【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その弐─ヌルマゴメドフ×マクレガー「組技って打撃」
【写真】青木真也が見たマゴメドフ×マクレガー、ライト級世界最高峰の戦いとは……(C)Zuffa LLC/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一番、第2 弾は6日に開催されたUFC229からカビブ・ヌルマゴメドフ×コナー・マグレガーの一戦を語らおう。
試合展開、そして乱闘劇における青木の見地は格闘家とエンターテイナーの両面が見られる興味深いモノだった。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。では2試合目は?
「ヌルマゴメドフとマクレガーですね。単純に皆、試合後の乱闘のことを語りがちなのですが、僕が一つ凄いなって思ったことは、この試合を見て組み技って打撃だよねってことなんです」
──組み技が打撃?
「ヌルマゴメドフのダブルレッグのフェイクに、マクレガーがビビって反応するじゃないですか。やっぱり総合格闘技なんだなっていうことを再確認させてくれましたね。組みの圧力で、打撃ができなくても相手を圧することはできると」
──初回のマクレガーの打撃には圧力があったのですが、2Rになると落ちた。でも、3Rに戻ったことも凄かったです。
「それでもヌルマゴメドフは……打撃にはビビっていても、組み技の圧力でいくことができていました。ヌルマゴメドフって穴があると思うんです。マイケル・ジョンソンのパンチも貰っているし。だから、ちょうどタイであの試合を宇野さんと見ていたのですが、2人して『マクレガーがいけるんじゃない?』って話していたんです。2人とも目が節穴だから」
──実際、マクレガーのスタンスは顔が前に出ない構えで左ストレートが伸びているから、パンチを被弾することがない。そんなマクレガーの強さも垣間見ることができました。
「ムエタイにおける左ミドルが長いのと同じなんですよね、マクレガーは。だから性質が悪い。でも結局、最後はヌルマゴメドフがパームトゥパームで絞めた。やはり力が強いというのも関係していると思います。彼の力の強さは異常ですよ(笑)。」
──組めば何とかなるという想いは、やはり試合で有利に働くのでしょうか。
「そうですね……それはあるかと思いますが、ヌルマゴメドフのアレは組み技が強いとか、柔術が強いということとは別モノのような気がします。純粋に生物として強いでしょう。ただし、打たれていることもあるから、このままいつまで打たれ強くいられるのか。
そういう部分で、トニー・ファーガソンもマクレガーと組んで欲しかったですよね。あのタッチボクシングだと、ガクンとなることもあるかもしれない。う~ん、でもそうでないからヌルマゴメドフは面白いのかもしれないです。僕もそうですけど、いつ倒されるかも知れないなかで、組み技で誤魔化す。貰っても誤魔化すので」
──しかしクインテットにしても、ヌルマゴメドフ×マクレガー戦にしても、青木選手は自身の試合の直前と直後に行われた試合でした。自分の試合があるのに、当日や翌日まで他の試合に興味があったのですか。
「ありましたね(笑)。試合が怖いから、普通にしている。普通に見ているんですよね。クィンテットはさすがに試合の数時間前だったからフィニッシュとかしか見ていないけど、ヌルマゴメドフとマクレガーやファーガソンとアンソニー・ペティスの試合も気になっていましたよ。
みんな格闘技だったら、強ければUFCに繋がっていると思っているけど、僕はそこが繋がっていないからザッピングする感覚で見ることができるんですよ。UFCがどうこうというよりも組み技がどうだったのか。そういう部分で興味はありますよね。UFCライト級の動向とかに興味があるわけではなくて」
──では皆が触れている乱闘に関して、青木選手の見解は?
「アレも楽しめる器だけは持っていたいです。ダメなんだけど、ダメだっていうだけでなく『まぁ、まぁ、まぁ』というのはありますよね。そんなこっぴどく叩かなくてもって」
──個人的には乱闘はダメだと思います。格闘技と暴力を完全に線引きするうえで。ただ同時にあそこまでなるのは本当に本気だったんだなと思えます。
「関係ない奴らや、観客が殴り合っているんですよね。それは凄いことだし、皆が影響を受けている。ただし民族と宗教の喧嘩になるのは、どうだろうというのはあります」
──ただ、プロモーション側はあそこまでトラッシュトークをさせて、乱闘になると選手周りだけが処罰される。それはプロモーターも乱闘幇助罪ではないかと。
「そこで言うと、日本と韓国がそうなるのはぶっちゃけ怖いですよ。皆、そこに関してワキが甘いじゃないですか。クォン・アソルが竹島問題を持ち出したり、旭日旗がデザインされたモノを日本人が使うとか。あれって、ヒートアップした時はどうなるのかって思います」
──格闘技はまだ日本へのリスペクトがある。それがサッカーなどよりジェネラルになった時、そういう国民感情がどう作用されるかということですね。では、青木真也流のマゴメドフとマクレガーの乱闘について総括をお願いします。
「ああいう乱闘があってもマクレガーって良いヤツだと思うんです。彼のトラッシュトークは愛があって、周りに優しい。それはヌルマゴメドフも同じだと思います。だから仕事でやっていると僕は思っています。そうですね……つまり乱闘をやるなら上手くやれよ。創ってから、やれよということです」