【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その参─Part.02 青木アワード受賞者がいない理由(わけ)
【写真】ヤン坊、本田良介はなぜ青木アワードを受賞できなかったのか……決して、彼らだけの問題ではない (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一番、第3弾は7日に開催されたUFC242からベラル・モハメッド✖佐藤天だったが、青木アワードの受賞はなかった。
何故、青木アワード受賞者は出なかったのだろうかを青木が語った。
<月刊、青木真也のこの一番:9月─その参─Part.01はコチラから>
──ONE JAPAN SERIS、修斗、パンクラスと興行があり20代の選手の活躍していました。それでも青木アワードの受賞がないというのは?
「悩みはしました。候補でいえば修斗で本田良介選手、それとONE JSの野瀬翔平選手と野尻定由選手……あとはパンクラスで雑賀ヤン坊達也選手でした。ただ、野瀬選手と野尻選手は相手も本人もキャリアもまだまだ全然だし、ここからの選手だろうということで。
本田選手とヤン坊は、なんかスゥ~と流れてしまった感じですね。それは選手だけでなく、事前に彼らのことが入ってこない。そういう売り方というところも、関係してしまったのだと思います」
──ヤン坊選手はトム・サントスにKO勝ちしました。そこは評価の対象かと思ったのですが。
「う~ん、なんか謎ですよね。分からない。どこで戦ってきたかもわからないし、凄く試合数も少ない。今のパンクラスだったら、すぐにソリホンをやるかもしれないですよね」
──う~ん、トム・サントスはタイトル挑戦経験のある選手ですし、そこにKO勝ちですからね。
「ソリホンも謎っちゃ、謎です」
──パンクラチオンから彼をパンクラスに紹介した田中健一さんによると、『ハバロフスクで3位』だそうです。
「それもまた謎で(笑)。でも、田中塾長は面白い人ですよね。実は田中塾長からロシアで試合をしないかって誘われたこともあるんです。『これでどうだ?』って5本指を見せてもらって。でも、僕が思った額と桁が違っていたので丁重にお断りさせてもらいました」
──アハハハハ。
「塾長は面白すぎますよ」
──凄く丸くなられたと思います。
「へぇ、そうなんですか。エピソードの固まりのような感じの方ですよね」
──ですねぇ。もう大昔ですけど、川崎の屋台村で格闘技がやっていた頃ですから、ホントもう20年も昔ですね。田中さんが私のところにやってきて『お前みたいにロン毛で茶髪ばかりだから日本は弱くなったんだ。もし、強い順に国から50人選んで米国、ロシア、日本人が素手で戦うのが戦争だったら、日本は絶対に勝てないぞ』って言われて。いやぁ、それは……。
「戦争とは言わないと(笑)。まぁ、国力を疑似化したものには既にオリンピックが存在しているので。
でも、そういう感じですよね……塾長は。『日本人はロシアに行って戦わないと、本当の強さが分からない』って言っていましたし。凄く魅力的ですよ。実際にロシアまで行って、危ないところも見て回ってロシア人を日本に連れてきている。そんなことができる人はなかなかいいないですし。今はロシアに傾倒しているけど、前はラウェイに傾倒していましたしね」
──ホント、国とか関係なく身一つで戦えば誰が強いんだっていうところが田中さんの軸にあるんだと思います。修斗でなく、シューティングの人という感じです。
「だから違いますよね、坂本(一弘)さん達とは。雰囲気が違う。完全に独自路線だし。キックとフィジカルのMMA。髙谷裕之選手や田村彰敏選手が田中塾長の下から出てきた。いやぁ、強さに真っすぐな人ですよ」
──まさかの田中健一さん論から、話を戻していただいて(笑)。
「話を戻すと、日本人選手は育っていないですね。大会数が増えても、実力の底上げになっていない。足切りがないから……逆に大会数が減った方が、強いヤツと本気のヤツしかいなくなってレベルは高くなるのかもしれないですね。
昔は修斗とパンクラスしかなくて、しかもパンクラスは重いクラスだけだった。あの時の修斗は、層の厚さでいえば今より全然あって、しかも国内のトップが集まっていたことになりますよね。技術的にいえば、それは今の方が進んでいますけど、あれだけ人間が集まっているプロモーションがあったほうが健全でしたよね……格闘技興行としても。時代の相対論でいえば、あの頃の修斗が一番です」
──そうですね。練習の成果を発揮するという大会があるのも、日本のMMAの形で他では余り見られない特徴です。その良さがある一方で、強い選手を育てる環境としては、今は大会が飽和状態なのかもしれないですね……上の選手のプロモーション間の行き来がない限り。ところでONE JSではクレベル・コイケ選手が素晴らしい一本勝ちを収めていますが。
「クレベルはもうKSWでチャンピオンになっているし、青木アワードの対象にならないですよ。
だって、ミゲール・トーレスに勝っているわけですからね。クレベル・コイケが青木アワードの対象になってしまう。ここでもっと知ってもらう対象だということが、今の現状で……。
僕にとって彼はもうメジャーなので。だってポーランドで6万人の前で戦って勝っているんですよ。KSWのチャンピオンになっているんだから、格闘技界の人間は彼の凄さを認めて、それ相応の境遇でやってもらわないと。しかも、ブラジリアン柔術の試合も並行して出ている。『ハイ、青木アワード受賞です。おめでとう』なんてやっている次元じゃないです」
──ということで9月の青木アワードの受賞者はなしということで。
「ハイ、10月に期待しましょう」