【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月─その壱─ザク・オットー×マイク・パイル
【写真】青木の言葉を聞くと、改めてマイク・パイルはMMA史の生き証人に相応しいと思える(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ3月の一戦=その壱は3月3日、UFC222からザク・オットー×マイク・パイル戦を語らおう。
──3月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「マイク・パイルとザク・オットーですね」
――おお、意外なセレクションです。
「そうですか? 北米のMMAを語るうえで外せない選手だと思います。味があるというか、気になる個性の強い選手。アフリクションから戦極に流れて、そこからUFCに行って良いキャリアを送りましたね。
そして、42歳で引退。ずっと見てきた人間からすると、一つの歴史が終わった感じしますね」
――ホイス・グレイシーのUFCに影響を受けた世代。見様見真似でグラップリングの練習をし、グレイシー一族のセミナーを受け続けて、自己流の寝技がベースになった。
「マイク・パイルはパスガードなんかも独特ですしね。凄く寝技が上手だけど、ジェイク(シールズ)にはギロチンを取られたんですよね」
――競技柔術よりも、護身柔術とバーリトゥード時代を感じさせる寝技でした。寝技の指導をしつつ打撃を習得するためにデンマーク、コペンハーゲンのミケンタ・ジムに在籍して欧州でキャリアを積んだ時期もありました。
「ストライカーではないですけど、打撃も上手でしたよ。エルボーとかヒザ蹴りとかうまく使って。最初からMMAを学ぶという今のような状況でないオールラウンダーの走りでした。イベントの休憩前後に出てきて、必ず良い試合をする。職人、いぶし銀と呼びたくなるタイプの選手。
良い意味で頑張った選手です。IFLからエリートXC、そしてStrikeforceを経て戦極に来日して」
――そのように考えると、本当に北米MMAの生き字引のような選手だったことが分かります。
「戦極ではダン・ホーンバックルに三角絞めで勝ったけど、計量のシステムを理解していなくてすぐに水分を補給して、実は体重オーバーだったという裏話があって(笑)」
――そんなこともあったのですねぇ。
「戦極は実は良い外国人選手が来ていましたね。ライアン・シュルツ、ホドリゴ・ダン、レオ・サントス、マメッド・ハリドヴ、マルロン・サンドロとかも来ていますしね」
――戦極の話題になると、『お前のせいだろ!!』ってお叱りを受けるのでマイク・パイルに話を戻しましょう(笑)。
「あった、あった。ありましたねぇ。マイク・パイルの文脈って、MMAの歴史にあってジョン・アレッシオなんかと被るものがあります」
――あぁ、分かります。ネイト・マーコートやアレックス・スティーブリングの文脈ですね。
「そうそう。渡り歩いているヤツは、ならではの味があります」
――パイルでいえば、最後はUFCでしっかりと基盤も築けた。本当に良かったと思います。
「エクストリーム・クートゥアーからシンジゲートMMAですよね」
――青木選手に共通しているのは、セルフマネージメントで取材の申し込みや試合のオファーも本人に連絡するという選手でした。
「今の芸能プロダクションというか、創られている感じじゃなかったんだ。そういう選手が、ザク・オットーに初回でKO負け。試合前から最後だって言っていたし、それを口にするとファイターはなかなか勝てないですよね。
まぁ、ああいう味の選手が引退した。お疲れさまでしたということですね」