【Special】J-MMA2023─2024、住村竜市朗「娘から――調子エエやん。もうちょっと続けたら、って」
【写真】何だかんだで仲が良い竜市朗&斉明里の親子(C)MMAPLANET
2023年が終わり、新たな1年が始まるなかMMAPLANETでは2023年に気になった選手をピックアップ──過ぎ去った1年を振り返り、始まったばかりの1年について話してもらった。
Text by Shojiro Kameike
J-MMA2023-2024、第九弾は住村竜市朗に話を訊いた。2023年は2月の試合を最後に戦いの場をDEEPからパンクラスへと移し、クリスマスイブには林源平を下してベルトを腰に巻いている。年末年始に地元の淡路島へ帰省し、年明けにはキングジム神戸で練習を開始した住村を尋ねると、そこにはアマチュアファイターの娘・斉明里の姿もあった。日本MMA界随一のスベリ芸を見せる王者が、娘と2024年について語る。
■2023年住村竜市朗戦績
2月11日 DEEP112
○2-1 嶋田伊吹(日本)
7月9日 Pancrase336
○3-0 草MAX(日本)
9月24日 Pancrase337
○2R4分59秒 by TKO 藤田大(日本)
12月24日 Pancrase340
○5R2分09秒 by TKO 林源平(日本)
――年末年始は淡路島に帰省し、明石大橋を渡って神戸まで練習に来ているのですか。
「はい。車で40分ぐらいだから近いですよ」
――それは東京に練習拠点を移して以降、毎年同じスケジュールなのでしょうか。
「もともと東京に出る前からキングジムでお世話になっていて、DEEPのベルトを獲った時は週3~4ぐらいでマサさん(小西優樹キングジム神戸代表)と一緒に練習させてもらっていました。今は年末年始ぐらいですね。あと娘の所属もキングジムにお願いしていて」
――住村斉明里選手は淡路島から神戸のキングジムに通っているのですね。
「そうですね。本当はバスと電車で通う約束やったけど、車で送り迎えしないと練習に行かないようになり――それで中学3年間という、一番伸び盛りの時期を棒に振りました(苦笑)。高校に入ってから柔道を始め、キングジムでも練習しているという状態です」
――斉明里選手が初めてアマチュアMMAの試合に出たのは何歳の時ですか。
「小1から練習を始めて、MMAの試合に出たのは中2ぐらいからじゃないですかね」
――当初は本名で試合に出ていましたが、昨年11月のDEEP大阪大会では「セアリ」というリングネームで試合をしています。
「僕の娘だと思われたくなかったらしいですよ。(斉明里選手に向かって)なんでなん? 普通やったら住村斉明里で試合に出るやろ」
斉明里 (小西代表に)本名は嫌ですよね?
小西 いや、本名でエエと思うけど(笑)。
――アハハハ。住村選手から見て、斉明里選手の実力はいかがですか。
「まだまだ全然、っていうレベルですよ。打撃もできないし、レスリングもできない。寝技もフィジカルも弱くて」
――斉明里選手の試合を見る時の目は、父親のものなのか。あるいは一人のファイターとして見ているのでしょうか。
「最初の頃は父親として緊張していました。でも11月は僕もブチギレましたね。トップを奪うたびに同じ返され方をされていたので。マサさんも僕も怒っていました。だから今は自分もファイターとして、いちファイターとしての娘を見ているんだと思います」
――なるほど。一方で住村選手ご自身の2023年は、どのような1年だったでしょうか。
「良い1年だったと思います。2022年が悪かったですからね。もう引退かな――と考えていましたが、そこからまた頑張って良かったです」
――2023年は7月からパンクラスに参戦し、3戦目でベルトを巻きました。
「3戦目でタイトルマッチ、というのは想定内でした。何なら2戦目でタイトルマッチをやりたかったです。それでも3試合やらせていただいて、結果的に良かったと思います。藤田戦の内容から見えて来るものもありましたしね」
――藤田戦で見えてきたものとは?
「組みの部分ですね。組みで勝負していけると思いました」
――では改めて、パンクラスのベルトを獲得した感想をお願いします。
「試合内容は完封だったと思います。相手の得意な部分——強打を封じ込めて戦うことができました。ベルトを巻くことができたのは、率直に嬉しいです。嬉しいけど、また次の挑戦を見据えていきたいですね」
――試合内容でいえば、住村選手はずっと「塩漬け上等」を掲げていました。しかし藤田戦から2試合連続でフィニッシュしています。まず藤田戦でパウンドアウトした時、トップキープしたまま試合を終えようとは思わなかったのですか。
「それは思わなかったです。藤田戦はたまたまグラウンドでヒジが効いて、藤田選手が一回落ちたんですよ。それでイケるんじゃないかと思って、パウンドをまとめました。あの試合でグラウンドのヒジの感触を得たのが、タイトルマッチでも生きましたね」
――もし塩漬けを優先するなら、ヒジ打ちもリスクではないですか。
「リスクではないです。言えば、掛け逃げみたいなものですから」
――というと?
「ヒジを打って逃げて、打って逃げて――だからリスクはないですよね。打つ時に胸を張っているわけでもなく、上体も起こしきってはいないので。そこで相手の気持ちが折れたのが分かり、ヒジとパウンドをまとめていきました」
――「塩漬け上等」と言いながらも、実は塩漬け上等ではなかったのでしょうか。
「安全パイ、ですね。リスクを抑えて、安全パイで試合をするということです。でも最近は塩漬けを期待する方が増えたので、その期待を裏切ってやろうと思いました(笑)。天邪鬼ですね。塩漬けも天邪鬼みたいな感じじゃないですか。みんなが打ち合いとかを期待するなかで、『俺はそういう試合はしないよ』って」
――ただ、2試合連続フィニッシュしているので、次の試合も期待されるかと思います。
「だから塩漬けに戻ります!」
――えぇっ!?
「結局、僕のやっていることは自己満足ですよ。試合を観に来てくれたお客さんに、夢や感動を与えたいとか思っていません。ただ自分を応援してくれている方たちが喜んでくれたら良くて。そういう選手が勝ってベルトを巻く――他の選手はムカつくかもしれないけど、どんどんムカついてほしい。僕は悪いヤツやから、むしろウェルカムですよ(笑)」
――そんな悪いお父さんの試合を観て、斉明里選手はどのように仰っているのでしょうか。
「娘は『早く引退してほしい』と言っています。もう怪我してほしくないっていう気持ちが強いんやと思いますよ。僕が倒れるところも見ていて――自分が格闘技を経験したからこそ分かるものもあるでしょうし。そういう娘の気持ちが、僕の塩漬けの試合にも繋がっているのかもしれないです」
――……。
「でも最近は『調子エエやん。もうちょっと続けたら』と言うんです」
――それはファイターとしても、父親としても嬉しい言葉ですね。
「僕は緊張しぃやから、試合前は娘とLINEでやり取りするんですよ。僕が『緊張してきた』 と送ったら、娘が『やることやってきたんやから、あとは体が勝手に動くやろ。今さら緊張しても仕方ないやん』と返してきました。その娘のメッセージに対して、僕は『押忍!』と。女の子のほうが肝っ玉は据わっていますね」
――メチャクチャ仲が良いじゃないですか。
「なのに本名は名乗らないんですよね(苦笑)」
――アハハハ。
「たぶん『住村竜市朗の娘』って書かれたくないんやと思いますよ。親の七光りで試合に出たくない。自分の力で出たい、と。でも僕からすれば、父親の名前だろうと何だろうと使えるもんは使えば良い。それで自分自身が有名になれば、僕の名前なんて消えていきますから」
――斉明里選手のために東京から淡路島に戻ってくることは考えなかったのですか。
「それは思わなかったです。自分には自分の夢があり、まだ青春していますから。一度東京へ行ったからには、すぐに淡路島に帰ろうとは考えていません。娘は娘で頑張る。自分は自分で、東京で頑張る。その気持ちは娘も理解してくれています」
――ではベルトを巻いて迎えた2024年は、どのようなキャリアを過ごしたいですか。
「地元で試合したいなっていう気持ちもありますけど……一番の心配は、僕ってチャンピオンになったら弱くなるんですよ。だから今後もチャレンジャーの気持ちで、どんどんチャレンジしていきたいと思っています」
――新しいチャレンジ、ですか。
「まだ具体的な試合の予定は決まっていませんが、MMA史上初のことを考えています。自分のMMAキャリアも、もうそんなに長くはない。でも2023年の試合で、いろんなものが繋がってきて、今の自分が一番強いです。ただ、チャンピオンになってしまうと自分の中に油断が生まれてしまう。そうならないよう、2024年もチャレンジャーの気持ちで戦います」