【DEEP JEWELS48】須田萌里、浜崎朱加戦を振り返る「迷いがなかった。柔術をやり込んでいたから――」
【写真】浜崎に勝利して喜びを爆発させる須田。その勝利の裏側にあったものとは(C)MATSUNAO KOKUBO
3月23日(日)、東京都港区のニューピアホールで開催されたDEEP JEWELS48で、須田萌里が浜崎朱加をRNCで下した。
Text by Shojiro Kameike
試合時間、1R2分28秒――この結果は大きな衝撃をもたらした。しかし試合前のインタビューで、須田は決して自信でも過信でもない、確信に近い表情を浮かべていた。そして彼女は、その確信を試合で現実のものとしている。日本女子MMA史に残るアップセットは、如何にして起こったのか。須田萌里、そして父の智行氏とともに試合を振り返る。
浜崎さんがバランスを崩して倒れたんやと思います
――浜崎戦の勝利、おめでとうございます。今回の取材を申し込んだ時、智行さんは試合内容について「有言実行ですが、内容が良すぎました」と仰っていました。
「ありがとうございます。そうですね(笑)。あんなに最初に展開で極めることができるとは思っていなかったです。もっと時間が掛かるかな、って」
――なぜ「もっと時間が掛かる」と想定していて、なぜ実際はそこまで時間を要しなかったのでしょうか。
「私の中に迷いがなかったからやと思います。ずっと『こうなったら、こうする』と決めていて、その動きを繰り返し練習していました。試合では練習どおり、作戦どおりに体が勝手に動きましたね」
――正直なところ、試合前のインタビューで須田選手が見せていた笑顔に疑問はありました。浜崎選手のようなビッグネームとの試合を控えていれば、もっと不安や焦りがあって然るべきで。しかし須田選手の笑顔の中にあったのは、決して過信ではない。確かな自信……確信だったかと思います。
「どうなんやろう(苦笑)。でもホンマに、メッチャ練習していて。その練習が自信になっていきました」
智行 たぶん萌里は浜崎さんのことを、そんなに知らないんですよ。僕としては、それがラッキーで。試合が決まって最初は、萌里もビビッてまうかなと思っていました。でも知らないから、ビビる要素がない。
僕は浜崎さんの強さを見てきているから、浜崎さんに勝つための練習を萌里に仕込んできました。これまでの試合よりもキツい練習をさせて――その練習を乗り越えたことが、萌里にとっても自信になっていたみたいです。
だから試合前の雰囲気とかも、いつもと全然違っていたんですよ。「自信に満ち溢れている。これは絶対に勝てる」と僕は感じていました。
――なるほど。試合展開を追っていくと、まず須田選手がテイクダウンされた後、浜崎選手の左足を取りに行きました。あの展開は足を極めに行ったのか、立たせるためか。あるいは、どちらも考えていたのか。
「まず、ずっと下になっても殴られないポジションを練習してきました。そのポジションにいながら、足を極められたら極められたで良いし、上になっても良い。足関からスイープを狙っていくのは自分がいつもやっているパターンやし、いろいろ展開させることができましたね」
――試合前のインタビューでは「寝技で勝負するならケージのほうがやりやすい」と仰っていました。それはケージ際でのスクランブルに対して自信があったのですね。
「はい。一度下になっても、上を取ることができる。そこに迷いがなかったです」
――スタンドに戻ると須田選手が左腕を差し上げ、投げようとした浜崎選手を逆に倒しました。あの展開については?
智行 浜崎さんの場合、キムラを狙いながら投げに入ったりとか、半分背中が見えている場合が多いですよね。その時はバックを取るチャンスやな、と話をしていました。その展開に萌里が付いていったら浜崎さんがコケた、ということが起きて。
――柔道出身者は背中を見せやすい、と言われ続けています。しかし浜崎選手に対して、その点を突くことができるファイターも少なかったように思います。
「それができたのは『柔術をやり込んでいたからかな』って思います。浜崎さんが今まで対戦してきたなかで柔術をやり込んでいたファイターが、どれだけいたのかは分からないですけど……。私たちにとっては特別な対策というわけじゃなく、普段からやっていることなので」
――先ほど智行さんが「浜崎さんがコケた」と仰いましたが、どういうことでしょうか。
「あれは私が投げた、倒したっていうふうに言われているけど、浜崎さんがバランスを崩して倒れたんやと思います。私はボディロックでクラッチしていたら、そのまま上を取れて――『なんで上を取れたんやろう?』と思っていました」
――そうだったのですね!
「もちろんプレッシャーはかけていましたけど、浜崎さんが投げと同時にバランスを崩していたのかもしれないです」
――あの時点で浜崎のバランスよりも須田選手のバランスが上回っていたわけですか。確かにフィジカルを構成する要素として、バランスも大切です。
「いつやろう……。それが繋がっているかどうかは分からないけど、足を怪我した頃にスクワットばかりやっていた時があるんですよ。足の調子が良くなったのは、ブラックコンバットに出た時ぐらいからで。その頃から『バランスが良くなった』と言われるようにはなりました。私は全然分かっていなかったですけど(苦笑)」
最強の相手と戦うのは、最高の場所が良い
――MMAデビューして以降、いつ頃まで相手に力負けし、いつから力負けしなくなったかという境目の時期はありますか。
「高校生の頃は、みんな力が強いなと思っていましたね。卒業してからは、まぁまぁって感じで。高校生の頃はまだ体も細かったし、そこから成長してきたので」
――徐々に体が大きくなってきている印象はありました。同時に、今まで過度な減量はしたことがないですよね。
「そうですね。今まで減量はしたことがないです。今回も水抜きとかはしていないし、軽い体重調整――お菓子を辞めたぐらいです(笑)」
――もう一つ、打撃のガチスパーもしないもしないかと思います。これまで試合後までダメージが溜まっていたことはありますか。
智行 僕がポンコツになった理由は、ソレですからね(苦笑)。十代から殴り合って、過度な減量をして……。だから子供を指導していくうえで、過度な減量をさせないことと、ダメージが溜まるような練習はさせないと決めていました。ただ、それで怖いのは打たれる免疫ができていない状態があることで。
――ここ最近は試合でも相手の打撃が見えるようになってきているように見えます。
「試合中も結構見えていますね。今まではパク・ジョンウン戦でパカーンともらった時ぐらいで……」
――はい。あの時は「正面から殴られた経験がないのかな?」とは感じました。
「なかったです。あの試合から、頭の位置とかディフェンスは意識するようになりました。ただ、試合後も2~3日ぐらいは少し痛みが残るぐらいで。だいたい試合翌日から練習していますし」
――浜崎戦直後は寝られず、翌日は朝から体を動かすことができなかったとか。
「アハハハ。その日はすごくアドレナリンが出ていたのか、2時間ぐらいしか寝られなかったんです(笑)。夜の2時には寝て、4時には目が覚めて――そこから寝られなくなりました。そのあと帰りの新幹線で寝て、大阪に戻ってから練習しました」
――それだけ特別な勝利だったということですね。
「はい」
――試合後、映像は視直しましたか。
「どういう動きをしていたかな、って技術的に視ました」
――「私よくやったなぁ」と喜びながら視るわけではないのですね。
「それはないです(笑)。ちゃんと試合を視直すためです」
――改めて今回の浜崎戦を視て、自分自身に何点をつけますか。
「70点ぐらいですかね。自分の中では高いほうです(笑)。もっといろんな展開を試したかった部分はあります。練習したことを10パーセントぐらいしか出せていなくて……。浜崎さんほどの相手と戦える機会なんて、あまりないじゃないですか。だから、いろんなことを試してみたかったです。相手がどんな動きをしてきても対応できるぐらい準備していましたし」
――次は伊澤星花戦でしょうか。
「伊澤さんがテレビ解説でもSNSでも言ってくれていましたね。ただ、試合を挟んでしっかりと準備したいです。5月にはムンジアルに出るので、MMAはその後ですね。最強の相手と戦うのは、最高の場所が良いと思っています」
――今回は茶帯でムンジアル初挑戦とのことですが、意気込みをお願いします。
「私は柔術ベースなので、柔術を磨けば磨くほどMMAに生きてきます。だからムンジアルに出る意味があって。もちろん茶帯には柔術専門の選手がいっぱいいます。私にとっては初めてのムンジアルです。少しでも良い結果が残せるように頑張ります!」