【AJJC2016】アジア選手権総評 by 中井祐樹 「世界の頂点を追うためにもアジア選手権は外せない」
【写真】1200人を超した参加者、ブラジリアン柔術が普及した実感とさらなる発展を考える中井祐樹JBFFC会長 (C)TSUBASA ITO
10&11日、東京都足立区の東京武道館で開催された国際ブラジリアン柔術連盟=IBJJF主催のアジア柔術選手権2016(Asian Jiu-Jitsu Championship 2016)。新鋭の台頭や世界王者の来日など、見どころが多かった今大会。日本ブラジリアン柔術連盟の中井祐樹会長に総評を聞いた。
Text by Tsubasa Ito
――アジア選手権の総評をお願いします。
「重みが増してきましたよね。これまでは『アジア・オープン』という名称でしたけど、昨年から『オープン』が取れてアジア選手権になりました。IBJJFの中での格式が変わってきて、パン選手権やヨーロッパ選手権のような位置づけになってきたということだと思います。この大会で勝って世界選手権の切符を得ておこうとか、ここで試合をして下半期の足掛かりにしようとか、世界のロードマップが黒帯の選手の中にできてきて、その中で非常に重要な大会になっていると思います。
日本の選手もここでポイントを取らないと世界の舞台に立つことは難しくなるので、ここ数年の傾向として黒帯のトップ選手も軒並み出場していますし、ここで勝たないと世界では勝てないという意識で戦っていますよね。今回はクラウジオ・カラザンス選手やマッケンジー・ダーン選手のような世界チャンピオンも来日しました。肩慣らしで来ている可能性はなきにしもあらずですが、少なくとも世界中で戦う意味が彼らにはあるのでしょう。
以前はこれからの新顔が来日するような舞台でしたが、今は世界の王者クラスが出場したり、1年間の良いペースをつくるためのステップボードとして使う選手が出てきました」
――世界的に見ても大会の価値が上がってきていると。今大会のソフト面についてはいかがですか。
「ベテラン選手と若い選手のせめぎ合いという構図が数多く見られて、白熱する試合が多かったと思います」
――アダルト黒帯ルースター級は、橋本知之選手が初優勝を飾りました。
「芝本幸司選手というトップランナーを、初めて破る日本人選手が出てきました。若い橋本選手が、これから世界のトップ戦線に入ってくれることを期待しています」
――芝本選手との決勝戦は、ラスト数秒の大逆転劇でしたね。
「最後だからいったという部分もあったと思います。いずれにせよ、最後の攻防が肝でしたね。ただ、明確な差があったわけではないので、今回はそういう結果だったということですね。芝本選手は必ずまた巻き返してくるでしょう」
――ライトフェザー級は、黒帯初挑戦の嶋田裕太選手が制しました。
「ここも新鋭が出てきましたね。嶋田選手は茶帯でいい成績を収めていましたけど、今回も非常にいい動きを見せていました」
――20-0のスコアで圧勝した加古拓渡選手との試合は衝撃でした。
「やはり、新鋭選手は勢いがありますよね。去年は宮地一裕選手がいきなりチャンピオンになりましたから。ベテラン選手にとっては、新鋭のほうがやりづらい部分もあったと思います。それでも、世界選手権ベスト8の加古選手を破ったことは驚きでもあり、期待感もあります。まだまだそうはさせんとベテラン選手が奮起すれば、ますますおもしろくなっていくと思います」
――嶋田選手は世界選手権でも期待できますか。
「できると思います。柔道出身で立ち技もできますし、今の柔術家にも対応できる力を持っていると思います」
――フェザー級は実績のある杉江アマゾン大輔選手が、ライト級は決勝で岩崎正寛選手を破ったホドリゴ・カポラル選手が頂点に立ちました。
「杉江選手はイザッキ・パイヴァ選手を下した韓国のチェ・ワンキ選手に勝って優勝したので、自信になる結果だったのではないでしょうか。近年は韓国人選手の実力アップが著しいので、日韓でせめぎ合っていけばさらにおもしろくなると思います。
ライト級優勝のカポラル選手は近年、MMAでの活躍が目立っていましたが、やはり本業は柔術だと思うので、ステップボードとしてこの大会を勝っておきたかったと思います。ただ、岩崎選手も決して内容的に完敗ということではなかったので、これからに期待したいですね」
――オープンクラスはクラウジオ・カラザンス選手が制しました。世界チャンピオンの戦いぶりはいかがでしたか。
「クローズドガードでシャットアウトして、確実に勝つ戦法でいきましたね。ただ、決勝を戦ったクサノ(レアンドロ・デ・ソウザ)選手のがんばりは、本当に特筆すべきものがありました。カルザンス選手も攻めあぐねていましたから」
――その他で印象に残った階級はありますか。
「ミドル級で優勝したホベルト・サトシ・ソウザ選手が、仕切り直したかなという感じですね。近年はMMAに重きを置いていたので、柔術では世界の一線から下がるのかなという気もしていたのですが、それもいらぬ心配だったようです。連盟の機関紙のインタビューでも、世界を獲りにいく気持ちは変わっていないと言っていたので、安心しました。日本の至宝と言える存在ですから」
――来年の世界選手権へ向けても収穫の多い大会だったと。
「喜ばしいことに、女子は湯浅麗歌子選手が世界選手権を2連覇しているので、ある意味メンデス兄弟やミヤオ兄弟のような、絶対王者という存在になってきています。男子も準優勝までは過去にいるわけですから、日本人初の金メダルは誰かというところに焦点はいっていると思います。選手たちには熾烈なライバル心で競ってほしいですね」
――今後がますます楽しみですね。
「現実問題としては世界選手権で日本はベスト8で涙をのんでいるので、期待を込めてのことですね。それでも、女子だから湯浅選手が獲ったわけではないと思っています。男子も私の頭の中での理論上は可能なんです。あとは、選手がどう見せてくれるかだけですよね。
世界の頂点を追いかけてもらうためにも、アジア選手権は外せない大会だと思います。今回はマットの数も10面で過去最高を記録し、エントリーも1200人に達したところで締め切りました。それを超えるようになった時にどうするかという問題はありますが、それもブラジリアン柔術の普及が進んでいることの証なので、これからの良い課題をもらったと考えています」