【Interview】塩田Gozo歩(01)、「プロ選手には柔術をさせます」
【写真】 パラエストラ八王子から生まれたUFCファイターの徳留一樹。Gozoファミリーといっても過言でない、同じくUFCファイター、大谷翔平ばりの笑顔を見せるナム・ファンと(C)MMAPLANET
日本のブラジリアン柔術創世記から、マリオ・ヤマザキの下で学ぶために渡米、帰国後も日本の柔術界軽量級のトップ選手として活躍した塩田歩。
2004年ブラジリアン柔術世界大会から茶帯ガロ級で準優勝を果たすと、翌年にはMMA転向。全日本アマチュア修斗バンタム級で優勝し、プロMMAファイター=塩田Gozo歩として活躍。この間、自らの城=パラエストラ八王子を築いたGozoが、セコンドとしてMGMグランドガーテンアリーナのオクタゴンに姿を現した。いわば柔術とMMAの両面の創世記と世界の頂点を知るGozoに、MMAにおける柔術の有り方を尋ねた。
──7月6日、Gozoさんの教え子・徳留一樹選手がUFC162に出場。結果は判定負けと悔しいものとなりましたが、それとは別にGozoさんがMGMグランドガーデン・アリーナで大観衆が詰めかけた公開計量のステージに立つ姿を見て、感慨深かったです。
「本当に光栄です。これもひとえに徳留が頑張って、僕を連れて行ってくれたんです」
──徳留選手の頑張りには、ジムを創って活動してきたGozoさんの働きがあったからこそじゃないでしょうか。
「ありがとうございます。ホイス・グレイシーを見たことが、柔術を始めた理由の一つですから。あの計量会場にいたことは、本当に光栄です」
──かつての師匠マリオ・ヤマザキには会えましたか。
「いえ、会えなかったです。マリオさんのところで柔術を習ったのは、16年も昔の話になるんですよね。最初、エンセン(井上)さんのところで始めて、ミッチリと練習したかったので、大学を留年しました。そして、卒業後にマリオさんのところへ行ったんです。でも当時、競技柔術のことは知らなくて、柔術にハマったんだから、やっぱりホイスとUFCなんですよね」
──Gozoさんの柔術とは、今でいうとMMA、当時だとバーリトゥードに通じるモノだったのですね。
「そうですね。日本に戻ってから、自分がしっかりと柔術を習ったのは、やっぱりエンセンさんのところなので。エンセンさんの柔術はまさにMMAで使う柔術でしたしね。マリオ・ヤマザキさんは柔道ベースの柔術でした。だから、柔術、柔術っていう柔術ではなかったです。
その時にマルガリータ(・ポンテス)が、まだ青帯で米国にいました。メチャクチャ細くてメチャクチャ強かったです。柔道の流れの柔術の指導を受けていたので、マルガリータをみて『これが柔術か!』って思った記憶があります。こんなに強いのに無名なのかって思っていたら、すぐに有名になりました」
──その頃はまだ真っ直ぐな青年でしたか。
「いや、そんなことはないですね(笑)」
──青帯の頃からマルガリータは、マルガリータだったんですね(笑)。あれだけ強かったのに、つくづく人間性が残念です。
「だから、あの頃から色んなアカデミーを放浪していたんじゃないですか」
──マルガリータとの出会いから、5、6年の後、パラエストラ八王子を創った際、MMAと柔術、どちらに重きを置こうと思っていたのでしょうか。
「柔術の指導をできる人間が、ジムを開くなら柔術クラスは欠かせないですよね」
──2001年当時、柔術は今ほどではなくても、MMAとは別個のスポーツとして存在するようになっていました。
「柔術に対する想いは、僕のなかで基本のピースです。欠かせないモノです。でも、今の日本は柔術が蔑ろにされて、米国は柔術の状況とはかなり違ってしまっています。ウチはMMAのプロ選手にも、『寝技も柔術で紫帯ぐらいの力はないと通用しない』とは言い続けています。だから、プロの選手には、本人は意味がないと思っていたとしても、練習をさせるようにしています」
──今、UFCを見ていても上の選手の寝技は、黒帯級ばかりですよね。実際にMMAで実績を上げて黒帯を巻くファイターも少なくない。
「みんな、柔術はできていますよね。ただし、これも以前とは違い、柔術ができるからMMAがOKかというと、それも違う。ただ、柔術のなかでも立ち上がる動作があるし、テイクダウン狙い、寝技にいっても立ってテイクダウンという風に組み立てることもできるはずです。要はMMAファイターは、MMAを軸として柔術を捉え練習すれば良いと思っています」
──では柔術志向のジム生には、今の流れの柔術を徹底して指導していますか。
「今の流れと、柔術が持っていた部分、両方を指導しているつもりです。MMAファイターが、MMAを軸とした柔術の捉え方があるのと同様に、競技柔術だけで勝ちたいと徹底している者がいて当然だし、それで良いと思っています。
ウチの道場は週に2回、吉岡(大)さんが指導してくれるので、柔術を徹底している者は吉岡さんのようなトップの人にベリンボロとか習う。パラエストラ・イズムじゃないですけど、色んな競技の良いところを融合させてやっていきたいです」
──MMAの選手は、ムエタイを見ても、レスリングを見ても、空手、サンボ、柔術を見ても『MMAならどうなるのか?』、『MMAだと、この技はどういうアレンジが必要か』ということになると思います。すると今のダブルガード全盛のような柔術だと、その視点が持てない。だから、本来持つMMAに欠かせない柔術が見えにくくなっているのかもしれないですね。
「MMAなら殴られるポジションですよね。MMAを戦う人間が、ベリンボロや50/50に関して、どうなんだろうって思うのは理解できます。柔術の練習をしても、付き合わないで立てばいいという気持ちになるでしょう。ただし、自分の道場は近代柔術の主流である技術を無視することはできない。競技柔術でも勝てる、MMAでも勝てるところを目指していきたいです」