【UFC314】展望 激闘必至。挑戦者=夢追い人ジエゴ・ロピス✕心機一転=元絶対王者ヴォルカノフスキー
【写真】壮絶な攻防が長引くのか。早々にケリがつくのか(C)Zuffa/UFC
12日(土・現地時間)、フロリダ州マイアミのカセア・センターにてUFC 314「 Volkanovski vs Lopes」 が開催される。UFCデビューとなるパトリシオ・ピットブル・フレイレをヤイール・ロドリゲスが迎え撃つ注目の一戦があり、コメインではマイケル・チャンドラーマイケル・チャンドラーとパディ・ピンブレットによる新旧人気者対決が行われるこの大会のメインは、元絶対王者アレックス・ヴォルカノフスキーとジエゴ・ロピスの間で争われるフェザー級王座決定戦だ。
Text by Isamu Horiuchi。
この試合は、前王者イリャ・トプリアのタイトル返上を経て実現するもの。昨年ヴォルカノフスキーとマックス・ホロウェイというフェザー級2大レジェンドをKOに葬り、衝撃的なまでの強さで新世代の台頭を見せつけたトプリアは、今年2月に減量苦やライト級への新たなる挑戦を理由に王座返上を発表。復帰戦でのトプリアへのリベンジを目指していたヴォルカノフスキーと、目下5連勝中の新鋭ロピスの間で正規王座決定戦が行われることとなった。
ロピスはブラジルのマナウス出身にして、現在はメキシコ在住。父や兄姉が黒帯、叔父に至ってはコラル帯(赤黒帯・7段)を保持するという柔術一家に生まれ、10代の頃から地元でMMAを経験。やがて柔術指導の仕事を紹介されて単身メキシコに渡ると、そこで同郷のアレッサンドロ・コスタ(現UFCフライ級)と出会い、ブラジリアン・ウォリアーズチームを結成した。さらにその柔術指導の腕を買われ、コスタとともにグアダラハラのロボジムMMA所属となった。
名伯楽フランシスコ・グラッソの下で打撃技術も磨き、メキシコ最大のMMA団体LUXの王座に就く等順当にキャリアを重ねてきたロピス。最初に掴んだビッグチャンスは、2021年8月のDWCS(ダナ・ホワイト・コンテンダーシリーズ)参戦だった。ここでロピスは同郷のジョアンダーソン・ブリトーと激闘を繰り広げ、腕十字やギロチン等で見せ場を作るも3Rにアイポークを受け試合は中断。テクニカル判定で惜敗し、UFCとの契約はならなかった。(ちなみにこの時契約を得たブリトーは、2022年4月から2024年5月までUFC5連勝を成し遂げている)
契約を逃したロピスだったが、やがて思わぬ形でその姿が世界に露出することとなる。2023年3月、ロボジムのチームメイトであるアレクサ・グラッソ──前述のDWCSにおいてもロピスを激推する紹介コメントを出していた──が、女子フライ級絶対王者ヴァレンチーナ・チェフチェンコのバックキックをかわしてチョークを極める大番狂わせを演じて新王座に。その直後、試合前にグラッソがこの動きを繰り返し練習していた映像が出回り話題となったが、この時にパートナーを務めていたのが、グラッソの組技コーチのロピスだったのだ。
その2カ月の5月。世界を揺るがしたシンデレラ・ストーリーの名脇役(?)としていくらか認知を得たロピスに、新たなチャンスが突然訪れる。試合前5日という直前オファーにて、16戦全勝にしてランキング10位のモフサル・エフロエフと対戦する機会を得たのだ。絶対不利の予想のなか、ロピスは初回に強烈な右フックを効かせ、さらに下からの腕十字でエフロエフの腕を伸ばしかけフィニッシュ寸前に追い込む等、圧巻の攻撃力で見る者全てを驚かせた。最終回にもキムラで腕を伸ばし、終了寸前にも三角絞めのロックを作ったロピスは、判定で惜敗するもファイト・オブ・ザ・ナイト・ボーナスをゲット。グラッソのコーチ&練習相手ではなく、将来有望な新鋭ファイターとして存在を知らしめた。
その後ロピスは、強い極めと接近戦における無類の殺傷能力を活かした超攻撃的な戦いぶりで3連続1Rフィニッシュ(ボーナス2回)を含む4連勝を挙げ、順調にランクアップ。昨年9月にはベガスの巨大球体建造物スフィアで行われたメガイベント、NOCHE UFCにてランキング3位のブライアン・オルテガと対戦した。
この大舞台で初回にカウンターの右フックからアッパーを当て、さらに強烈なパウンドで大ダメージを与えたロピスは、最終ラウンドでも接近戦で打ち勝ちダウンを奪って判定3-0で完勝、トップコンテンダーの座を獲得した。
そして今回、ついに王座決定戦への出場が決定。UFCデビューから僅か2年のスピード出世にして、UFCデビュー戦のロピスを倒し、その後も全勝を維持しているエフロエフを差し置いての抜擢となる。不公平と見る向きもあるが、常に全力でフィニッシュを狙う戦い方が、戦績以上に評価されたということだろう。
メキシコに移住を決めた際、両親や家族に「みんなにより良い暮らしをさせてあげられるようになるまで、僕は帰らないよ」と誓ったというロピス。実際その後ほとんどの時間をメキシコで過ごしているという。「お母さんに家を建ててあげることができたけど、さらに改築しより良い生活をさせてあげたいんだ」、「タイトル挑戦の話をもらったときは、最高に嬉しかった。冷静さを装ったけど頭の中では映画の一シーンみたいだった。これまで僕に起きた全て、僕が犠牲にしてきた全て、乗り越えてきた全てのことはこの瞬間のためだったんだよ」と語る。
今回の王座決定戦は、夢を追い一人異国の地メキシコで戦い続けてきた30歳の青年にとって、これまでの人生の全てを、支えてくれた家族や仲間達の想いを賭けた生涯最大の大一番となる。
対するヴォルカノフスキーは、2020年代前半に長期政権を築いた元絶対王者だ。2019年12月にマックス・ホロウェイに勝利してタイトルを奪取すると、4連続防衛に成功してPFP1位の座に輝いた。2023年2月には、一階級上にしてPFP2位のイスラム・マカチェフのライト級王座に挑戦するスーパーファイトを敢行。判定で惜敗したものの、回を重ねるごとに勢いを増し、試合終盤は組みでも競り勝ち、一方的に攻め立てる底知れぬ強さを見せつけ、PFP1位の座を保持している。
その後ヤイール・ロドリゲスに完勝して5度目の防衛に成功したヴォルカノフスキーは、2023年10月には直前オファーを受けマカチェフとの再戦に。しかしここでマカチェフの左ハイをもらい、まさかの初回KO負けを喫してしまう。さらに4ヶ月後の2024年2月には、イリャ・トプリアの強打の前に2Rマットに沈み、2試合連続のKO負け。4年以上に渡って君臨してきた王座を明け渡した。
その後ヴォルカノフスキーは、キャリア初となる長期休養を取ることに。それまでの練習&試合を中心とした生活を、家族との時間を最優先し、その周辺に練習を組み込む形に変えて日々を過ごした。このはじめての時間は最高の充電期間となったようで、「自分が誰なのか、自分が王者でいられる理由がより理解できたよ」と元絶対王者は語っている
休暇中、「自分は以前のように戦いに専心できるのか?」という疑問が頭をよぎったという元王者だが、一旦試合が決定するとスイッチを完全に戦闘モードに切り替えることに成功。今までより早めにキャンプを開始し、より長い期間禁酒し、チートデイも廃止。より万全な状態で試合への準備を進めているという。
なお、当初はトプリアへのリベンジを目指していたが、相手がロピスに変わっても試合へのモチベーションは高いままだ。「私はただ復活するだけでなく、ニュースクール(新世代)を倒せることを証明したい。その点、ジエゴはイリャ同様に若くてハングリーなニュースクール・ファイター。私の復活ストーリーとしては上々だ。この試合に勝った後、皆は以前同様にアクティブに戦い続ける王者の姿を見ることになるだろうね」と以前と変わらぬ自信をのぞかせる。
一時期はMMA全階級の世界の頂点に君臨。全てを成し遂げてなお戦いへの強い意志を見せる36歳の鉄人は、この王座決定戦にて台頭する新世代を制圧し、その健在ぶりを世界に見せつける算段だ。
そんな新旧対決となる王座決定戦の勝敗の最大の鍵の一つは、スタンドにおける両者の間の距離だろう。
ロピスの最大の武器の一つは、接近戦における凄まじい拳の回転力と破壊力だ。特に相手がパンチで前に出た瞬間、頭を下げてかわしざまに左右の拳を振り回し、さらに相手の首を捕まえてアッパーやヒザを交えて暴風雨のごとき連打を浴びせる。この見たところ滅法強引な──オールドファンならヴァンダレイ・シウバを想起するような──戦法の殺傷能力は特に初回は凄まじく、実際ロピスはこのやり方でパット・サバチーニやソディーク・ユスフを秒殺し、またブライアン・オルテガを1RKO寸前に追い込んでいる。
しかし、MMA界最高峰のテクニカル・ストライカーであるヴォルカノフスキーは、このロピスの戦い方を攻略するのに最適な打撃スタイルの持ち主だ。天性の距離感覚と170センチの身長からは規格外の182センチというリーチを持つ元王者は、スイッチを多用して無数のフェイントを繰り出しながら、常に優位なアングルを作って速さと破壊力を兼ね備えた拳を当ててゆく。
常に相手を研究し尽くし、陣営で綿密なゲームプランを組み立てて臨むヴォルカノフスキーが、初回に不用意なダブルジャブで近づいてロピスのカウンターをもらってしまったオルテガと同じようなミスを犯すとは考えにくい。巧みに距離を保ちつつ、多彩な打撃でロピスを翻弄するつもりだろう。
当然ロピスも遠い間合いの攻防ができないわけではない。遠い距離からの強烈な右カーフや、大きく踏み込んで放つ右オーバーハンドを持つ。が、ジャブの伸びやキレ、フェイントや作るアングルの精妙さではヴォルカノフスキーに遅れを取ると思われる。ロピスとしては、遠い間合いの攻防で上回るのではなく、何らかの形で強引にヴォルカノフスキーとの距離を詰めたいところだろう。
「頂点に君臨していたアレクサンダーのことは、何年も前から研究していたよ」「どの状況でも戦えるけど、今回はKOする自分の姿が想像できる」と語るロピスだけに、秘策を用意していると思われる。果たしてそれはいかなる形なのか。
前の2試合ともに頭部への打撃でKOされているヴォルカノフスキー。いくら試合を優位に展開していても、一度でもロピスに距離を詰められ強烈な一撃をもらってしまったら、形勢は180度変わりかねない。元王者はテイクダウン防御もサブミッション防御も無類の強さを誇るが、ロピスの強烈な一撃をもらった後では、話はまったく別となる。
単身渡ったメキシコにて様々な辛苦を耐え忍び、身に付けた怒涛の攻撃力で階段を駆け上がってきた新鋭ロピスが、その勢いのまま元絶対王者を呑み込こんでしまうのか。それとも一時代を築いたレジェンド・ヴォルカノフスキーが、2連続KO負けを乗り越えて、その鋼鉄の如き心身の強さを改めて世界に証明するのか。両者の一瞬の交錯が全てを変えてしまいかねない、緊張感溢れる戦いとなるだろう。
■視聴方法(予定)
4月13日(日・日本時間)
午前7時~UFC FIGHT PASS
午前11時~PPV
午前6時 30分~U-NEXT
■UFC314対戦カード
<UFC世界フェザー級王座決定戦/5分5R>
アレックス・ヴォルカノフスキー(豪州)
ジエゴ・ロピス(ブラジル)
<ライト級/5分3R>
マイケル・チャンドラー(米国)
パディ・ピンブレット(英国)
<フェザー級/5分3R>
ブライス・ミッチェル(米国)
ジアン・シウバ(ブラジル)
<フェザー級/5分3R>
ヤイール・ロドリゲス(メキシコ)
パトリシオ・フレイレ(ブラジル)
<ライトヘビー級/5分3R>
ニキータ・クリロフ(ウクライナ)
ドミニク・レイエス(米国)
<フェザー級/5分3R>
ダン・イゲ(米国)
ショーン・ウッドソン(米国)
<女子ストロー級/5分3R>
ヴィルナ・ジャンジローバ(ブラジル)
ヤン・シャオナン(中国)
<ライト級/5分3R>
チェイス・フーパー(米国)
ジム・ミラー(米国)
<フェザー級/5分3R>
ダレン・エルキンス(米国)
ジュリアン・エロサ(米国)
<ミドル級/5分3R>
セドリクス・デュマ(米国)
ミハウ・オレキシェイジュク(ポーランド)
<フライ級/5分3R>
スムダーチー(中国)
ミッチ・ラポーゾ(米国)
<ミドル級/5分3R>
トレシャン・ゴア(米国)
マルコ・トゥーリオ(ブラジル)
<女子バンタム級/5分3R>
ノハ・コホノール(フランス)
ヘイリー・コーワン(米国)