【Special】月刊、青木真也のこの一番:3月編<その弐>必見しなし論、しなしさとこ×イ・イェジ
【写真】体格差がっても、首投げで勝つ――しなしさとこのMMAに対して、青木が何を語ったかMMA(C)KAORI SUGAWARA
過去、1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ3月の一戦=その弐は11日のRoad FC37からしなしさとこ×イ・イェジを語らおう。
長年の戦友関係にある青木だからこそ――の、しなしさとこ&女子格闘技論が聞かれた。
──ムエタイ&首相撲幻想のゲッダーオ・ペットパヤータイとケルヴィン・オンに続き、青木選手が気になった一戦は?
「しなしさとこ×イ・イェジですね」
──ここで、しなし選手の試合になりますか!!
「しなし、面白いですよねぇ。彼女が帰国してから会ったんですけど、すぐに『あの相手、誰が選んだの?』って尋ねたんですよ。『それなのよぉ……青木ィ。選べなかったの』って。もうそれだけでも面白いですよね」
──言い換えると、あの相手と戦ってはいけないと?
「だってあれだけの体格差ですよ。彼女は絶対に負けたくないっていうポリシーがあって試合に出ている。だから、相手を選ぼうがそこは貫く。
僕はそんな彼女と価値観とか生き方が似ていて。『しなし』、『青木』って呼び合っているくらいで。それで──しなしは負けても、その試合についてチーム創りが上手くいかなかったこととか……40歳過ぎて、敗因を外的要因に求める。凄いことですよ。
とにかく負けたことが悔しくて、悔しくてしょうがないんです。彼女は全てに満ち足りているはずなんです、私生活でも。女子格の唯一の勝ち組になっている。そして、僕からすると強さを追及しているようでもない」
──……。
「でも試合に出て勝ちたい。あれだけ、勝ちに拘る人ってそうそういないと思います。あの自己証明に突き進む姿、気に入らないことを否定する姿も凄いです。やっぱり、格闘技に対して、何かクリアしていなくて追い求めているんですよね」
──試合自体ではどのような印象を持たれましたか。
「試合以前にそもそも、試合で戦わないのにボクシングの練習を続けていたこと。ボクシング使わないのに……。そして、あの体格差、あのスタイルで以前は勝てていたんですけどね。
MMAにおける首投げの限界点を見たかと思います。これも以前から彼女には言ってきたけど、成功してきたのでやっぱり修正は難しかった。でもイ・イェジのようにMMAを知り、これからMMAで頂点に立とうとしている人間と、あれだけ体重差があっては首投げでは勝てない」
──首投げでバックを取られるなら、引き込んだ方が良いかとも思いました。
「マジメな話をすると、それ以前。格闘技として語るなら、あの体格差は、本来は試合は成立しないですよ」
──そこですね。でも、しなし選手はそれでも試合がしたいと。今回の試合は46.5キロ契約、500グラム・オーバーまで認められているので実質は47キロ。しなし選手は体重を増やして43キロ代、対してイ・イェジは5キロほど体重を落としていると。
「危ないです。ホント、ぶっちゃけて言うと試合は成立しない」
──こういうとアレですが、それだけ体格差があって、しっかりとMMAができる、やろうとしている選手との試合は危ない。
「でも戦績もあるし、名前もあるから海外だと踏み台にされますよね。だから、国内である程度の人が見てくれる場所で、気持ちの良い仕事をした方が良いんじゃいのって。
でも、まだ向こうでやっていこうと思っている。しなしがこれからどうMMAに向かっていくのか、それが『ちゃんと格闘技をやりなさい』ということを教えてくれることになると思います。今から彼女が間に合うか、間に合わないかは別にして。それが──しなしさとこのつけ。これまでやってきたことでもあるんです。
そして、しなしが向かいあおうが、これまで通りにやろうが……そこは皆に知らしめることになるので」
──ただし、同じ体格がいないというのは彼女だけの問題でもない、そこでつけがあるのもしんどいですね。
「女子MMAは以前はそれで成立していたけど、今はもう変わってきているので。韓国の選手たちは、MMAをやっている。
何より、しなしという選手は女子格闘技を背負っていなかったのに、格闘技から生きがいを得ている。そこが楽しくて、哀しみでもある。自分でチケットを売って、自分の試合を組んでもらうとか、彼女はJ-MMAの色んな面で先駆者でもあったんです。そして、今も好きに格闘技をやっている。大したものです。そこにある負けたくない、勝ちたいという想いも大したものです。
これからしなしがどのように格闘技に向き合っていくのかは彼女次第。でも、しなしさとこは死なない。無敵。それが結論です(笑)」
<この項、続く>