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【UFC315】アルド戦へ。名将の実弟エイマン・ザハビ「恐怖を愛することができると、自由になれる」

【写真】もっともっと話を聞きたい。そんなエイマン・ザハビだった(C)MMAPLANET

10日(土・現地時間)、カナダはモントリオールのベルセンターで開催されるUFC315「Muhammad vs Della Maddalena」でエイマン・ザハビがジョセ・アルドと戦う。
text by Manabu Takashima

モントリオール在住、兄は名門トライスタージムの経営者でありヘッドコーチのフィラス・ザハビ。偉大な指導者を兄に持つ、エイマンに初インタビュー。その意外過ぎるキャリアのスタートと、5連勝という結果を残すようになった最大の要因とか。

あの兄にして、この弟あり。理想論は体現するエイマン・ザハビ、アルド戦を前に彼のMMA哲学に触れてほしい。


21歳の時で、30歳までにUFCと契約をできなければ現役はスッパリと諦める。大学に戻って、勉強をしなおすと決めた。結果、29歳の時にUFCとサインした

──エイマン、インタビューを受けていただきありがとうございます。

「こちらこそ。実はインタビューは明日だと思って、練習スケジュールを組んでしまっていて。そのせいで、スタート時間を早めてもらうことになってしまったね」

──全然、問題ないです。ところでその背景はトライスタージムですね。懐かしいです。もう14年も昔に取材させてもらったことがあります。近くのホテルに泊まって、3日ほど。

「ルービーフーズだね(笑)」

──そうです、そうです。

「覚えているよ。ハツ・ヒオキと一緒に来ていたの。僕も一緒に練習をしたからね」

──あの時はお兄さんにフィラスに本当に良くしてもらって。でも、弟のエイマンが一緒にいたとは……。

「フィラスは弟から見ても、凄い男だからね」

──ハイ。そして弟のエイマンが、地元モントリオールでジョゼ・アルドと対戦します。今の気持ちを教えてください。

「ものすごくエキサイトしているよ。僕はファイトウィークが大好きなんだ。なんかバケーションにやってきたように、ワクワクしてしまって。人生で一番良い時のように感じている」

──ファイトウィークをそのように楽しめるものなのですか。

「もちろん、試合は危険だからケガをする恐れもある。できればケガをせずに、試合を終わらせたい。でも一番大切なことは、このファイトキャンプで準備してきたことをぶつけること。気持ちで絶対に負けないことだよ。モントリオール、ベルセンターで戦うことは夢だった。何度もジョージ(GSP)の試合を見てきた場所だ。それに歴史に残るアイスホッケーの試合が行われてきた。ベルセンターはモントリオールのスポーツの歴史を創ってきた。その歴史に加わることができて、最高だよ」

──ザハビの名はMMA界で巨大です。ただし、日本ではエイマンのことはフィラスよりも分かっていないことが多いです。MMA界の名将の下、エイマンはいつごろからMMAを戦うようになったのでしょうか。

「高校生の時に父が僕が虐められないようにと、フィラスに『弟を一緒にジムに連れて行ってくれ。自分で自分の身を守れるようになるために』って頼んだんだよ。ハイスクール時代の僕はとても小さく、痩せていて。父はいつも僕のことを心配していたんだ。

フィラスは子供のころに父が空手道場に連れて行くことができていたから、空手に打ち込んでいた。でも僕の時は忙しくてそういう時間がなかった。かなり遅くなったけど、僕もフィラスのように格闘技を始めるようになったんだ。当時、フィラスはまだトライスターの経営者でなく練習をし、指導者の一人だった」

──虐められないようにトレーニングを始めた青年が、いかにUFCファイターを目指すようになったのでしょうか。

「練習を始めると、ずっとフィラスは付きっ切りで指導をしてくれた。小さすぎる僕と一緒に練習してくれる人間がいなかったから。まるで赤ん坊の世話をするように、フィラスが僕を導いてくれた。まだ16歳だし、なんでも吸収出来てどんどん強くなれたんだ。

同時にトライスターもデイヴィッド・ロワゾ―、アイヴァン・メンジバーと海外でも活躍するファイターが出てきた。そうなるとフィラスは試合で週の半分を空けることが増えていった。兄に命じられ、僕が代わりに指導もするようになった。同じ週末に違う場所でトライスターのファイターが試合をするようになると、フィラスは僕が彼が就けない方のコーナーに就くように言ってきた。

フィラスが25歳、僕は17歳。自分より年上の選手のコーナーマンを務めるようになったんだよ」

──なんとファイターより先に指導者とコーナーマンになっていたのですね。

「大学生になった頃にはUFCで戦うファイターまでもが、僕にコーチをしてくれって言ってくるようになったよ(笑)」

──それは凄い話ですね。

「そうやって僕がコーナーにいてトライスターの選手が勝つのを眺めていて、『僕もプロファイターとしてやっていけるんじゃないか』と考えるようになった。21歳の時で、30歳までにUFCと契約をできなければ現役はスッパリと諦める。大学に戻って、勉強をしなおすと決めた。結果、29歳の時にUFCとサインした」

兄はファイターが金にならないこと知り抜いていた

──フィラスのようにコーチ一筋という道を選ばなかったのは?

「最終的にはコーチになる。そのプロセスだよ。それに人生って、チャンスを掴みにかかるモノだし。僕だって偉大なファイターになる可能性はある。ウォリアーとして、生きることができるかもしれない。そんな風になれなくて、コーチに収まっても優れた指導者になれば良い。何も問題じゃない。自分がなれる最高のファイターって、どんなファイターなのか。それを知りたいって思ったんだよ」

──初めて、その話をしたときのフィラスの反応は?

「驚いていたよ(笑)。兄はファイターが金にならないこと知り抜いていたから。コーチの方が稼げるからね。でも『お前がやりたいなら、ヘルプする』って言ってくれた。でも、UFCファイターにならないと稼ぐことはできないから、その時は大学に戻れとは強く言われたよ」

──フィラスはMMAを戦ったことはないですが、その知識は豊富で。そして練習で見せるグラップリングの強さには舌を巻きました。そのフィラスの指導を受け続けてきたエイマンは、MMAファイターとしてストロングポイントをどこだと考えていますか。

「打撃だよ。ずっとムエタイをやってきたからね。とはいっても、MMAの打撃だ。メンタル的にはキックやムエタイでなく、ボクサーだ。ボクサーは自分は殴っても、殴られないように戦う。ダメージを受けずに戦うんだ。それこそモハメド・アリが『蝶ように舞い、蜂のように刺す』と言ったようにね。

ボクシングのメンタルに、ムエタイを練り込む。キックやニーを正しい角度で蹴り込むんだ」

──組み技のあるMMAで、その戦いをするためには何が必要でしょうか。

「まずはしっかりとステップを踏んで、自分のレンジを確保することだ。同時に僕はレスリングで2012年にケベック州チャンピオンになっているし、柔術も黒帯だ。どの局面になっても戦える。レスリングや柔術ゲームだった大好きだけど、打撃、ムエタイが一番好きなんだよ」

──フィラスのイメージが強すぎて、絶対的にグラップラーだと思っていました。

「アハハハハハ」

アルドの打撃は型どおりだ。僕の打撃は、もっとユニークだよ

──と同時にUFCと契約を果たしましたが、最初の3試合を見る限りサバイブするのは難しいとも思っていました。でも、その後は5連勝です。

「ヒカルド・ラモス戦まで、KOされたことがなかった。それまで、KOされないことに神経を使っていた。2連敗したとき、なんでこんなにナーバスになるのかと本を読みまくった。そのうちの一冊の本から学び、自分なりにアレンジを加えることにした。毎日のように、恐怖を愛するようにしたんだ。恐怖を愛することができると、自由になれる。

恐怖が速く動かないといけないとアドレナリンを分泌させていた。でも恐怖から逃げることはできない。なら恐れをコントロールしようと考えるようになった。結果、恐怖は僕のベストフレンドになり、大きなパワーを与えてくれる。こんな風に修正できたことで、5連勝という結果がついてきた。今も試合前はナーバスだよ、でも恐怖は感じない。最高の準備をしてきた。勝とうが、負けようがベストを尽くすだけだからね」

──恐怖を受け入れることは、自分は強くないと認めることに通じているのでしょうか。

「イエス。一人の人間だ。そして、誰よりも優れていたい。頭を使って勝ちたいんだ。ぼくが試合に勝てるのは強いからでなく、優れているからなんだよ」

──では如何にジョゼ・アルドより優れた戦いをし、勝利を手にするつもりですか。

「ジョゼ・アルドは偉大なファイターだ。

複数の記録保持者でもある。戦う術を知っている。僕と同じように打撃が好きだから、打撃戦になるだろう。でも、打ち負かす。アルドの打撃は型どおりだ。僕の打撃は、もっとユニークだよ。しっかりと角度を把握して、倒す。

ジョセ・アルドも1人の人間だ。この試合に負けるとすれば、それは僕が彼に負けたからでなく、僕が自分に負けたからだ。対戦相手が攻勢に出るのは、僕がミスをしたからだよ。ミスをしなければ、僕が彼より優れていることになる。彼がミスをするから、僕が勝てる。対戦相手は自分を映す鏡でしかない」

──深いです。ところでフィラスがコーナーにいることは、どれだけ心強いでしょうか。

「フィラスは僕にとって、一番大切な存在だ。兄がどれだけ僕のために努力をしてくれたか。これは他の誰も手にすることができない。この経験は、金で買えるモノじゃない」

──なるほどです。では土曜日の夜、モントリオールのファンにどのような試合を見せたいですか。

「僕の持つワールドクラスのストライキングかな。UFCのベルトを目指せることを、しっかりと示したい」

■視聴方法(予定)
5月4日(日・日本時間)
午前7時30分~UFC FIGHT PASS
午前11時00分~PPV
午前7時00分~U-NEXT

■ UFC315対戦カード

<UFC世界ウェルター級選手権試合/5分5R>
[王者] ベラル・モハメッド(米国)
[挑戦者] ジャック・デラ・マダレナ(豪州)

<UFC世界女子フライ級選手権試合/5分5R>
[王者] ヴァレンチーナ・シェフチェンコ(キルギス)
[挑戦者] マノン・フィオホ(フランス)

<バンタム級/5分3R>
ジョゼ・アルド(ブラジル)
エイマン・ザハビ(カナダ)

<女子フライ級/5分3R>
アレクサ・グラッソ(メキシコ)
ナタリア・シウバ(ブラジル)

<ライト級/5分3R>
ベノア・サンドニ(フランス)
カイル・プレボレック(カナダ)

<ウェルター級/5分3R>
マイク・マロット(カナダ)
チャールズ・ラドキー(米国)

<女子フライ級/5分3R>
ジェシカ・アンドラーデ(ブラジル)
ジャスミン・ジュスダヴィチェス(カナダ)

<ライトヘビー級/5分3R>
モデスタス・ブカウスカス(リトアニア)
イオン・クテラバ(モルドバ)

<ライトヘビー級/5分3R>
ナバホ・ステーリング(ニュージーランド)
イワン・エルスラン(クロアチア)

<ミドル級/5分3R>
マフクアンドレ・バリユー(カナダ)
ブルーノ・シウバ(ブラジル)

<フェザー級/5分3R>
ダニエル・サントス(ブラジル)
イ・ジョンヨン(韓国)

<バンタム級/5分3R>
ブラッド・カトーナ(カナダ)
ベクザット・アルマカーン(カザフスタン)

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