【on this day in】9月15日──2012年
【写真】ROAD FCの舞台演出を見れば、あの頃の日本と思われるかもしれない。つまり、ROAD FCとはそういう場所なのだ (C)MMAPLANET
ROAD FC09
@韓国ウォンジュ、チアク体育館
「何かあったら怖いなと思いながら海外のケージサイドやリングサイドで写真を撮ったことは何度かある。リトアニアで乱闘劇が起こった時や、日本人がアウェイの地のメインで戦い勝利した時。選手やセコンドは控室に戻るけど、アリーナ内にただ1人の日本人として残っていると何が起こるかわからない国や街がある。僅か3年前の今日、自分が日本人というだけで──その何か起こるかもしれないという覚悟を持って会場へ向かった。1カ月と5日ほど前に韓国の大統領が、実効支配し日本が領有権を主張している島へ現職として初めて上陸したことで、日本では一気に反韓ムードが高まった。これに対し、歴史問題が燻り続ける韓国の人々も大いに反発、反日感情は日に日に強くなっているとニュースで伝えられていた。こんな時に韓国へ取材に行く──日本人選手もどんなブーイングを浴びるのか。そして、試合後のケージサイドで自分はどんな光景を目にするのか──なんていう心配は杞憂に終わった。3人出場した日本人選手は誰一人としてブーイングを浴びなかった。ばかりかミノワマンと久米鷹介には大きな声援が送られた。折り合いがつかず、蟠りが残る両国。でも、チアク体育館のファン、韓国人選手、ROAD FC関係者と日本人は話す言葉は違うが、MMAという共通言語が存在した。MMAがあり、彼らは日本をリスペクトしてくれる。もちろん、街中の声とは違う。格闘技会場ならではのものだ。またMMAが一般に広まりきっていない、好きな者が集まる空間だから、一般層が集うサッカーの韓日戦のような観客席とはならなかったのだろう。本来は格闘技記者として、政治、宗教、人種について語るべきじゃないと思っている。ただ、3年前の今日、僕は格闘技の力、人間の可能性を見た想いをした。まぁ、こんなこと書いても鼻で笑う人、ばかりか怒りを覚える格闘技ファンもいるかもしれない。でも、僕はあの日、ケージサイドにいつづけた唯一の日本人だ。誰も持ちえない感情、希望を持っても良いんじゃないかな」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。