【Special】月刊、青木真也のこの一番:12月─その弐─ハム・ソヒ×ジン・ユ・フレイ=韓国女子MMA
【写真】ハム・ソヒは強烈な一撃でKO防衛を果たした (C)ROAD FC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ昨年12月の一戦=その弐は12月23日、ROAD FC45 XXからロードFC女子アトム級選手権試合=ハム・ソヒ×ジン・ユ・フレイ戦を語らおう。
──昨年12月の青木真也が選ぶ、この一番。第2弾はどの試合に?
「ここはヌルメゴメドフか、エディとゲイジーか悩んだのですが、ハム・ソヒのKO勝ちにしたいと思います」
──おお、その故は?
「強いからです。本当に強くなりましたよね」
──決して長い試合ではなかったのですが、レベルの高い試合でした。
「下半身がぶれていない。たくさん稽古していますよね。UFCではストロー級で戦うために努力して、アトムに戻すとその強さが際立つというのか。ロードFCが今回の試合で自分たちのタイトルに関して、ワールドチャンピオンシップと謳っていましたけど、間違いなくワールドクラスの戦いでした。彼女たちの試合は世界選手権で良いと思います」
──なるほどッ。
「落ち着いた感じが良かったですね。それと技術的なこと以上にやはり彼女を取り巻く環境が変わってきている。前も話したかと思うのですが、夏に彼女がJEWELSに来た時にチャンピオンになったから、プレゼントを持っていったら──ハム・ソヒの来日を韓国のTVカメラが追っていたんです。
UFCで名前を創ったのかもしれないけど、格闘技選手を取り巻く環境が日本と違ってきているなと感じました。それは選手もやる気になるでしょうね」
──日本で女子MMAを確立させようとした時代がありました。その世代ともモチベーションは違うものでしょうか。
「それは違いますよ。世の中に認められようとするのと、認められているのでは。あの当時の日本人女子選手とは、環境が違うのもありますが……言い方は悪いけど取り組む姿勢は違ってきますよね。自己顕示欲というか、やはり自分のために努力をする状況とは違います。
そういう渡辺久江やしなしさとこの世代の人……、しなしに関しては格闘技が好きということじゃない。自分が好き。自分をもっと好きになる手段が格闘技だったんです。あと僕からすると、日本の女子MMAファイターは格闘技を続ける根底、その深層心理みたいなところで柔道が好きだからっていう柔道系の人は少なくなかったと思います」
──あぁ、そういう見方が成り立つのですね。柔道はMMAより選手寿命が短い世界ですし。
「そこが今の韓国と、当時の日本との違いですよ。キム・ジヨンはどうだか分からないけど、ハム・ソヒは明らかに違う。いや、そういえば皆がMMAのことを好きだと思っているはずです。好きでしょう。でも異常な愛はない。ハム・ソヒには、それがあると思います」
──そして、自らのパンチで橈骨(前腕の内側の骨)を骨折するという。「普通に考えて、48キロの女の子がぶん殴って倒すってあり得ますか? 尋常ではない衝撃だったはずです。
どこまでいっても48キロの女子選手の馬力は、バイクでいえばカブですから。だって、男でいえば小学校の高学年ぐらいの体重ですよ」
──あぁ、そうやって考えると子供ぐらいの体重で殴り合っているということになるのですね。
「それがパンチで相手を一発でのしてしまう。あの太腿の大きさを見ても、どれだけ彼女がトレーニングを積んでいるのかが伝わってきます。だからこその一発KOと骨折です。
そういう環境にあって、そこまで本気になれる。日本人選手、ハム・ソヒの王座を目指して良いと思いました。あそこはそれだけ賭ける場所だろうし、そこまでしないとハム・ソヒには勝てないから。
UFCにアトム級がない。だから世界を目指さないという理屈は成り立たない。ハム・ソヒが世界だから。言い訳は聞かない。可愛くなくても強ければ食える、その世界がロードFCの女子アトム級にできてしまったのだから」
──ハム・ソヒは可愛いじゃないですか。
「だから、それは表現方法ということで(笑)。強ければ食える世界がある、そういうことですよ。強ければ正しい世界があるなら、そういう風に強さを求めてMMAをやっている人は挑戦すれば良いのではないかと思います」