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【Bu et Sports de combat】ヌルマゴメドフ✖マクレガー戦から見る──武術の四大要素、総括=入る─06─

Gokikai Karate【写真】選手が意識する必要がない武道の叡智、しかし稽古は必要。この辺りを今後も解明していきたい(C)MMAPLANET

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の要素──『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態はMMAで勝利を手にするために生きる。才能でなく修練により、誰もが身に付けることができる倒す力。

『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態を経て、理解できるようになる『入れた』状態とは。武術の四大要素編、総括となる『入る』について剛毅會空手・岩﨑達也宗師に尋ねる。

第6回は引き続き昨年10月6日に行われたUFC229のガビブ・ヌルマゴメドフ✖コナー・マクレガー戦を参考に、MMAで数多く見られる武道の叡智が生かされる場面、そしてその生かし方の困難さを紐解いていきたい。

<武術の叡智はMMAに通じる。武術の四大要素、総括=入る─05─はコチラから>


──入れたダブルレッグにより、テイクダウンを決めたヌルマゴメドフがラウンドは取ったのですが、インターバルが入ると3Rにはまた形勢が変わり、マクレガーが圧し返しました。

「あの状況でいえば、マクレガーとヌルマゴメドフのスタンドの打撃の質量の違いから考えて、いくら前のラウンドでヌルマゴメドフはパンチでダウンが取れたとしても、ここもテイクダウンに行くべきだったと思います。

2Rのグラウンドや組みの攻防で、マクレガーは一度心が切れたように見えました。しかし3Rにヌルマゴメドフがスタンドに居座ったことで、まだ勝機があると肝を据え直し、質量を上げることができていたんです。

あの大舞台、あの苦境にあって質量を上げることができたマクレガーという格闘家の精神力は、本当に大したモノです。そのマクレガーに対し、ヌルマゴメドフは「入れない」パンチで倒そうとしていたので、あのラウンドで間がもう少し合っていたら勝負は違っていたモノになっていたかもしれないです。

とにかくビビって質量が下がっている時に前に出る行為は非常に危険です」

──そこで前に出ることを漢と評し、またプロモーターも勝ち目のない打撃戦を仕掛けたファイターの大逆転、もしくはそのままのKO負けを望む傾向は格闘技には付き物です。

「選手を勝たせるのがセコンドの仕事。私がコーナーについていると、そのような場面では相手の打撃を外すことに専念させ、捌くことを指示します」

──「入る」という観点で見ても、非常に見所が多かったヌルマゴメドフ×マクレガー戦は結局、4RにヌルメゴメドフのRNCで決着がつきました。

「あのラウンドは立たせないで戦おうとするヌルマゴメドフの質量と、立ち上がろうとするマクレガーの質量とのせめぎ合いが非常に見応えがありました。

ヌルマゴメドフはマクレガーが立とうとする状態にしておいて殴りたい。ただし、その状態にするとマクレガーに立ち上がられる確率が高くなります。1Rと同様にヌルマゴメドフは質量の低いケージレスリングを展開することになります。

あの場面、ヌルマゴメドフが怖いという意識が戻って来て、勝ち急いでいました」

──では、あの場面で岩﨑さんがセコンドに就いていればどのような指示を与えていたでしょうか。

「マクレガーは立ち上がりたい。その隙にヌルマゴメドフは殴りたい。そのマクレガーの立ち上がり際こそ、組んで倒す絶好の機会だったんです。立ちたい人間は、立った瞬間に隙ができます。『立てた』という安心感を持たない人間はまずいない。立とうと思っている時よりも、立てた後の方が体は軽くなるのです。これは実際に体験してもらうと分かることです。

ここでケージレスリングという他に類の見ない攻防が見られるMMAの醍醐味があります。立たせたくないから、立たたせる。それによって、再度倒せる連続の攻撃性が見られるのです」

──絶対的に武術空手の理に関して、学んだことがないはずのジョン・フィッチが繰り返しケージに行なってきた攻撃は、そういうことになるのですね。いやぁ、面白いッ!!

「ただし、あの場面でマクレガーもまた倒されたくないという想いが、立ち上がりたいという気持ちを上回り重心を低くし過ぎました。結果、バックを許しそのまま寝技に持ち込まれ勝負は決したのです」

──バックマウントからマウントを取られ、背中を向けて立ち上がろうとしたところでRNCに敗れました。いやぁ、武術の叡智とは局面、局面で如何に勝利のみに拘った選択を取ることができるのか。だかこそ、MMAに役立つことになるというのが改めて分かったような気がします。

「殺傷能力の高い人間に対し、如何に「入れる」のか。武士の時代は相手が刀を持っているのだから、想定しやすかった。質量で上回って入っていなければならない。1対1で無理なら、人数で上回れば良い。だから、1対1対の無手で戦う格闘技により、覚悟も極めやすいですよね。

もちろん、恐怖も比較にならないので、そこができない人間は死ぬわけです。そのような理を格闘技という競技のなかで究めようと思っても不可能なんです」

──だから選手はそこを意識する必要はなく、セコンドにその見地があると違ってくると。

「それが選手を助けることになるかどうかは、私もセコンドに就いてきて色々な場面も見てきました……。選手は「入れている」のに、ここで「入れなくなる」という動きをよくするものなんです。そういう場面で、その見地を知っている方が彼らの役に立てることは間違いないです」

──MMAのように攻撃手段が多いと、そこがより生きて来るのかもしれないですね。

「本来、攻撃手段が多いとそういうなるでしょう。ただし、今のMMAには打撃を打って、組んでテイクダウンという流れがあります。その流れを練習して体に染み込ませているので、入った状態の打撃でそのまま攻める場面でテイクダウンを習慣のように繰り出すことも少なくない。

それはポイントゲームという側面もあるので、間違っているとも一概には言えない部分もあります。けれども、勝負として決めにいける場面を今のMMAだからこそ、逃すということもあるんです。これがホイスの時代だったら、「入れている」選手は、そのままの状態で勝ちに行っていたかもしれないですね」

──MMAの勝利の方程式が確立していなかった時代は!!

「そういうことも言えるので、この連載を通じて伝えさせてもらっていることは、武術のファクターを追及するのではなく、MMAに如何に生かすのか。それを説明させてもらってきたのです」

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