【ONE109】社会を変えたレスリング一家からMMAへ、リトゥ・フォーガット「私がインドを代表して…」
【写真】立派なカリフラワー・イヤー、彼女の人生がレスリングと共にあったことが分かる(C)MMAPLANET
28日(金・現地時間)にシンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムで開催されるONE109「King of the Jungle」。同大会でリトゥ・フォーガットがウー・シャオチェンを相手にMMA第2戦を戦う。
昨年11月の中国大会でONE=MMAデビューを果たしたフォーガットは、インドで社会現象を巻き起こした映画「ダンガルきっと、つよくなる」の主人公で2012年のロンドン五輪出場&世界選手権3位ギータ・フォーガットと、姉を背中を追いリオデジャネイロ五輪出場を果たしたバビータ・クマリの実妹で、厳格な父マハヴィル・シン・フォーガットに育てられた。
リトゥ自身もコモンウェルズ・ゲームで金メダルを獲得しアジア大会でも銅メダル、U23世界選手権で銀メダルを手にした。そんなインド社会を変えたダンガル(レスリング)一家からMMA転向した彼女に初インタビューを試みた。
──多くのプレスからお父さんやお姉さんのことを尋ねられたと思いますが、私もリトゥがMMAに転向する以前に「ダンガル」を視聴させてもらっていました。映画なので誇張された部分もあるかと思うのですが、リトゥはあのよう厳格なお父さんにレスリングを習っていたのですか。
「映画は99パーセント事実、フィクションじゃないわよ」
──本当ですか!!
「えぇ、決して誇張はされていない。というよりも、実際の父はもっと厳しい人だったから、真実よりも抑えられて表現されていたくらいよ(笑)。
私も7歳の時から父にアカラ(インドに伝わる伝統レスリングレスリング=クシュティの練習場。寝所がある場合もある)に連れられて、姉たちに混ざってレスリングの練習を始めたわ」
──2012年4月にパンシャブ州のチャンディガールを訪れた時に、クシュティの練習を見させたもらったことがあります。ただ女の子や女性の姿は見なかったです。
「そうね……、2010年までレスリングは女子が参加できるスポーツではなかったわ。でも、2010年には姉たちが国際大会で活躍するようになって注目されるようになり、2012年のロンドン五輪で出場してからは一気に人気が上がったの」
──4月だから、人気爆発の直前だったわけですね!!
「2016年はインドの女子レスラーが五輪で銅メダルを獲得し、今ではインドの親たちは男の子だけでなく、女の子でも率先してレスリングを習わせるようになっているの。だからダンガルの練習場やアカラでも、多くの女の子の姿が見られるはずよ。その礎を姉たちが2010年から築いてきたの」
──ところで国際大会ではフリースタイル・レスリングで活躍していましたが、油をしみ込ませた土……泥の上で戦うクシュティと技術的な違いはどのような点にありますか。
「サークルの外に押し出してもポイントにならないし、クシュティではピンを取らない限り決着はつかない。ポイントの奪い合いではなくて、肩のつけ合いが続くから自然とグラウンドでの戦いはフリースタイル・レスリングのより長くなる。何よりフリースタイル・レスリングのようにブレイクもないし、ラウンド制でもないから1時間以上、続く試合もあるわ」
──ピンを取るまでグラウンドが続く、つまり……。
「そうMMAにより適しているでしょ? それにダンガルのテイクダウンに関しても、本当にMMAで有効だと感じているわ。クシュティとダンガルの経験があることで、凄くMMAに役立っている」
──映画になるほど有名なレスリング・ファミリーから、なぜリトゥはMMAに転じようと思ったのですか。
「冒険がしたかったのかな(笑)。姉たちはレスリングに集中していたし、確かに私達のファミリーはレガシーとされているけど、私は姉たちとは少し違っていたの。少し前からボクシングやMMAを見るのも好きになっていて……。でもMMAを見ているとインド人のチャンピオンがいない。自分のレスリング力をMMAで試したくなったの。
インドのレスリングとマーシャルアーツには、数千年の歴史があるのに、インド人選手はMMAで活躍できていないから、私がインドを代表してMMAで戦ってみたいと思うようになった感じね。そしてONEと契約する機会に恵まれ、去年の2月からイヴォルブMMAでトレーニングするようになったの」
──グラウンドで打撃のある競技に転向することに関して、お父さんの反応はいかがでしたか。
「MMAに転向するのは簡単なことじゃないし、大きな決断がいったわ。だから姉にも父にも相談したし、よく話し合って決めたの。結果、父も家族の誰もが、私の選択がどのようなモノであれ尊重してくれたわ。今も凄く応援してくれているし。
あの時、父が言った『どのような選択をして、どこに進もうが全力を尽くせ。練習でもレスリングの時と同じように、常に本気で取り組め。絶対に妥協するな』という言葉を私は忘れることはないわ。
父は私が本気になってMMAに取り組めば、殴られる数よりも、殴る方が多いって自信をもっているみたい(笑)」
──お父さんが若かった頃、彼もMMAにチャレンジしていたでしょうか。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。それは父に聞いてみて(笑)」
──ところでMMAの練習を始めた時、どういう点が難しかったですか。
「レスリング以外のマーシャルアーツの練習することが、簡単じゃないことは分かっていたし、本当に基礎的なことから指導してもらったわ。ムエタイも柔術の技術的に何も知らなかったから、しっかりと基礎を学んだ。それでも時間は掛かるし、我慢が必要なのは当然で。でも、それ以上に全てが新鮮で楽しいわ」
──同じ寝技でもトップコントロールのレスリングと、ボトムポジションで背中をつけることが許された柔術、まるで異質なモノですが慣れましたか。
「デビューまで10カ月間練習をしっかりと積んできたし、そうね──寝技に関しては7歳の時から18年もレスリングをしてきたから、フィジカル的に私は恵まれている。レスリングにないポジションだからこそ、しっかりと学んできたの。自分からもそうだし、仕掛けられた時にも対処できるように」
──ところでイヴォルブでは澤田龍人選手と練習しているのでしょうか。澤田選手はレスリング出身で柔術を学んできた選手です。
「リュウトのスピードのある柔術は練習していても、本当に予想できない動きで。あのテクニックは見ているだけでも楽しいわ(笑)」
──では金曜日、どのような試合をしたいと思っていますか。
「私はもうレスラーでなく、ストライカーでもあるから、レスリング以外のスキル、これまで習ってきた動きを見てほしいわ」
──ところでリトゥがONEで戦うようになり、インドのMMA人気は変化が見られますか。
「インドでMMAはまだまだ普及していないけど、私がONEと契約したことで、デビュー戦を多くの人が見てくれたわ。そして、状況は一変したかもしれない。直接目にできるところでは、SNSでも凄く反応があって。少し時間をかければインドでMMAは一番人気のあるスポーツになるはずよ」
──ではリトゥのMMAファイターとしてのゴールを教えてください。
「インド人初の女子MMA世界チャンピオンになることね。そうすれば、MMAでなくてもどんなスポーツでも懸命に頑張っている女の子の模範になれるから。そして、MMAがインドで普及するのに役立ちたいと思っているわ」
■ONE109対戦カード
<ONE Super Seriesキックボクシング世界女子アトム級選手権試合/3分5R>
[王者]スタンプ・フェアテックス(タイ)
[挑戦者]ジャネット・トッド(米国)
<ONE Super Seriesムエタイ世界ストロー級選手権試合/3分5R>
[王者] サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ)
[挑戦者]ロッキー・オグデン(豪州)
<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
アミール・カーン(シンガポール)
江藤公洋(日本)
<ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R>
秋山成勲(日本)
シェリフ・モハメド(エジプト)
<女子ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
ティフェニー・テオ(シンガポール)
三浦彩佳(日本)
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
山口芽生(日本)
デニス・ザンボアンガ(フィリピン)
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
トロイ・ウォーセン(米国)
マーク・アベラルド(ニュージーランド)
<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R>
シャノン・ウィラチャイ(タイ)
ホノリオ・バナリオ(フィリピン)
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
リトゥ・フォーガット(インド)
ウー・シャオチェン(台湾)
<ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R>
ムラット・ラマザノフ(ロシア)
ペ・ミョンホ(韓国)
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
ラディーム・ラフマン(シンガポール)
ジェフ・チェン(カナダ)