【on this day in】3月28日──1998年
【写真】このような試合の積み重ねが、今のMMAに通じている。須田君は日本のMMA界が忘れてならないパイオニアだ(C)MMAPLANET
Golden Trophy
@フランス・オルレアン、パレ・デ・スポール
「一瞬にして須田君の左目は大きく腫れ上がった。今にして思えば当たり前だ、いや、このぐらいの傷で済んで良かったという方が適切だろう。道着着用、フランスの総合格闘技=ゴールデン・トロフィーに日本人として初めて挑んだ須田君の対戦相手オヘリアン・ディアルテは、オーランド・ウィットにも勝ったことがあるフランス・ムエタイ界の強豪で、IMF世界王者という肩書きを持っていた。US士道館の空手~キック~シュートファイティングの格闘トライアスロンで道着も経験している。そんな彼がアディダス製のMMAグローブと思いきや、セミコンタクトのITFテコンドー用のフワフワのグローブで、右ストレートを思い切り須田君の顔面に打ち込んだのだから。ドクターチェック後、試合は無事再開されたが、組んでも、三角絞めの態勢に入っても、場外に出ればブレイクが掛かる須田君には苦しい展開が続いた。道着を掴んでパンチを打ち込むことにも長けているデュアルテは、ヒールを仕掛けられると突然、目を抑えて足の指が入ったとアピール。スタンドでの再開に持ち込むなど、試合巧者でもあった。そのデュアルテが須田君の道着を掴んだ。ここから強烈なヒザを突き上げることができる。よもやこれまで──と思われた直後、真っ直ぐ伸びてきた左手を掴むと、須田君は後方に回転し引き込むように腕十字を極めた。淡路島在住、『セコンドより言葉のできる人が一緒の方が助かるので、髙島さん一緒にフランスへ行ってください』と言ってきた彼は、試合の1週間ほど前から僕の家に泊まり、家内の作る食事で体重を減らしていった。海外遠征も、減量も、何もノウハウがない17年も前に挙げた彼の劇的な勝利。地方在住プロMMAファイターの先駆け、須田匡昇は日本のMMA界に存在しない、殿堂入りに相応しい格闘家であることをここに記しておきたい」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。