【Pancrase288】5戦でパンクラスの頂点に。ウェルター級KOP阿部大治「UFCでチャンピオンになる」
【写真】柔道時代からの友人であり、現在は専属のセコンドの稲木貴統氏と(C)KAORI SUGAWARA
2日(日)、東京都江東区のディファ有明で開催されたPancrase288で行われたウェルター級KOPTで、三浦広光との打撃戦を制し、阿部大治が第11代ウェルター級キング・オブ・パンクラシストの座に就いた。
大怪我から復帰し辿り着いた王座までの道程。UFCへの想い。王座戴冠直後の取材で、新KOPは何を語っていたのか。
■『僕、死ぬって言われてたんですよ』
──5戦5勝、無敗のKOPです。
「まだ実感はないんですけど、こんなに沢山の人が地元の新潟……柏崎や東京、全国から集まって応援してくれたんで、それが一番嬉しかったですね。
周りはみんなチャンピオンが強いと言うし、勝敗予想でも相手の勝率が90パーセントで、僕が10パーセントだったんです。それを見て『ああ、俺ってその程度にしか思われてないんだな』と思いましたけど、自分では『100%勝てる』と思っていたので、試合でレベルの差を見せられたんじゃないかと思います。
僕は一昨年、足に大怪我したんですよ。骨折から感染症に罹って、一度は格闘技ができないって……。夢を諦めようと思った時期もありました。本当にあの時に地獄を味わって復帰したので『誰にも負けない』という気持ちでこれまでやって来ました。
『頑張れ』と僕を応援して支えてくれている人たちの存在が一番デカかったです。格闘技ができなかった時も仲間や僕の格闘技が見たいと言ってくれるみんなが居たからこそ、今こうやってチャンピオンになれたと思っています」
──諦めかけた夢とは?
「UFCでチャンピオンになることです」
──今や、そこまで堂々とUFCチャンピオンを目指すと言える選手も少なくなっているので、気持ち良いです。
「日本で格闘技といったらK-1とか、PRIDEが凄く盛り上がってましたけど、世界で認知があるのはやっぱりUFCで。今、そこに世界の強豪が一番集まっている。『こんな化け物揃いの中で僕は戦えるのかな。やってみたい!』と思っています。
人生、中途半端になったら意味がないじゃないですか。僕は死ぬ覚悟でここまで来たんで、世界で最高峰といわれているUFCでNo.1にならないと意味がない。僕が日本人初のUFCチャンピオンになりたいと思っています」
──怪我をする前と後で、ご自分で変わったと思う部分はありますか。
「僕、死ぬって言われてたんですよ。そんな地獄を味わってたんで、普通のパンチ一つもらっても絶対倒れちゃいけないと思っています。殴られてもその次の一週間休めば回復するじゃないですか。そういう気持ちでいるので、試合に向かう怖さはないです」
──パンクラスの王者になり、夢に近づいた手応えはありますか。
「ベルトを獲ったことは嬉しいですけど、僕はチャンピオンになっても守りに入りたくない。守りに入ったら、もう負けなんです。常に挑戦者じゃないと上に行けない。強いヤツとやったら燃えるんで、これからも常にチャレンジャーとして戦っていきたいです」
──カットもありますし、今日の試合も激闘でした。
「結構打たれ強いんで1発打たれたら、3発返そうという気持ちだったんですが、左フックがガツンと入ってしまいました。『血が出た。やべえ!!ドクターストップ掛けられるんじゃないかな』と思ったんですけど、浅かったので大丈夫でした(笑)」
──三浦選手が序盤はプレッシャーを強めていたようにも見えました。
「うーん。やっぱりチャンピオンだし、実際に強かったです。僕は対戦する相手のことをリスペクトしてるので、三浦選手に対しても戦ってくれたことに対して、本当に『ありがとうございます』という気持ちでいます。
ただ、僕はパンチだけではなくて蹴りも練習してきたし、負けるような練習内容ではなかった。そこで差が生まれたんだと思います。あとはHMC(ハワイ・マーシャルアーツ・センター)のハルさん(嶋西晴臣会長)には『大治は勘が良いから本当に野生の勘に任せろ』と言われてるんで、その通りにやりました。
でも、まだまだです。これからもっともっと成長しないといけない。間合いの作り方とか、足を止めちゃうところもあるし、寝技はあんまり好きじゃないんですけど、世界に行くんだったら寝技もグラップリングもやっぱりやらなくちゃいけないのかなと……」
──今回の準備も嶋西会長の下で?
「ハイ。HMC所属なのでハワイと東京を行き来しています。この前も最終合宿で6月18日から28日まで10日間、ハワイで追い込みをやって日本に戻って最終調整をしました。
ハワイでは野生の勘を養ってきました。一直線上に登れる山があるのでそこを走ったり、普通に外を走ることもあります。シャドーやトレーニングをしたり、ジムに行って嶋西会長と一緒に練習をしました」
──日本ではどのような形で練習をしているのですか。
「一番は勘を重視しています。練習相手はセコンドについてくれている仲間で、凄く助けてくれるんですよ。試合に向けてイライラもする時でもサポートしてくれます。
みんな、強いジムに行けば強くなると思ってるじゃないですか。僕はそこを変えたい。強い奴と練習するから強くなれるわけじゃないんですよ。頭を使ってやらないと強くならない。しっかり考えを持ちながら、こうやってトレーニングをすれば強くなれるんだよって示したいです」
(セコンドに就いた)稲木貴統氏 一つ一つの感覚が研ぎ澄まされちゃうんで、本当に大治のことを理解したり応援してないと、試合前の大治と向き合うのはなかなか難しいと思います。ただ、今、大治の周りにいる人は本当に大治のことを好きで応援してくれています。
今日応援に来てくれた人も、来られなかった人も、大治の応援をする人は皆、友達だからとかじゃなく、本当に心から応援してくれるコアな人の集まりなので、皆の団結力が強いです。
──稲木さんにとって、阿部選手の魅力的なところは?
稲木 心が真っ直ぐっていうんですかね。裏表がないです。相手が向き合ってiる時にはちゃんと話も聞いてくれるし、良い意味でも悪い意味でも思ったことをはっきり言ってくれます。どん底を味わっているからこその『ブレない感覚』っていうのが一番の良さで、彼の強みだと思います。
僕も最初は素人だったので、ミットなんて全然持てなかった。まだ満足行くほどは出来ないですけど、大治がやりながら教えてくれたので、今では何とかこうやってセコンドに胸張ってつけるまでになれました。僕は大治に育ててもらった彼専用のセコンドです。他の人のセコンドはできないです。
「そう言ってくれて嬉しいです(笑)。今日はたくさんの方が応援に来てくれましたけど、まだ一人一人挨拶が出来てないんで、これから挨拶をして皆でチャンピオンになった喜びを味わいたいと思います」
──今後に関しては、デカゴンのなかでアピールもありましたが。
「9月23日のUFC日本大会を狙いたいと思っています。2カ月あれば体も完璧に作れます。今日の試合でも軽く切ったくらいでノーダメージなので、UFCジャパンに出たいです!!」