレーニング・パートナーとはコンタクトが必要になる。そして、既にウィルスはジムにあるかもしれないという現実を受け入れて、練習する必要があるんだ。
もちろん、だから練習前には検温して、手洗い・うがいなど自分たちでできる予防策はこうじているけど……だからこそ、プロだけで練習をしているということだね」
──この機会に少し体を休めようという気持ちになったことはなかったですか。エドゥアルドも相当に体を酷使してきているはずですし。
「アハハハ。僕からトレーニングを奪い取ることは難しいよ。これまで通りとはいかないけど、家にいても走ったり、軽くボクシングをしたり、体を動かすことはできる。でもジムで練習することだって必要だ。僕らはプロフェッショナル・アスリートで休むことも必要だけど、それ以上にこの間に練習をしていないと、多くのモノを失ってしまう。
ラカイのプロ選手は懸命にフィジカル・コンディションのキープに務めてきたから、パンデミック前と変わらない体調を保てているよ」
──その姿勢に対しても、賛同できない人がいるかと思います。
「今、皆が家にいてソーシャル・メディアで意見を発することに夢中になっている。そして、人の間違いを指摘することに集中しているようなケースもあるよね(笑)。僕らアスリートにはトレーニングが必要だということは理解されないこともある。
結果SNSでバッシングされることもあるよ。理解されないこともあるけど、チーム・ラカイの面々は状況が許せばいつでも戦える状態を保ってきた。
7月31日にONEチャンピオンシップがバンコクで活動を再開するのは、明らかに良い兆候だしね。暫らく時間が掛かるかもしれないけど、またONEが以前のようにイベントを開くようになり、フィリピンで大会が行われるときのために、僕らはトレーニングを続ける。
でも、今はまだ我慢は必要だ。ホント、我慢の時なんだよ。それでもチームの士気は高い。そして、戦えない状況がメンタルを強くしている。このコロナ問題で僕らは色々なことを知り、学ぶことができたと思うんだ。この期間のことをレッスンにできるかどうかは、とても大切なことだよ。命の大切さ、そして自由であること。そのことを感謝しないといけない」