【WJJC2016】ライト級で頂点目指す──岩崎正寛 「僕の柔術人生はアップセットの連続」
【写真】不言実行でなく、有言実行の人──岩崎正寛。5つの技の精度、そしてどのような5つの技を磨き本番に挑むのか。非常に楽しみだ(C)TSUBASA ITO
6月1日(水・現地時間)から5日(日・同)にかけてカリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われる。競技柔術世界一を決めるワールドのライト級に岩崎正寛が出場する。事実上、ルースター級の芝本幸司以外の日本勢の目標はベスト8進出という空気のなか、岩崎は上位進出を公言している。その発言の真意とは。
Text by Takao Matsui
「向こうでは、まさに削り合いをする練習でした」
3月に開催されたパンアメリカン選手権が終わると、岩崎はその足でマルセリーニョ・ガウッシアの道場へ向かい、1ヵ月間の武者修行を経験した。そこでは、ジャンニ・グリッポ、マンシャー・ケラ、ジョナサン・サタバ、ベルナルド・ファリアらトップ選手との地獄のスパーリングが待っていたという。アドバンテージを巡る攻防、意地と意地がぶつかり合い何度も激しく転倒する両者、試合さながらのスパーリングが1回のクラスで5分×5本も行なわれる。2クラスになれば、もちろん本数は倍になる。1日に10試合もするようなイメージだろうか。
「想像以上に過酷でした。彼らは毎日、生き残りをかけた戦争なような日々を送っているので、それが強さの秘密なんだなと肌で感じました。こんな練習を毎日やっていれば、心が強くなります。1ポイントでも相手より上回るために練習でも勝負に拘っている姿を見て、刺激を受けました」
トップ選手は、勝負に対する執着心が尋常ではないとよくいわれるが、その強靭なスピリットは道場で培われているのだろう。地獄のスパーリングの中で岩崎は、一人の選手に目を奪われた。それは茶帯時代に世界王者となったディロン・ダニスの諦めない姿だった。
「スパーリングでは感情を剥き出しになって戦い、何度極められても諦めずに向かっていく。彼がライオンと呼ばれている理由が、よく分かりました」
倒れても倒れても、這い上がっていく。生き残るためには、そうした姿勢は不可欠だ。岩崎は、ディロンの必死な姿を目の前で見て熱いものが込み上げていた。
「世界のトップレベルになると、ライト級、フェザー級で活躍する日本人はいません。彼らに少しでも近づくためには、日本へ呼んでレベルを上げさせてもらうか、出稽古をして技術をつけるかが一番の近道になります。やるべきことが明確ですから、今回の出稽古は自分の技術を確認できた意味でも大きな収穫になりました」
確認とは、これまで磨いてきた技術が間違っていなかったか。そして、通用しない技術の見極めにあったそうだ。
「新しい技術は、たくさんありましたが、自分の持っている技術は減りました。どういうことかというと、通用する技術をより洗練させるためにも付け焼刃になっている技術をすべて捨てる必要があったからです。試合でかかる技は、そんなにたくさんはないわけで、5つあればいいと今は思っています」
マルセリーニョは、「5つの技を特化させろ。その技をいかにつなげて使っていくのかが大事」と何度も力説していたという。少ない武器でも、その質を高めることができれば十分に勝てるとうこと。野球に例えれば、多彩な変化球を持つ投手よりも160kmの剛速球と落差のあるフォークボールがあれば世界で通用するようなものなのだろう。
「これもマルセリーニョが話していましたが、『柔術は戦争と同じ。100人の素人と5人の精鋭が戦えば、精鋭が勝つ可能性は高い。だから5つの技術を磨け』と言われていました。その通りだなと思います。ただ一方で、DVDや映像などで研究して技術を磨くだけでは不十分だと思います。技についての基本は学べると思いますが、そこに至るまでのプロセスであったり、つくりを学ぶことは映像だけでは難しい。それらの動きには、名称がないからです。そうした動きは、本番に近い日々のスパーリングで培っていけるように思います」
たくさんの技を知っているだけで勝てるならば、誰でも努力次第で上へいくことができる。緻密な戦略と仕掛けるタイミング、正確さ、スピード、パワーなど、様々な要素が合致してこそ結果に結び付くのだろう。最後に岩崎は大会への抱負を次のように語った。
「ニューヨークオープンの時は、まさか僕がここまで勝てるとは思っていなかったでしょう(準優勝)。今回の世界選手権も、ライト級という層の厚い階級で、僕が勝てると思っている人は少ないかもしれません。でも岩崎ならば、何かをやってくれると期待される選手でいたいですね。僕の柔術人生はアップセットの連続ですから」
心技体が揃ってきた今の岩崎が、サプライズを起こせることができるか。ワールドで奇跡と呼ばれる結果を起こす可能性は──果たして。