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【UFC ESPN52】1年5カ月ぶりのファイト、ミーシャ・テイト「ジムでの練習時間は、私だけの時間」

【写真】「もう日本で戦ったのは、ずっと昔のことだけど――皆が私のことを覚えてくれていて、土曜日の試合でもサポートしてくれると嬉しい」とインタビューの最後にミーシャは話していた。当然、我々がミーシャのことを忘れるわけがない (C)MMAPLANET

2日(土・現地時間)にテキサス州オースチンのムーディー・センターで開催されるUFC on ESPN52「Dariush vs Tsarukyan」でミーシャ・テイトが、ジュリア・アヴィラと戦う。

2021年に5年のブランクを経て、引退&出産から世界最高峰に戻ってきたミーシャ。以来、急激に進化した女子MMAというバトルフィールドで以前のようなパフォーマンスを見せることはできていない。フライ級転向は失敗に終わり、約1年5カ月ぶりのファイトでバンタム級に戻った。37歳、二児の母となったミーシャが今も戦い続ける理由とは?


――2022年7月のローレン・マーフィー戦以来、1年5カ月ぶりのファイトが今週末に控えています。6月にはマイラ・ブエノ・バストスと対戦予定でしたが、負傷欠場しています。

「マイラと戦わないことを決めたのは、負傷を治すだけでなく体を癒す必要があると感じたからなの。ケガをした状態で、フライ級に階級を落としたことが凄く体にダメージを与えてしまったから。手術も考えたし、するつもりだった。でも、結果的に手術を回避して自然治癒ができたから凄く良かったわ。またヘルシーな状態でまた戦うことができるようになったしね」

――年を重ねると人は変化します。肉体的、そして精神的にも。女子MMAファイターとして37歳という年齢をどのように捉えていますか。

「年齢は自分の考え方を確立する、一つの要素よ。私が今も同世代の人々と比べると抜群のフィジカルコンディションを保てているのは当然だけど、私たちマーシャルアーティストが年をとっても、その知識量や技能とは一切関係ない。だって女子選手だけでなく、男子選手も含め、若くて練習では凄く強くても勝利という結果を出せないことはいくらだって見られるわけで。

このMMAファイターとしての能力は何年も経験を積み重ねて、初めて手にできるもので。トラックを走る、芝生の上でボールを蹴ったり、投げたりするようなスピードと体力を競い合う類のスポーツと違い、マーシャルアーツは本当の意味でファイトIQというものが求められるの。いかにスマートに戦うことができるのか。駆け引きが幾重にも折り重なっている。それがMMAだから。

同時に年齢を重ねると若い頃には全く気にしていなかった、ボディをケアすることを心がけるようになるわけで。若かった頃には必要ないと思っていた体のリカバリーに力を入れることになった。ある意味、一番大切な部分がそこになっているから。私もそうだったけど、若いファイターは気にしない部分よね。だからこそ、単にランニングという部分においても私は若い頃よりも走れるようになっている。

年を重ねた選手が、戦い続けることができているのは体のケアに最も気を使っているからで。そういう選手が他にもいて、活躍しているのは素晴らしいことだわ。それって年を重ねて得ることができるモノで、他では手にしようがない部分だから」

――それは瞬発力や俊敏性にも当てはまることなのでしょうか。

「私自身、ジムで体を動かしていてその部分が衰えたと感じることはないわ。もちろん、凄く良くなっていることもないけどね。その点においては今、UFC PIがあって凄く助かっているわ。PIで最新の知識を得ることができ、私自身も栄養や体のことを勉強するようになったから、科学的な部分で最先端を行く人と私の間にはそれほどのギャップはない状況だし。

だから……前の試合をミーシャ・テイトだとは思ってほしくない。そうね、フライ級に落とすという判断は間違っていた。5年振りに復帰した試合は勝って、次の試合は接戦を落とした。あの時、私は自分がいるべきところに戻ったと感じていたし、バンタム級こそが私の階級だと今ならいえるわ。フライ級に落とすことで、経験してきたことを試合で生かすことができないくらい体に悪影響があった。爆発力もないし、全ては体重を落とし過ぎたことが原因になっていたから。バンタム級は、そうじゃない。今も私に競争力があることを土曜日に証明したい」

――それだけ日々の努力を続けるられるだけ、MMAを戦うモチベーションを持ち続けられているとこと自体が凄いと思います。

「そうね……一度引退し戻ってきたのは、まだMMAから離れることなんてできないと感じたから。戦うことに疲れたこともあったけど、一旦離れるともっとMMAと関係していたいと心から思うようになって。ここでトライしないと、絶対に人生最大の後悔になるってね。それに前回のフライ級での試合は、以前のような納得できるミーシャ・テイトの戦いではなかったし、ロールモデルになる試合でもなかったことは明白で。

確かに引退は近づいているんだけど、でも私は今も戦いに向かうプロセスをエンジョイできている。だから、MMAを続けることができるんだと思うわ」

――では今のミーシャにとって、現役ファイターとしてのゴールはどこにあるのですか。

「私が今でも戦えることを証明すること。そして、人々に良い影響を与えること。なにより、諦めないで戦うこと。そこを貫き通したい。もちろん、身を引く時のことを考えないといけないのは事実よ。でも、その時が来るまで簡単に諦めるようなことはしたくないの。あがき続けたいと思っている。現役を引退し、戦うことが人生の軸で無くなる時は絶対にやってくる。それが分かっているから、簡単にギブアップなんてしたくない。好きだからって、MMAは続けられるものじゃないのも分かっている。正しいタイミングで引退をしないといけないことも。でも、まだその時じゃない」

――ロンダ・ラウジーやミーシャがいて、女子MMAは今の社会的地位を手にできた。ミーシャは今の女子MMAの隆盛をもたらした功労者ですが、既に多くのことを達成してきたにも関わらず今も、それだけの想いでMMAに向き合っているのですね。

「う~ん……私は女子MMAが男子のMMAと肩を並べたなんて思っていないわ」

――えっ……。

「今だって人々は女子MMAを下に見ている。10試合――男子だけの試合カードが並んでいて、5試合はまぁまぁの試合で残りの5試合は良い試合だった。普通のことだし、なぜ良い試合でなかったということを問われることもない。でも女子だけの試合が10試合あって、5試合は良いファイトで5試合が良くなかったとすると、なぜ5試合は良くないかという話になる。で、結論は『女子だから』と言われる。それが現実よ」

――……。

「男の人は良くない試合をしても、『良くなかった』で済むの。でも、私たちの場合は『オンナだから』って言われてしまうのよ、今でも。それでも私がUFCで女子の試合が組まれない頃にファイターとして成長して、女子MMAを広めることに役立ち、UFCが女子の試合を組むために役立てことは、本当に嬉しい限りよ。もちろん、そこにロンダの存在があり、私と彼女のライバル・ストーリーが人々の目を開き、耳を傾けさせることに成功した。女子MMAは以前よりも、注目されるようになったけど――私たちは今でも、女子だからっていう声なんて起きなくなるために戦っているの」

――ファイトウィークにも関わらず、深い話をありがとうございます。

「私は本当に本当に……心の底からファイトウィークを迎えることができて、今を楽しめているわ。過去最高のファイトキャンプを送ることができたし。今、色々なことが自分の人生のなかで調和していて。今の私は以前のようにファイターであるだけでなく、様々な責任がある人間で。だからこそ試合があり、ジムにいる時間の素晴らしさが理解できるようになったの。家で子供たちの世話に追われると、本当にどうにかなりそうになって(笑)」

――アハハハ。それは自分も少しは分かります。

「もちろん、あの子たちのことは絶対的に心の底から愛しているわ」

――もちろんです。それでも、「勘弁してぇ」と叫びたくなるのがお母さんの大変さです。

「子供たちがいてこそ、最高の人生よ。それは絶対で。同時にジムで練習していると、その時間は私だけに向けられた時間になる。ジムでの練習時間は、私だけの時間――」

――ハイ。

「その時間が、どれだけ貴重なのか。子供たちを生むまで、分かっていなかったわ。厳しいトレーニングが、人生で最悪のことだと感じたこともあった。でも、今はどれだけ練習で疲れても、それは自分のためだけの時間で――やらないといけないから練習をしているわけでなくて、自分がやりたいことをやっていると実感できる。こんなに素晴らしいことはないでしょう?」

――そのように考えられることが素晴らしいです。

「ホント、考え方が変わったから凄くハードなキャンプを楽しみ抜くことができたわ」

――そのキャンプを経て、土曜日の夜はどのような戦いを披露したいですか。

「ジュリアはつねに戦う姿勢を持っている。前に出て、戦う。パンチを貰っても下がることも、心が折れることもない。逆に勢いが上がるような真のファイターよ。絶対にフィニッシュしようとしているし、そういう対戦相手と戦うのは私も大好きで。2人ともギリギリまで攻める、そんな最高の試合になるはず。

勝負の行方がどうなるかなんて分からない。でも、言葉はなんていらない。オクタゴンのなかの姿で、私が絶対に諦めない気持ちでいることが皆に伝わる試合がしたい。人生が変化の時を迎えるのは、素晴らしいことよ。でも、諦めるのとは違う。私の人生もすぐに変化の時を迎えるわ。でも、まだやり切っていない。前回の試合を見て、人々はミーシャももう終わりだと思ったはず。でもね、私はどう思われようが構わないわ。一つの敗北で、私がやってきたことを否定される必要はない。そして、私がこれからやり抜こうとしていることに、なんの影響も及ぼさないから。

戦績、勝敗に左右されることは、もう私のファイトキャリアに必要ないの。必要なのは、このキャンプでやってきたことを試合で出し切ること。本音をいえば、これだけ練習をしてきたのだから何よりも勝利を手にしたいと思っているわ。

でもね、ファイターが2人で戦うのだから勝者が1人なのは絶対で。もし勝者になれなくても、日曜日の朝に私はいつものように目を覚まし――隣には娘、息子、フィアンセ、母、父がいてくれる。最高の人生が私にはある。最高に幸せなことに何も変わりはなく、そこに勝敗は関係していない。だから、何があっても私は勝者。全力で目の前にあること全てに向き合ってきたわ。何があっても、変わりない。でもね、心の底から勝ちたいと思っている」

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