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【Gladiator028】蹴り、突き、寝技——吉田開威が語る右回転ヒジKOへの道「技は打ち込みと度胸」

6日(日)、大阪府豊中市の176boxで開催されたGladiator028で、吉田開威が上田祐起を右スピニングバックエルボーでKOした。
Text by Shojiro Kameike

1Rから組みの展開で押されながらも、凌ぎ続けた吉田が2R残り6秒で逆転勝利。6月の中国WKG&M-1、ウー・シャオロン戦に続くKO勝ちの裏にあった自身の成長と課題とは――。試合翌日、吉田が道場主を務める空手道剛柔流朋武館高岳支部を訪ねた。


MMAでも思いっきり軸足を廻すことができるようになっています

――昨日は見事なKO勝ち、おめでとうございます。全試合終了後、上田選手のために救急車が呼ばれていました。試合終了後からしばらく経ってからダメージが表面化したようですが……。

「はい、それは聞きました。でもフィニッシュのスピニングバックエルボーではなく、足先蹴り(そくせんげり)がボディに入った時のダメージだったようですね。自分でも『温かい生肉を神経の通っているナイフで貫き通した』というような感触がありました」

――凄い表現ですが、感触のイメージは伝わってきます。ボディ、内臓のダメージであれば、時間が経って表れてくるのも理解できますね。

足先蹴りは1Rと2Rに一度ずつ確認できる。2Rの蹴りで感触があったという(C)SHOJIRO KAMEIKE

「ズボッと刺さってはいなかったけど、『これは効いたな』という感覚はありましたね。あれがズボッと刺さっていたら、その場で倒れていたと思います。外れていても、それだけ威力があることは分かったので、この蹴りを完成させていきたいです」

――6月は中国で一撃KO勝ちを収めています。あの時も左ハイをブロックされたものの、そのまま相手が倒れました。

「僕もあの左ハイで倒れるとは思っていませんでした。まず作戦として、距離を測るために出した左ハイだったんです。前日の公開計量で、相手がメチャクチャ度の強い眼鏡をかけているのを父が見て『これは遠いところは見えていない』と思ったそうなんです。

それを聞いて――試合前日から、ひたすら遠い間合いからの蹴りの打ち込みをやっていました。ただ、さっきも言ったとおり最初の左ハイで倒れるとは思っていなかったです。相手はブロックしていたし『蹴りを受けられてしまった』という感触で。と思っていたら、そのまま後ろに倒れていったので、『えっ!?』と思いました。

今まで空手で、面を付けている相手をKOする感覚は持っていたんです。面があるからメチャクチャ深く、ガッツリ当てて、ようやく倒れるという感覚で。でも面を付けていない相手を倒すことができた――自分の蹴りが思ったよりも威力があるんだな、って初めて知りました」

――シャオロン戦前のインタビューでは、「空手ではKOできているけど、MMAでは判定続きだから倒したい」と言っていました。これまでMMAの試合で出していた蹴りと、シャオロン戦の左ハイでは何か違いがあったのでしょうか。

「あの左ハイは、軸足を廻す空手の蹴りなんですよ。遠い間合いから軸足を180度廻して、ヒザをグイッと前に出して、真正面に蹴っていくいような感じです。

上田戦では左ミドル、右ハイと軸足を廻して打ち込んだ(C)SHOJIRO KAMEIKE

以前はMMAで蹴りを出すと掴まれそうだと思って、アマチュアの頃から全く蹴りを出せませんでした。寝技を全くやっていなかったので『蹴りを掴まれて倒されたら終わりだ』と。寝技の練習をすることで、その気持ちはどんどん減ってきて、MMAでも思いっきり軸足を廻すことができるようになっています。腰を入れて軸足を廻すことによって軸が残っているから、すぐ体勢を戻すことができて組みにも対応できるように練習しています。そこは進化した部分ですね」

――ということは昨日の試合でも、組まれた時に凌げる自信はあったのですね。

まだまだグラウンドに課題は残るが、徐々に成長は見せている(C)SHOJIRO KAMEIKE

「自信はありました。たとえば1Rにバックを奪われた時も、まずは落ち着いてワンハンドを外すことができました。練習では元谷(友貴)さんのワンハンドを受けているんですよ」

――元谷選手が太田忍戦で極めたようなワンハンドのRNCを……。

「そうです。元谷さんや寒天(たけし)さんのワンハンドは本当に強くて。それを受けていたおかげで、バックを奪われて四の字フックの体勢は辛いけど『両手で取られなければ耐えられる』と思いました。だから落ち着いて片手を外していったんです」

――上田選手の四の字フックに対しては?

「1Rは割とフックが硬かったです。でもカーフが効いて、2Rは動きが落ちていましたよね。試合中はずっと我慢していたのかもしれないけど、試合後に話をしたら『カーフがメチャクチャ痛かった』と言っていました。自分も2Rにトップを取り返した時は結構、無理やりな形ではあって。だけど『カーフが効いているから四の字フックはズレる。これは無理やりでも脱出できる』と感じていたんですよ」

――1Rにスタンドでオタツロックを組まれた時も、吉田選手は落ち着いているように見えました。

この形に入る練習ではなく、逃れる方法を練習していたのか(C)SHOJIRO KAMEIKE

「実は寒天さんをはじめ巧い人に、練習であの形をやってもらったことがあるんです。平良達郎選手のようにガッチリと形に入れば、完全にヒザが壊れてしまうことは分かりました。本来、スタンドの状態でガッチリと入ってしまったら、座って解除しないといけないんですよね。でも完全な形にはなっていなかったので、スタンドで正対しました。NTT(Nagoya Top Team=寒天練習)で受けていたおかげです」

――練習でやられて分かることは多いと思います。吉田選手の場合、NTT後のSNSは「またやられた」「まだまだ弱すぎる」という内容しか投稿していません。

「もう本当にやられまくっていますよ。寝技の練習では、ひたすら技を掛けられ続けて、ひたすら負けています」

――しかし凌ぐ自信はついてきたことで、寝技で勝負しようとは思いませんか。

「それは考えていないですね。僕のゴールはスタンドだと決まっています。そのために寝技も凌げるようになってきました。グラップラーを相手に寝技で勝負しても意味がないですからね。相手が打撃主体の選手であれば、そこは考えますけど。

というのも、MMAにおいて寝技で実績を出している選手のレベルに僕が追いつくことはあっても、そのレベルを超えることはないんですよ。でも超えないと極めるまでにはいかない。組みでグチャグチャになった状態では、今は採点に影響を及ぼさないですし。だから最後も、回ってトップを取った時は絶対に立とうと思いました」

Ares王者ユヌソフの試合からインスピレーションを受けました

――なるほど。スタンドの打撃でいえば、今回はいつもよりストレート系のパンチを、踏み込んで打っていました。

「今回は前に出て、パンチを当てに行こうとしました。同じ大会に出ていた木村柊也選手とか、南友之輔選手もそうですけど……ああいう一撃KOをやってみたいんですよね」

――おぉっ、その2選手を意識しますか。

パンチも間合いも課題のひとつ(C)SHOJIRO KAMEIKE

「僕自身、今までは下がりながらパンチを合わせることが多かったんです。そのほうが得意なので。だけど、今までパンチでは倒し切れていない。自分のパンチに威力があったとしても、それを当てることができていない。だから今回は当てに行く、倒しに行くことをイメージして打ち込みをやっていました」

――ただ、そのパンチにカウンターを合わされる場面も多かったです。

「効いてはいなくても印象が悪いですよね。今までは完全に間合いを取り切ってかた動いていたのが、今回はだいぶ距離を近くしました。特に1Rは積極的にKOを狙いましたけど、ラウンドを取られてしまって。これは無理だと思い、2Rは間合いを取り切ってからスタートしたんです。1Rめは大きく振りすぎてしまったことが反省点でした。でも試してみたかったので。

たとえば相手がチャンピオンや海外の強豪だと、その試合で試しはできないじゃないですか。今回は試す場であり、今は積み上げる時期だと思っていました。とにかく今回は、フィニッシュに繋がる手の技を試したいと思っていて。最後のスピニングバックエルボーも練習していたんですよ」

――1Rと2Rは組みで取られた。これは「たられば」ですが、もしそのスピニングバックエルボーが当たらず最終ラウンドに持ち込まれた場合は、どのような展開になっていたでしょうか。

「その場合、最終ラウンドは完全に空手をやるつもりでした。用意してきた技は、たくさんあったんです。寝技にならないことを前提に、用意してきた技の中からどれを使うか。そのまま行っても負けるので、一撃で倒すことを考えていたと思います。

そこで変にワーッと前に出ていくと、また組まれるリスクがありますよね。とにかく間合い感覚だけでいえば負けることはない。倒しに行かず、ポイントゲームに徹すれば負けることはない。そこに徹しながらKOできる筋を探そうという感じでした」

――それは組みの展開で凌ぐことができる手応えを得たと同時に、中国で倒す感触を得たからこそできる戦いですよね。では、いくつも技を用意してきたなかで、最後にバックエルボーを選択した理由は?

「あれは選択したのではなく、自然に出ました。上田選手の左は、序盤はジャブを突いてくるけど、疲れて来るとフックが多くなるんです。今回はそのフックを振ってくるところに合わせる練習をしていました。

フランス支部を持つ朋武館。今年8月、現地修行の際にソラヌフとMMAの練習も行っていた(C)GOJUーRYU HO-BUKAN

今回の試合の前にフランスへ練習に行ったんですよ。そこでAresバンタム級王者のアブバカル・ユヌソフと練習して。彼がベルトを獲得した時の試合映像を視たら、フィニッシュが右スピニングバックエルボーだったんです。『これをやりたい!』とインスピレーションを受け、自分の形に落とし込んで、ひたすら打ち込みをしました。

練習では和田教良さんや寒天さんに、大きく振ってもらって、その中に入ってバックエルボーかバックスピンキックを打つ。いろんな相手、いろんなシチュエーションでやってもらっていて、自宅でもミットで打ち込みをやりました。僕の中で技というのは、どれだけ打ち込むか――それと、度胸なんですよ」

――打ち込みと度胸!

「まず技は無意識で出るまで打ち込みをやります。あとはそれを出す度胸ですね」

――そこまでプランが固まっていたのであれば、上田選手にバックを取られた時も「とにかく疲れてくれ」と……。

「アハハハ。それはないけど――スタンドバックを取られたのは、半分わざとです。あまり良くないけど、『立った状態であれば負けない』とは思っています。でも考えていたより上田選手のテイクダウン能力が高くて、倒されてしまいました。『まだまだ全然ダメだ』と思って、今日は朝から柔術の練習に行ってきたんですよ」

――えっ、試合の翌日に!?

試合翌日から練習~空手の指導。昇段審査が近いため指導にも熱が入る(C)SHOJIRO KAMEIKE

「はい。朝は柔術、昼はMMAの練習をして、夜の指導に来ました(笑)」

――もう次に向けて進んでいるわけですね。上田戦後にはマイクを渡され、タイトルマッチについて発言しました。

「どうなんでしょうね? チャンピオンの竹中大地選手はRIZIN出場を希望していて、すぐグラジの防衛戦をやろうという雰囲気ではないですよね」

――順番でいえば7月にテムーレンをKOした南選手のベルト挑戦もありますし。11月にはRIZIN名古屋大会が行われますが、たとえばRIZINに興味はないのですか。

「そういえば今日、カードが発表されていましたよね(※取材開始直前、RIZIN公式YouTubeチャンネルでRIZIN LANDMARK10の対戦カードが発表されていた)」

――はい。

「一緒に練習している人の試合は聞いていましたけど……自分はRIZINより、開催されるならRoad to UFCを目指したいですね。海外で戦うならフライ級まで体重を落とせるかどうかもテストしています」

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