【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月─その弐─クリスチャン・リー×横田一則「インスタ時代」
【写真】1998年6月生まれ、19歳のクリスチャンは横田戦の勝利でキャリア9勝1敗とした(C)ONE
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ3月の一戦=その弐は3月9日、ONE67からクリスチャン・リー×横田一則戦を語らおう。
青木のいうインスタ時代のMMA、そしてツイッター世代とは……。
──3月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目はどの試合になるでしょうか。
「クリスチャン・リーが、横田(一則)に勝った試合ですね。これはまぁ、最初にマイク・パイルと同様に横田が辞めるっていう感じで試合をしているのが見えた戦いでしたね。そこに入り込む感じはないのですが、横田には何かやってくれよと思いつつも、クリスチャンの試合でした」
――横田選手がどのような気持ち、また状態で戦っていたのか……という部分があったにしても、19歳であの試合内容で勝てるというのは、特筆すべきだと思いました。
「クリスチャンはテンポが凄く速くて良いですよね。打撃にしても、組み、寝技にしても。打撃を使ったと思ったら組んでいる。寝技でも、とにかく速く動く。独特のトランジッションがあります」
――アンストッパブルの弟だけに、止まらない。
「アンジェラ以上にありますよね、居着かない感じが。あの距離感の取り方とかも含めて」
――青木選手はイヴォルブMMAで実際に肌を合わせたことがありますよね?
「練習していましたよ。あの頃はまだ17歳、18歳ぐらいだったのかな。それでも強かったですよ。いや、去年も組みましたね。あと、朴(光哲)さんをスラム的な叩きつけで勝ったにしても、その前も試合を支配していたし。
何だかんだと言って横田は強いはずです。そういう相手にあれだけのテンポで試合ができる」
――スクランブルMMAが、頭の天辺から爪先まで入っている。これがKSWのような下がマイナスにならないMMAだとどうなるのか。クリスチャンのような戦い方を見ていると、思ってしまうところがあります。
「スクランブルですね、相手を動かして。ただ、下がマイナスにならない判定基準とか、下が有利とかって仮定するともう世界観がまるで変ってきますからね。
下から作る、ガチっと作る寝技かぁ……クリスチャンの場合は寝技がブラジリアン柔術ではないですもんね。完全なサブミッション・レスリングで。だから、例え話としてもそういう状況になると、どうなるのか……。打撃をして組む、テイクダウンしてどうこうって流れるように動いて、それによって勢いをつけているので」
――これまでの敗戦はマーチン・ヌグエン戦のみ。
「あの時は打撃で良いのを貰って、効いている時にギロチンでしたからね。もう、あの時とは違うでしょうし。今は打ち合うような試合じゃないですけど、デビュー直後は打ち合っていましたからね」
――17歳のデビュー以来、一貫としてONEで戦ってきて注目度の高さからエジプト人、フィリピン人などと戦っている間はプロテクトされているようにも見えた時期もあったのですが。
「エディ・アングとかイヴォルブMMAの生え抜きパターンですよね。このキャリアの積み方で強くなれるのかと危惧される向きもあったのですが、それでも強くなれるヤツは強くなるということなんですかね。
エディとクリスチャンの間では確実に世代の違いというものはありますよね。20代前半の子たちがババっと出てくるというのはもう……ツイッター世代のおっちゃん達はダメってことで」
――ツイッター世代のおっちゃん達……。
「それ以前の世代はもう現役ではなくて。もうインスタグラムの世界観の子たちの時代が来た。クリスチャンを見て、そう感じましたね。
ツイッター世代のように本を読んで、文章を楽しんでいるって世代じゃない。如何にセンスで写真を切り取って、タグをつけるのか。そういう奴らじゃないと無理。もう、時代の流れだから取り戻せない。
俺たちは、それをもう認めるしかない。デジタル・ネイティブ、物心がついた時からインターネットがあってスマートファンがある連中は、もう僕らみたいにパソコンで見るという前提すらないですからね」
――そこがMMAとどう関連してくるのか、ツイッター以前の世代の私などは見えてこないです。
「もうね、良いと悪いんじゃないんですよ。新しい物を絶対的に正義として捉えないとついていけない。それはMMAも同じで、新しいモノが出て来た時に否定したら終わりです。良いモノだね、こういうものだねと認めてあげないと話にならない。
新しいモノを見ないと、これまでの経験もいきないです。昔が正しいなんてことはなくて、かといって今が絶対的に正しいということでもないんですけどね。
順応していくために新しいモノには触っていかないといけない。そういうなかで彼らの価値観を理解することは難しいけど、クリスチャンの試合の試合は見て、触っていかなければいけないモノだと思います。
実際、僕が主戦場にしているONEにおいてクリスチャンはもうフェザー級ではトップ選手になっている。それだけ勢いがありますからね」