【WJJC 2015】世界柔術決勝リポート<01>ルースター級決勝、取り消されたジョアオのアドバンテージ
【写真】タイムアップの瞬間、電光掲示板のアドバンテージは確かにアドバン2-2でジョアオは勝利を確信した(C)MMAPLANET
5月28日(木・現地時間)より31日(日・同)にて、カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア州立大ロングビーチ校内ピラミッドで、IBJJF主催World Jiu-Jitsu Championship=世界柔術選手権が行われた。今年の競技柔術世界一を決めるこの大会、まずはルースター級決勝を振り返りたい。
<ルースター級決勝/10分1R>
ブルーノ・マルファシーニ(ブラジル/アリアンシ)
Def. by 8-8 アドバンテージ2-1
ジョアオ・ミヤオ(ブラジル/シセロ・コスタ)
カイオ・テハの欠場も有り、2年連続となった決勝の顔合わせ。前回王者にして過去6度世界王者に輝いているブルーノ・マルファシーニは、初戦&準決勝ともに一本勝ち、対するジョアオ・ミヤオは、初戦で日本の芝本幸司(トライフォース)を6-2で下し、準決勝はイヴァニエル・オリヴェイラからチョークで一本勝ちを収めての決勝進出だ。
開始早々お互い引き込んでダブルガードの状態となり、仲良くペナルティを貰った両者。やがてマルファシーニの方が上を選択してアドバンテージ一つを先行する。下にこだわるミヤオは、マルファシーニのラペル(裾)を引き出して、自分とマルファシーニの両方の右足に搦めたうえで、自分の右足の下から右手を伸ばしてそれを掴むリバース・デラ・ワームガードを作る。さらに(手を自らの足の下に通さず掴む)通常のワームガードと使い分けて崩しにかかるミヤオに対して、マルファシーニも座り込むようにして抵抗。すると、お互いに二つ目のペナルティが入る。
スイープこそ防いでいるもののラペルをコントロールされて動けないマルファシーニに対し、ミヤオはリバース・デラ・ワームのグリップから左手をポストして立ち上がり、2点を先制する。
さらにそのグリップを保ったまま回転してベリンボロを狙うが、マルファシーニはミヤオのズボンの背後に手を伸ばして尻を出させながら防御し、不安定でも上をキープして2点を返しアドバンテージ差で逆転。
その後ミヤオはマルファシーニのラペルをキープしたまま50/50を作ると、そこから上を取って4-2。当然のようにマルファシーニも上を取り返して再逆転。50/50は解けたものの、ミヤオはまたしてもマルファシーニのラペルを引き出してリバース・デラ・ワームで固定していく。
さらに横にスピンしてインヴァーテッド・ガードの体勢を作ると、そこからトルネード・スイープで揺さぶるが、マルファシーニは見事なバランスで上をキープ。引き続きミヤオが同じ形を作ると、それを嫌がったマルファシーニは自ら下を選択するかのように背中を付け、上になったミヤオが逆転。するとマルファシーニは、ラペルに搦めて突っ込まれているミヤオの右足を抱えて後ろに倒すスイープですぐに再逆転してみせる。
残り3分。さらにリバース・デラ・ワームからのトルネードやベリンボロで攻め続けるミヤオ、耐え続けるマルファシーニの攻防が続く。
ミヤオがグリップを通常のワームに切り替え、加えて左脚でラッソーを作って上になろうとすると、座り込んでダブルガードのような体勢で守りに徹するマルファシーニ。残り1分のところでレフェリーがアクション。マルファシーニにペナルティかと思いきや、両者に3つ目のペナルティでお互いに2点獲得。得点は8-8、マルファシーニがアドバンテージ一つリードのまま試合は勝負所を迎えた。
死力を振り絞って最後の攻撃を仕掛けるミヤオは、ワームガードから横にスピンしてマルファシーニの体勢を崩すと、グリップをキープしたまま片足で立ち上がって上を狙う。
しかし、マルファシーニも片足でこらえ、一瞬ケンケン相撲状態となり元の体勢に戻る両者。この攻撃によってミヤオにアドバンテージが入り、場内は大声援に包まれる。残り20秒でついに追いついてみせたミヤオ。同点とはいえ、試合のほとんどをディフェンスに費やしているマルファシーニは、残り10秒足らずのところで倒れ込んでアキレス腱固めでポイントを稼ぎに行く。足首の柔軟さには定評のあるミヤオに極まるはずもなく、またアドバンテージにも至らずに試合終了。勝利を確信したミヤオは右手を上げて場内の大声援に応えた。
攻め続けたミヤオと凌ぎ続けたマルファシーニということで、普通に考えればミヤオのものと思われたこのレフェリー判定。ただし、審判の個人的な柔術哲学あるいは好み次第では、有利とされる下のポジションにこだわり、一度形に入ったら容易には解除できない「ハメ技」的な要素の強いワームガードを使い続けたミヤオより、そのような手段に頼らずあえて上からの困難な闘いを選択したマルファシーニに付ける可能性も……
世界一が決定される瞬間を場内が固唾を飲んで見守るうち、なんとレフェリーたちが協議を開始。その結果、ミヤオの最後のアドバンテージが取り消されてしまう。怒号とブーイングが飛び交うなか、レフェリーから手を上げられたマルファシーニは歓喜の叫びをあげ、アリアンシ応援団は四方から浴びせられる大ブーイングのなかで勝利の歌を歌いあげる。
今大会では階級別では三審制が用いられず、ジュリー制度が適応された世界大会。マルファシーニ陣営の抗議を受けビデオ判定の結果、ジョアオのアドバンテージが取り消されこととなる。
マルファシーニが柔術界の一大勢力アリアンシ所属であることが影響しているのではないか、と勘ぐってしまいたくなるようなこの裁定。ミヤオの最後のスイープ狙いは、マルファシーニの体勢を崩したわけではなく、一瞬お互い片足状態に持ち込んだのみということでアドバンテージには至らなかった、と解釈されたのだろうか。
例え同点となったスイープにはアドバンが認められなかったとしても、その前の攻防で(リバース・デラ)ワームガードで攻めるミヤオと、守るマルファシーニの両方にペナルティが入ったことに疑問を持つ向きもあるだろう。ただし、ここでも「一度ラペルを握ったら、仕掛ける側が離さない限り状況が進展しないことが多いワームガードに固執したミヤオの選択自体、膠着誘発でペナルティに値するのだ」という考え方が適用されたのかもしれない。昨年キーナン・コーネリアスが世界に披露したワームガードは、それ以来解除法やそこからの攻撃のバリエーションが増えて来ているとはいえ、いまだに(50/50と同様)攻防の展開の幅を狭めてしまうことは否めない。
世界最高峰の柔術家二人による死闘は、アカデミー間の政治的力学から競技柔術の進化、そしてそのあるべき形まで、見るものにいろいろなことを考えさせる刺激的なものとなった。