【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その参─米山千隼✖石司晃一「強くなれる試合」
【写真】神々しいという言葉まで聞かれた青木の米山評(C)KEISUKE TAKAZAWA/MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一番、第3弾は22日に開催されたDEEP92から米山千隼✖石司晃一の一戦を語らおう。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目はどの試合になるのでしょうか。
「米山千隼選手と石司晃一選手の試合ですね。米山さんですが……住村竜市朗選手のサポートがあったので、しっかりと試合を見ることはできなかったんです。
ただただ控室でオーラがあったんです。話をするわけでもなく、挨拶をするだけだったのですが、表現者として優秀なのではないかと感じました。写真とか撮影をしていて、そんなことを感じることはなかったですか」
──先日、ゴング格闘技で初めてロングインタビューをさせてもらった時に彼の半生を聞き、自分にはない人生を歩んでいることを知りました。そしてUFCを目指す本気度、計量などでも醸し出し空気感が違ってきているというはありました。
「ですよね!! きっと表現しようとしているんじゃないと思いますけど、計量の時とかも違いましたね。控室で会うのは初めてだったので、本当にオーラという言葉を使ってしまいますが、『えっ』と思いました。お金を払う価値のある表現ができますね。彼は」
──特にこの試合は石司選手という相手でもあり、雰囲気がさらに引き締まったように感じました。
「パンクラスの時の試合も見ましたが、あの時は圧倒して。今回は試合に出て、戻ってきたときにまたオーラが違っていました。色々なファイターを見てきましたが、とにかくオーラが違う。ああいう神々しさを感じた選手はいませんでしたね」
──青木選手がそこまで言うのも珍しいですね。
「あとウェルター級とかミドル級に見えるぐらい大きくなっていました」
──試合に関しては序盤はややドタバタしていた部分がありました。ただ、どういうことがあっても自分の技術に自信を持っているような。
「あのヒザも鋭かったです。信じているから帳尻を合わせることができる。帳尻を合わせることができる選手は、強いです。上にあがった人でも、『こいつ、ホントにできるのか』っていう時期があったと思うんです。それは僕もそうだし、北岡もそう。堀口恭司選手はそういうことはなかったですけどね(笑)。
最初から本物だって言われていて、上がった人間ってほぼほぼないですよね。どうなるかなんて分からない。本物というと色々と語弊があるからもしれないけど、帳尻合わせて勝てるんだなって。それはちゃんと強いってことだし。
石司選手に勝ったことはアップセットとまだ捉えられがちだけど、今後を見ていくと当たり前だったとなるかもしれない。ちょっと器が違うかもしれないですね」
──UFCにいくために、自分より強いとされている選手に勝つ必要があるという考えのようです。
「そういう米山選手に日本人の上とされる選手が、次々と『戦ってやる』とはならないかもしれないですけど、結果的にチャンピオンシップを目指して戦っていくことが、UFCへ海外に行くための近道になるでしょうね。
キャリアを創ろうとして、勝ち星を拾ってレコードを創るっていうのは、もう一昔前。リスクのない相手を選んで、勝ち星を集めてっていうやり方はもう違いますよね。とにかく米山選手の強い相手と戦っていくという姿勢は正解だと思います。
リスクを背負って、それでまた勝たないと。米山選手と石司選手の試合はそういう意味でも、強くなれる試合でした」
──DEEPバンタム級戦線だとチャンピオンはビクター・ヘンリー、上位選手は元谷友貴選手、大塚隆史選手になってきます。
「とにかく、DEEPにいるならそこら辺とやっていくこと。リスクを背負わないで上に行くなんてことはもう無理です。皆が上に行きたいんだから、全員が上に行けないなら勝ち上がるしかない。そうならざるを得ない。以前は持っているお金を運用していこうとしたけど、今はもうリスクを取るしかない。それは格闘技として良い方向だと思っています」
──ということで、今回の青木アワードは米山千隼選手になりました。
「ハイ。とにかくオーラというか、賭けている感のある人。この試合をしたことで、一回り強くなったと思います」