【Bu et Sports de combat】武術の叡智はMMAに通じる。武術の四大要素、先を取る─04─
【写真】カウンターと後の先の違いとは……(C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、通じている部分が確実に存在している。ナイファンチン、クーサンクー、パッサイ、セイサンという型の稽古を行う意味と何か。
武術の四大要素の一つ、『先を取れている』状態とは相手の攻撃を受けず、自らの攻撃が必ず当たる状況を創ることにある。そこに重量とは違う、質量が存在していた。
後の先は迎撃ではある。襲撃ではあるがコンバットスポーツに見られるカウンター攻撃との違いは、当たるかどうかの確率ではなくリンゴが木の枝から落ちるのと同様に結果は全て同じだという法則性にある。
格闘技と武術の違い、その接点がカウンターと後の先の違いにより──見えてくる。
<先を取る──Part.01はコチラから>
<先を取る──Part.02はコチラから>
<先を取る──Part.03はコチラから>
──先の先をとっていると、絶対にテイクダウンを決めることができるという言い方もできるのですね。
「これが日本語の難しいところで、先の先も後の先も、先は先なんですよ。ただし、空手は基本的に後の先から稽古をします」
──それはなぜですか。
「簡単だからです。いや簡単だというと語弊がありますね。相手の攻撃を受けて突くという稽古自体が後の先です。ただし、先の先、後の先と便宜上分けているだけで、大切なのは先を取ることなのです。
便宜上、先制攻撃である先の先、迎撃である後の先として稽古をしているだけで。ただ迎撃といっても、格闘技界や一般で言われているカウンターにはならないです。世間で言われているカウンターとは反応です。相手の動きに反応するということは、先を取っている状態にはなりえないのです。
反応、反射神経というものを武術は必要としない。反応するということは相手にイニシアチブを取られている。そこで手を出すと、再現性ではなく確率の問題になってしまうのです」
──う~む……。
「先の先は迎撃されないようにする先制攻撃。先制攻撃を貰わないで、迎撃するのは後の先。どちらも相手の攻撃を受けずに自分の攻撃だけ絶対に当てる。先が取れている状態とはそういうことなのです」
──ジャブを当てる、これも先の先になりますか。
「ある次元で先を取っていることにはなると思います。ただし、動作に対して動作を追う行為は、物体を物体で追うのと同じことになります。その一方で戦う人間には心理だったり、呼吸だったり色々なモノが作用しています。その心理的な部分は、呼吸に一番表れます。
その呼吸の部分まで作用していることを、どこまで観ることができるのか。ここでまた、観えている状態と先を取れている状態が重なってくるのです。
どこまで観えているのか。ダブルレッグの動作を見ていると、それは反応になります。ダブルレッグの呼吸に合わせていると、相手は入れなくなる。観えている状態、先を取れている状態の次元として、MMAにおけるジャブやカウンターの多くは確率として、絶対的により低くなるわけです。
ただし、ジャブやカウンターにしてもある程度の次元で先を取れている状態ではあるということになります」
──その精度が求められるということですね。記事を書く人間としては失格ですが、武術の四大要素は言葉で追うと理解が難しくなります。頭でイメージして、思考と合致していかないと。
「なのでこれも毎回のように口にしていますが、空手の稽古を一緒にしている選手達がMMAの試合を戦う時に、武術的な次元は一切必要ないです」
──選手が意識しなくても、先が取れている状態になるとどのような事象がケージ内で見られるのでしょうか。
「相手が一瞬、嫌に感じているはずです。嫌に感じるという状況が、そのコンマ何秒か、コンマゼロ何秒に意味があります。普通にワンツーを打っても、打ち返されます。一つ、前蹴りを入れると相手はカウンターを取り辛くなります。だから、しつこく蹴る必要があります。
蹴りを見せることで、相手はパンチが打ち辛くなるので、自分は逆にパンチを入れやすくなる。これは前蹴りで先を取っていることになります。ただ、前蹴りを蹴る時の足の位置が1センチや2センチの違いで、対戦相手との関係値がまるで変わってくるのです。
グランドスラムで、田中路教選手がホジェリオ・ボントリンを相手に戦った時、MMAで日本人選手が外国寺院選手に対して久しぶりに先が取れている状態を見ることができました」
<この項、続く>