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【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その参─高橋遼伍×青井人─02─「自分のことを大切に考える」

Monthly Shinya Aoki【写真】高橋×青井、田中路教、そして朝倉未来から加藤忠治と青木が語る (C)MMAPLANET, ROAD FC & GRANDSLAM

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一戦=その参は10月15日、プロ修斗公式戦から高橋遼伍×青井人戦を語らおう。

高橋、青井、育ってきた選手を大切に育てるというのはどういうことなのか。もはや高橋×青井でなく、田中路教から朝倉未来、そして加藤忠治論に話は行き着くこととなった。

<青木真也の語ろう──高橋遼伍×青井人Part.01はコチラから>


■『日本の韓国化』

──田中路教選手は他の日本勢とは違うということでしょうか。

「UFCに早くから行って切られたけど、日本に戻って来てまた強くなっている。彼はホンモノだから良いけど、皆が田中路教のように早く上へ行ってしまうと、それはそれでダメだと思います」

──青井選手のところで「レコードに傷がつく」という表現がありましたが、強くなる戦績の積み方というモノも考える必要があるのでしょうね。

「最近、そうなりつつあるなと思うのが、日本の韓国化……ですね」

──というのは?

「戦績は決して綺麗でないけど強い。そういう風にある程度なっていくのではないかと」

──海外で戦う権利を得るためにはレコードは凄く大切です。同様に契約することがゴールでなく、そこで結果を残すためには強さも伴っていないといけない。

「なぜ韓国人は連勝でなくても強いのか。強い相手と戦わせているからです。Road FCで朝倉未来選手と戦ったイ・ギルウなんて負け越していますよね。釜谷(真)に負けていますからね。韓国で大会がない時代は、急に戦えって感じで試合機会が与えられ相手のことも分からずに試合をするケースも多かった」

──そのような環境を乗り越えてきた選手が、ロードFCが定着してから潰し合ってきた。

「ロードFCはバンタム級王者のキム・スーチョルだって、最初の方は戦績が良くなかったですし、フライ級王者のソン・ミンジョンもレコードは良くない」

──ソン・ミンジョンは現時点で8勝7敗、キム・スーチョルは4勝4敗から15勝5敗まで戦績を伸ばしました。両者ともまさに叩き上げです。それを可能にしているのも、ロードFCという場所があるからだと。

「韓国人選手は相手や戦う場所を選んで連勝ということができないですよね」

──ロードFCでダメだったから、トップFCへ──とか、エンジェルファイトでという感じでもないですしね。

「ただ5勝0敗でもUFCで通用する強い選手は存在します。イ・ギルウのように5勝6敗でも強いヤツは強い。逆に12勝0敗でも弱いヤツは弱くて、1勝5敗のヤツも弱い。強くて戦績の綺麗な選手……結論として韓国のように強い相手とどんどん戦わせても、結果を残すような選手がUFCで通用するということで」

──そういう神に選ばれた選手は、ほとんど存在しません。そのなかで青木選手の言う育ってきた選手を大切にするとはどういうことになるのでしょうね。

「う~ん、そうですね……朝倉未来選手がイ・ギルウのテイクダウンに対し、体を抱えにいってしまっていましたよね」

──ワキを差すのではなく。

(C)ROAD FC

(C)ROAD FC

「あれはアウトサイダーの特権ですよ(笑)。あれを見て、あぁしょうがないなって思いました。アウトサイダーで良い試合をして、良い結果を残していた。

それが他に出ていたら、その2つともなかったかもしれない。ただし、ロードFCで戦うチャンスも掴めていなかったでしょう。

何よりロードFCで弟の海選手ともども良い勝ち方をした。DEEPや修斗でやってきた選手より、インパクトを残した。だけど、相手のレベルが上がって競り合いになると勝てなかった。ロードの怖いところは、あの勢いのある韓国人ファイターのなかで、どの選手が本当に強さを兼ね備えているのか、そこが見えてない点でもあります」

──ロードFCの若い選手自体がイ・ユンジュン、キム・スーチョル、チェ・ムギョムが力をつけていた時代と比較すると、それ以前のような殴り合い重視になって、防御力は落ちていると思います。

「クォン・ベヨンとかの世代と比較して、ですね」

──その世代から下の選手まで、今はジムを作るようになり実戦から離れるケースも少なくない。

(C)GRANDSLAM

(C)GRANDSLAM

「それ自体は選手に出資する人がいるという良い状況ですよ。そうなると余計に厳しいなぁ、そこでは日本は勝てない。もう中国だって出てきているし。

そういう意味で、本当に日本は厳しい。だからこそ、田中路教や柏崎が少しでも注目された舞台で勝つのは良いこと。そして、忠治はMMAファイターとして保存療法が効いていなかった(爆)」

──加藤選手は判定に納得がいっていないという話は伝わってきました。

「まだやるの? アハハハハ。加藤忠治は頭が良いし、ちゃんと計算ができるから面白い。ドイツ車運転しているんですよね?」

──……のようです(苦笑)。

「アイツはさすが、だ(笑)。忠治に好感が持てるのは、自分が分かっていること。だからMMAで生きていこうとしなかった。『俺じゃ無理なんだ』と言えてしまう。PXCのタイトル戦でも、ずっと待ちの試合をしてラウンドの終了近くになるとテイクダウンして、チョンと上にいる(笑)。それを5R続けても、『俺の勝ちでしょ』って悪びれることがない」

──加藤選手よりよほど必死で戦った選手が、抑えて勝つと『こんな試合でスイマセン』と謝ることが多いのとは対照的に(笑)。

「そうやって謝ることが正しいとは思わないですけど、忠治はそれで良いと思って、自分を理解して戦っていたということなんですよね。ほんと、そうやって戦った印象しかない。それで日本人ではPXCのチャンピオンという田中路教と2人しか手にできなかった成果を挙げた。

だから大切に育てる──というのは出てきた選手を強くすることだし、レコードを考えるのも大切。だけど、その選手たちも自分のことをちゃんと理解して、自分のことを大切に考える必要があるということなんですよ。

田中路教でも、加藤忠治でもない選手が殆どなんだから」

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