【ONE62】ベン・アスクレン戦後の青木真也─02─「どんな相手と試合が組まれても自流試合」
【写真】言葉は丁寧だが、話している内容はこの入場シーンに通じる青木の現状とこれから、だ(C)MMAPLANET
11月24日、ONE62でベン・アスクレンに57秒で敗れた青木真也インタビュー後編。
アスクレン戦を経て、現状の日本の格闘技界を例えに、今後のキャリアのあり方を青木が語った。
Text by Takumi Nakamura
<青木真也インタビューPart.01はコチラから>
──現状の日本のMMA界は戻ってくる気がないと。
「逆に言うとそれを言ったら“負け”。僕はそういうことをしなくていいようなキャリアを作ってきましたからね。少し話は飛躍しますけど、キャリア10年以上の30歳を過ぎたファイターが『僕を使ってください』と日本の市場に頭を下げて、デカい顔をするのはどうかと思うんですよ」
──……。
「試合のオファーが来るのを待って、プロモーターが使いたいと思ってオファーをするならまだしも『僕を使ってください。お願いします』というのは違うでしょ、と。もう30歳を過ぎたらオファーが来るのを待って、提示された額でやるかどうかを自分で決める。
格闘技選手の稼げるボリュームゾーンは25歳から35歳までで、そこで稼げていない──つまり稼ぐ術を持っていないんだったら、悪いけど才能がなかったってことですよ。一生懸命やって残すものを残せなかったら、格闘技にしがみついちゃダメ。それが僕の考えです」
――では青木選手の考えでは、そうなったら若い選手に道を譲れということですか。
「僕はそう思います。僕らの世代の選手が格闘技にしがみついて、もらうものをもらおうとするくらいなら、その分で若い選手がいい思いをしてほしい。違いますか?」
――どうでしょう。そこは若い選手が自分で手に入れるものだと思いますし、年齢を重ねた選手が道を譲らなければいけないものだとは思いませんが。
「う~ん……だから結局はプロモーターがどういう考えを持って選手にオファーして、誰にチャンスを与えるかでしょうね。それで言うと日本のプロモーターが組む試合は僕的に『?』なことが多い。
そもそも選手の絶対数が少ないんだから、それで勝ち残り戦をやってもしょうがないと思うし、それだったら限られた選手でリーグ戦のように試合を組んで、そこで価値を高めていくという方法論でいいんじゃないの?と思いますしね。今日はたまたまこんな話しになりましたけど、本当はこういうことを言うつもりもないんですよ、もう僕は僕でやっているんで(苦笑)」
――それより一競技者としてアスクレンに一泡吹かせることを考える方が楽しいですか。
「当たり前じゃないですか。『自分がいかに稼ぐか?』とか『どんなキャリアを積んでいくか?』とか…そういうのはもう存分に考えてやってきたから、みんなもう好きにやってくれよって(笑)。それより自分がエキサイトして集中できる格闘技をやっていきたいです」
――そこで思うのがアスクレンとやったあとの青木選手にとってエキサイトする試合が残されているんだろう?と思うわけですよ。
「何パターンかは考えていますよ。勝率が50/50のマッチアップになった時に、今の僕は勝っていないわけだから、純粋に『勝ちたい』という気持ちもあるし。それはお客さんに対して『もう一回勝ちに行くんだ!』という姿を見せるってことですよね。
これはネタばらしだけど、強大な相手に挑んでいく時の青木真也は周りの期待や人の気持ちを背負う感があると思うし。だからもう僕はどんな相手と試合が組まれても自流試合なんですよ」
――すごく雑に言ってしまうと青木選手を応援する人たちの層は確実に以前よりも変わっているじゃないですか。
「格闘技ファンじゃないってことですよね。青木真也ファンというか。周りから見てちょっと面倒臭い人たち(笑)」
――僕はそこまで言っていませんよ(笑)。
「ようは語りしろが欲しい人たちですよね。本を読むのが好きだったり、クリエイトする仕事を携わっている人だったり。僕はそういう人たちの方が新しい時代のファンだと思っているから、今までにはなかった人たちに興味を持ってもらえる選手でいたいと思っています」
――だからやはり桜庭和志、エドゥアルド・フォラヤン、ベン・アスクレンとやった青木選手がどんな試合をするかが気になるんですよ。果たして青木真也がエキサイトする相手や試合はあるのか?と。
「例えば自分の自己満足で言えばロジャー(・フエルタ)とはやってみたいですよね。ロジャーは安藤(晃司)に負けているし、もう壊れているかもしれない。でも僕とロジャーがやるのは強い・弱いの話とは違うじゃないですか。ロジャーはそれだけのものを築いた人間だと思うし、それと僕が向き合うという構図が面白いですよね。
あとは……アジアのローカルヒーローとやるのもありだと思いますよ。フォラヤン的な相手というか。地元のヒーローをアップさせるために青木真也とやらせたい。そういう試合でも全然かまわないので。僕は誰とでもやるよというスタンスだし、プロモーターがどんな相手でオファーをしてくれるのかが楽しみです。僕もこの世界で10何年やってきているので、どんな相手でもある程度の作品にする自信はありますしね」
――そういうお話を聞くと、競技者的に勝ち負けを求めていないのかと感じてしまうところもあるのですが。
「さっきも話した通り、MMAで2連敗している状況で『勝ちたい』って気持ちは強いですよ。なんだかんだで周りを黙らせて『見たか、この野郎!』と思うのも嫌いじゃないし(笑)。
今年はゲイリー・トノンとグラップリングをやって、アスクレンとMMAをやって、年末は韓国でセミナーをやってIGFで中国に行って…こんな人間いないでしょう? だから僕は僕で自由に生きています」
――では僕も自由に言わせてもらうと(笑)、青木×トノンは青木選手がバックを取った時点で満足しました。良いモンが見れた、と。
「あれは頑張ったもん(笑)。みんな一本取られたところが印象深いと思うけど、僕はバックも取ったし、あそこでホールドしようとせずに試合を動かそうとした。その結果で一本取られちゃいましたけど、自分でもよくやったと思える試合だったし、トノン相手にあの局面までいける日本人が他にいるのか?というのも見せられたと思う。
だからもう年末のことも気にならないし、僕はちょっと離れたところで眺めている感じなんですよね。これからも好きに自由にやっていくので機会があったら、また取材してください(笑)」
――今日は久しぶりに取材させていただき、ありがとうございます。ぜひまた取材にうかがわせてください。