【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月編─北岡悟と愛を語る─02─
【写真】八隅孝平を加えて。YBTの中心メンバー、もう12年以上も続くプロ練習だ(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ──作業の都合でかなり遅くなってしまいましたが──5月の一戦=その参は何と4月のワールドプロ柔術からヴィトー・シャオリン・ヒベイロ×ケニー・フロリアンの柔術マッチに──と思いきや、その主題は攻防でなく格闘幸福論に転じ、ロータス世田谷の金曜YBTでの練習を終えて、帰り支度をしていた北岡悟も交えて、語らうこととなった。
日本のMMA界のレジェンドとして、先輩・北岡を慕う青木は、だからこそ北岡に対する想いを口にした。
<青木真也×北岡悟対談Part.01はコチラから>
【「こんなバカなことないだろう」(青木真也)】
──24時間、格闘技に浸り切りなのは北岡選手ですよね。
「僕は格闘技をシャットダウンする時間がありますからね」
北岡 僕はないです。ジムで寝起きもして、常在戦場を掲げていますから。
──ジムで寝起きすることから離れてほしいと、どうしても思ってしまいます。
北岡 出たい気持ちを持っていないわけではないです。そこに適応した……進化したんです。
「何だろうな……、う~ん」
北岡 イィから、ウチの子たちをやっつけに来てください。
「それは、凄く行きたいとは思っていますよ」
北岡 来てください(笑)。足代、出しますんで。
「それはやるからさぁ……。俺が思うには、北岡さんは日本格闘技界におけるレジェンドなの」
北岡 ありがとう。でも、そう思っていないヤツはいっぱいいるから。
「まぁ、聞いてくださいよ(笑)。トランキーロ、落ち着け」
北岡 あぁ、分った(苦笑)。
「レジェンドが自分でチームを引っ張り、ジムで生活をする。北岡さんがやってきたことを間近で見て来て、僕は誰よりも認めているつもりだし。だからこそ、そうやってきたのに……っていう苦しさはあるじゃないですか。
なんで、日本で一番の選手がジムに住んでいるんだって。僕はそう思いますよ。俺は本当に思っている。こんなバカなことないだろうって、この業界の人間に対して思っている」
──私も同意します。
【「舐めるなよ、とは常に思っている」(北岡悟)】
「近藤有己選手、桜庭選手にも思うことがある。でも、それ以上に北岡さんに関して、俺は思う」
北岡 なるほど。
──北岡選手の今の活力はジム、慕ってくれるチームのメンバー達だと思います。彼らも北岡選手がそうであることが幸せで。でも、青木選手は北岡選手のその居心地の良さに対しても苦言を呈している。慕って集まった選手たちは、口にしないことをしているんだと思います。
北岡 青木は言ってくれますよね。もっと金儲けしましょうと言う人間は他にいないです。
──それを言ってくれる人がいるのは、やはり心地良いことではないでしょうか。
「俺はそれだけ思っている。結局、北岡さんがジムに住んでいることで舐められちゃうじゃん?」
北岡 舐めるなよ、とは常に思っている。
「そう、北岡さんがそう思っていることは伝わってくるから、余計にそう思うのよ。でも、分んないヤツは分かんない」
北岡 そう、分かんないヤツは分からないから。
「選手に対しても、凄く向き合っている。本当に」
──北岡選手のチームの選手には厳しくて、対戦相手には凄くソフトですよね。試合会場や試合後とか。そこからも、チームへ愛が感じられます。
「でもね、それだけ北岡さんが選手に向き合っているのに、向き合ってもらっているヤツはそれに対して、そんなに有難味を感じていないから」
北岡 ハイ、それも分かっています。
「それを北岡さんが分かっているのが分かるから、俺なんかは余計にイライラする。ここまで、なかなか人はやってくれねえぞって」
──そういう性格なのでしょうね。ある意味、それをやるのが北岡選手で。受け手云々じゃない。
北岡 そうだと思います。
「だから、北岡さんは格闘幸福論でいえばその度数は高い」
北岡 僕は幸せな人間ですよ。それは絶対です。充実しているから。
【「格闘技が共通言語」(青木真也)】
「そこに関しては、誰にも負けていない。だからこそ、突っ込みどころを無くしていきましょうって話で」
──北岡選手は青木選手より、孤独ではないですよね。青木選手は孤独だから。
「そう!!」
北岡 フフフ。でも、誰が助けてくれるってわけじゃないから孤独は孤独ですよ。逆にそのギャップも感じているし。
「人に囲まれている幸せさはある」
北岡 とはいえ、あるよ。孤独感は。分からないし、誰も。
──慕ってくれると感じている選手も、より都合の良い場所が見つかれば離れていくものですしね。
北岡 離れていきますよ。それも分かっています。
「離れていくよね。だから、今の間にって。もう、堂々巡りになる(笑)」
──ハハハ。
「結局、格闘技っていうワードがあるから今、この3人も一緒にいることができるんです。格闘技っていう共通言語がなくなったら、この3人が一緒にいることなんてない。散り散りなる」
──そうですかね。そんなことないのでは。
北岡 付き合わないと思います。格闘技が無かったら、青木とも高島さんとも(笑)。何も話すことなんてなくなりますよ。
──ハハハハ。
「だから、格闘技って良いんですよ。僕らを繋ぎとめてくれている。格闘技があるから、色々な出会いがあった。UFC JAPANの会見のときに来日して、ロータスまで来て一緒に練習してくれたジュカオン(カルネイロ)とシンガポールで再会して。
『アイツの足関節に気を付けろ』とかアドバイスしてくれる。知ってるよって(笑)」
──ハハハ。
「そういう風に格闘技があるから、繋がりがある。それが愛。愛がないヤツと付き合うのは、もうしんどいですよ。ずっとやって来て、愛がないヤツといるのは本当に辛い」
北岡 僕はそういうヤツらと戦い続ける。
──それは愛の無い連中に自分の存在感を認めさせるという戦いですか。
北岡 分からないです。それこそRIZINのインタビューでも言ったんスけど、分らないヤツは分からないけど、俺はやるんだって。
──7月30日、RIZINさいたまアリーナ大会での矢地祐介選手との試合。矢地選手はRIZINで戦うことで精神的に乗りに乗れている感じが伝わってきます。対して、北岡選手はRIZINとも戦っている。その場の空気にフィットすることは実は大切なので、そういう面でも不安がある試合です。
北岡 彼は乗っていますよね。だからこそ、勝負なんです。RIZINで賞賛されても居心地は決して良くないです。気持ち的にも矢地選手のような心境で戦える方がずっと楽だと思います。でも、それが僕の戦いです。
「もうね、その環境にいることも──つまり幸せってことで(笑)」
──纏まりましたね(笑)。
北岡 ハハハハ。宜しくお願いしま~す(笑)。
「皆、ナイーブ。打たれ弱いから。格闘技があって良かったですよ(笑)」