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【Road to UFC2024 Ep06】準決勝でシェ・ビンと対戦、河名マスト「これまでの29年間を出せるか」

【写真】タフな展開に競り勝つ。そんな強さを見せて勝ち星を重ねている河名だ(C)TAKUMI NAKAMURA

23日(金・現地時間)にネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXでRoad to UFC2024 Ep05 & Ep06=Road to UFC Season03 Semi Finalsが開催され、Ep06の第5試合=フェザー級準決勝で河名マストがシェ・ビンと対戦する。
text by Takumi Nakamura

Gladiatorでの王座戴冠を経て、Road to UFC(RTU)出場のチャンスを得た河名。5月の一回戦=AFC王者ソン・ヨンジェとの対戦では、ヨンジェの打撃を浴びる場面があったものの、渾身のバックコントロールで判定勝利をもぎとった。準決勝ではイープークールーとの中国人対決を制したシェ・ビンとの対戦となり、「ケージの中でこれまで生きてきた29年間をどれだけ出せるか」と人生をかけた勝負になると語った。


──RTU準々決勝はソン・ヨンジェに判定勝利して初戦突破となりました。ヨンジェ戦を終えて、その後の練習や調整の状況はいかがでしたか。

「少しヨンジェ戦で怪我をしてしまったので1カ月半ほど休養して、そこからちょっとずつ上げてきた感じですね」

──RTUは短期間で試合が続く形ですが調整の難しさはないですか。

「そこは大丈夫ですね。デビュー1年目・2年目は一時期ほぼ毎月のように試合をしていた時期があったので、試合感覚が短くなって、練習できなくても焦りはなかったです」

──改めてヨンジェ戦を振り返っていただきたいのですが、ご自身で映像を見て、どんな感想を持ちましたか。

「自分自身、普段は1Rを濁して、2・3Rを確実に取って、判定で言うと29-28で、あわよくば30-27で決着つけられればいいかなという試合の進め方をするんですね。でも今回は1Rから飛ばしてみようという戦法だったので、そのせいかおかげか、1Rで見事にバテてました(苦笑)。それで2Rはどうしよう?となったところで、なかなかクリンチできずにボコボコ殴られる展開になって。

このパンチでKOされることはないとは思いつつ、こっちが攻撃をしているわけでもなかったので、暗いトンネルをずっと走っているような状況でした。ただ残り10秒で僕の縦ヒジがボコン!と入って、見るからにヨンジェがひよってくれたので、そこで視界が開けましたね。それもあって3Rは再び走り出すことができて、左のオーバーハンドがバチンと当たって、ここからはもう(勢いに)乗り続けるしかないと思いました」

──大事なトーナメントの1発目で、戦い方を変えるのは勇気も必要だと思うのですが、なぜ戦い方を変えようと思ったのですか。

「僕が直近で負けた試合がGladiatorのパン・ジェヒョク戦で、あの試合は1Rで自分が行ききれなくて微妙で、その後の2~3Rを少し流しちゃったというか。お互いフワフワっとした試合展開になって、自分が判定負けしたんですよ。あの試合が自分のなかではものすごく悔いが残っていて、もう二度と試合で後悔はしたくないっていうか。MMAは試合時間が15分と決められているわけじゃないですか。お前の人生は15分で決まるよって言われているのに、それで行かないのは……悔いが残りますよね」

──余力を残した自分が許せなかったですか。

「はい。そこでちゃんと出し切れる人間でありたいと思いました」

──そのなかでも一か八かのギャンブルではなくて、しっかり勝つ確率を上げたうえで1Rから飛ばしたわけですよね。

「過去のヨンジェの試合を見ていると、1Rで決着をつけていることが多くて、3Rまでいくとドロドロになって、ギリギリで勝っているんですよ。今までヨンジェがやってきたヤツらよりも僕の方がクリンチできる覚悟があると思ったので、自分を信じて1Rから飛ばしていこうと思いました」

──1Rはテイクダウン・バックコントロールで優勢に試合を進めてインターバルを迎えたわけですが、どういう状況でしたか。

「もう腕がパンパンで。本当にウェイトトレーニングだったら、その日のアームカールをオールアウトしましたぐらいの張り方でした(苦笑)。だからガードを上げる上げないとかそういう問題じゃなくて、それもあって2Rにケージ内をランニングしちゃうような場面が来たんです」

──見ている側からすると、このまま逆転されるんじゃないかという不安もありました。その展開を変えたのが縦ヒジですが、あれは練習している技だったのですか。

「絶対これで倒すっていうノリで鍛錬していた技じゃなくて、ちょっと遊びの動きの中でヒジを出したりしていたんですよ。そういう引き出しを一応用意しておきましたよみたいな感じで、それがギリギリのところで出てくれました」

──いい意味で遊びの技がピンチを救ってくれた、と。

「僕もMMAを始めて3年経ちましたけど、これまでずっと守破離で言うと、守るべき型をずっと作るという感じでやってきたんですね。その中で破=型を破ることも見つけながら試合ができているのかなって思います。それが今回で言えば左の縦ヒジですね」

――2R後のインターバルはかなり息を吹き返した状態ですか。

「はい。完全にヨンジェが萎えているのがわかったんで『よしよし!』と。もう一回捕まえれば『もうお前は終わりだろ?』ていう感じで捉えていましたね。セコンドの上久保(周哉)さんからももう一回捕まえろみたいな指示が出ていて、あと5分だから頑張れ、と」

──河名選手の表現でいくと「暗いトンネルから光を見つけた」状態になると、体力的にも動けるものですか。

「そうですね。僕はレスリング時代から、3分2Rの中で自分の形でポイントを取れたら『この試合は勝てる!』というところまで、相手が諦めるまで頑張るスタイルだったんですね。それはMMAでもスタイル的には続けていて。そういう意味では本当は組み続けて、2Rまで相手にヒザをつかせて、立たせない状況にできれば一番良かったんですけど、それができないなかでヒジで明らかに相手を萎えさせる状態を作ることができたので、あとは頑張ろうと。MMAとレスリング、競技は違いますけど、そこはブレずにできているかなと思います」

──試合が終わった瞬間、1回戦を突破した時のお気持ちはいかがでしたか。

「もう本当に早く時間が過ぎ去ってくれみたいな感じの3Rだったので、やっと開放されたという感じでしたね」

──怪我の影響もあったかとの思いますが、準決勝のシェ・ビン戦に向けてはどんな準備を続けてきましたか。

「シェ・ビンは完全にジャブとワンツーでアウト(ボクシング)する、僕が一番嫌なタイプの選手です。なのでそこをどう捕まえるか。捕まえたあとにどうコントロールするかというところをやってきました」

──シェ・ビンのファイトスタイルが明確な分、自分がやるべきことも明確になっていますか。

「そうですね。自分の得意な形は一緒ですが、そこのバリエーションを相手に合わせて…というイメージですね」

──そこは順調に完成してきていますか。

「得意な形というか、とにかくマン振りする系の戦い方はできるようになってきたかなと思います。これに関しては試合でしか出せないし、練習で思いっきり人をぶん殴ることはできないからこそ、ケージに入った時の覚悟が試されるんじゃないかなと思います」

──今年の2試合は接戦を競り勝つという展開が続いていますが、そこで勝ち切れていることで自分の成長を感じることはありますか。

「15分みっちりじゃないですけど、人生にビバレッジをかけるべき時間は明確に定められていて、そのために練習したり、というのはあります。ケージの中でこれまで生きてきた29年間をどれだけ出せるかという部分は、ちょっとずつカッコつけず、後悔しないようにはやれてるかなと思います」

──RTUを勝ち上がることで、本戦契約まであと2勝です。今はUFCで戦うことも意識はしていますか。

「そうですね。目の前のことを1つずつやりながら、今回は(中村)倫也もセコンドに来てくれるので、UFCを経験している選手とイメージを共有しながら、UFCで戦うこともイメージしてやろうと思います。今回は会場もUFC APEXなので、そういう意味でもいいイメージを作って臨めるかなと思います」

──APEXでの試合を経験している中村選手がセコンドについてくれるのは心強いですね。

「はい。前回はRTUを経験している上久保さんがついてくれて、今回は倫也がついてくれて。現地に入って試合までのスケジュールをある程度把握してくれているセコンドがいると、自分も動きやすいというのはありますね」

──RTUは河名選手の格闘技人生のターニングポイントになるものだと思いますが、そこにかける想いも強くなっていますか。

「結局、最後はケージに入ったら全部剥がされちゃうと思うので。そこまでに何をやってきたかはケージの中で全て明らかになるので、試合まで残り1週間ぐらいしかないですけど、やり残しがないようにやりたいですね。この1週間でまだまだ強くなれると思っているので」

──なるほど。もっと言うなら、試合直前まで勝つ確率を上げることはできますからね。

「そう思います。レスリング時代はある程度のところまで競技水準を持って行っていたので、試合までに強くなることはないから弱くならないように調整しようと思ってやっていたんです。でもMMAにおいては1週間あれば強くなれると思っているので、そこは信じてやっていきたいなと思います」

──今年UFCでは平良達郎選手がランキング入りして、朝倉海選手の参戦も発表されました。昨年と比べるとUFCそのものの注目度が上がっていると思いますが。そこをどう捉えていますか。

「特に朝倉選手がUFCに参戦して、日本人のファンをUFCに連れてくるということは、もの凄く価値のあることだと思っているんで、自分は乗れるものには乗っかります。そのためには勝たなきゃいけないんで、自分のやるべきことをやって、その流れに乗っていければなと思います」

──ちなみに河名選手はパリ五輪のレスリングは見ていましたか。

「見てました。女子に関しては全員金メダルを獲る可能性があるぐらい強いと言われて注目されていたのですが、そこで男子がめちゃくちゃ金メダルを獲って、金を獲れなかった選手も銀メダルを獲っていたじゃないですか。その姿を見ていて、僕はそれが羨ましいと嫉妬できるほどレスリングに取り組んでなかったなと思いました(苦笑)」

──レスリング時代の河名選手はそこまで競技に打ち込めていなかったのですか。

「どうしても同じ環境と同じメンバーで、同じ練習をずっとやっていると、自分ではそう思っていなくても、マンネリ化みたいになっちゃうんです。逆にMMAは本当にやることが多すぎて、毎日この日はこの練習をやってみようとか、練習終わってこれができなかったから明日はこれをやろうとか、自分の中で課題を持って練習のサイクルを回せるようにはなってきた感じはあります」

──レスリングは競技の形がある程度は決まっているので、その枠を超えることが難しいですか。

「それもありますし、特にグレコローマンはフリースタイルと違って、上半身しか攻めちゃダメなんで、本当に技術の幅が制限されるんですよ。制限されているからこそ、その中でどう工夫できるかというところがあって、今思うともっとそこで突き詰められる部分はあったんじゃないかなと思います。(レスリングから)離れて分かったことですけど。もちろんMMAは技術の終わりが見えないので、それはそれで大変ではあるんですけどね」。

──でもだからこそまた気持ちを新たにMMAに取り組めていますか。

「そうですね。技術も完璧に達しているものが1つもなくて、その意味ではずっと斜め上に右肩上がりに上がっていくわけじゃないですが、落ちたり上がったり、落ちたり上がったりという波を繰り返している中で、技術習得があるのかなと思います」。

──試合まで一週間、最後の最後まで強くなって、ケージの中で15分間自分をさらけ出して勝利を掴んできてください。

「それがダサくなるかカッコよくなるかはその時の自分次第だと思いますが、そこを信じて戦って勝ってきたいと思います」

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