この星の格闘技を追いかける

【RIZIN44】福田龍彌が振り返る山本アーセン戦─01─「1Rが終わり『全部分かった。2Rから行くわ』と」

【写真】かなり時間が立ってしまいましたが、この試合は──思い切り語り尽くしてもらう価値がある戦いだと捉えています(C)RIZIN FF

9月24日(日)、さいたまスーパーアリーナにて開催されたRIZIN44で、福田龍彌が山本アーセンを3R TKOで下した。
Text by Shojiro Kameike

福田が右ジャブを中心とした打撃でアーセンの顔面を腫れ上がらせ、ドクターストップに至ったこの試合には、1Rから福田の巧みな戦術が詰まっていた。いかにして福田は序盤から仕掛けていた伏線を回収していったのか。福田自身が試合の詳細を語る。


――今回は山本アーセン戦について、技術的なポイントを解説していただければと思います。まずは開始早々の打撃の交換はいかがでしたか。

(C)RIZIN FF

「序盤でアーセン君のリアクションや、相手との距離は見えたかなと思います。

ただ、左のカーフキックは効きましたね。このカーフキックは予想外で、メッチャ効いて右足の感覚がなくなりました。嫌な箇所に蹴りが入ってもうて、『これはヤバいなぁ』と思っているところに、2発目をもらうんですよ。でもこの時にカーフのフォームは見えたから、もう大丈夫だとは思っていましたけどね」

――とはいえ、以降は右足の感覚がない状態で戦っていたのですね。

「はい。でも普段から走り込んで、足ガクガクの状態からミット打ちをやったりしていますからね。だからバランスは体が覚えているというか、感覚がなくても動けるんですよ。
僕としては、ここから奥手を触って距離を掴み始めました。

奥手を掴んだあとに左手のフェイントを出したら相手がどう動くか。それを確認しています。まず1Rはアーセン君のリアクション、武器、タイミング、フォームを観察していました。観察している間に、何が一番有効なのかを考えているわけです。ジャブの距離も掴めていて。ただ、一番警戒していたのは組みやから、テイクダウンがどんなものなのか――実はアーセン君からテイクダウンに来させようとしていました」

――えっ!? テイクダウンが得意なアーセン選手に、あえて組ませようとしていたのですか。

(C)RIZIN FF

「最初は一回、組みに来させたかったです。

絶対にテイクダウンは切れると思っていたので。実際、ここで組みに来てくれたから『この選手にテイクダウンされることはない』って分かったんですよ。『何回組みに来ても、こかされへん』と分かって、ここから思いっきり打撃で行こうと距離を詰めていきました」

――まずテイクダウンされないと分かって、次に警戒するものは何だったのでしょうか。

「警戒していたのはカーフですね。じゃあどうするかっていうと、パンチか組みの距離にするんです。カーフを出してきたところに打撃を合わせたいから、アーセン君にカーフを蹴らせたい。カーフを待ちながら試合をつくっていました」

――テイクダウンについて測るのと同様、相手にカーフを蹴らせて……。

(C)RIZIN FF

「カーフに何のカウンターを合わせることができるのかを見たかったんです。

そうしているとアーセン君がカーフを蹴ってきたので、軌道が分かりました。カーフだけじゃなく、全体的な動きも分かりだしたので、僕の左のタイミングも合い始めます。まだ距離がズレてしまっているけど、ドンピシャやったら危ないパンチもありましたね。

でも、まだ倒すつもりのパンチを打とうとは思っていないです。ポイントは取られないようにして、相手の攻撃を誘っている。だから僕が下がっているように見えるかもしれないですね。ただ、カーフが分かってくると距離を詰めていって、パンチか組みの距離にしています」

――確かに序盤と比べて、明らかに距離が近くなっていますね。

(C)RIZIN FF

「もう距離が合ってきているので、アーセン君のパンチは怖くない。

最後は左カーフに右フックを合わせていますよね。これで『もうカーフも大丈夫』とハッキリしました。そして相手は、カーフを蹴るのが嫌になってくる。僕は1Rが終わって、インターバル中にセコンドには『もう全部分かった。大丈夫。2Rから行くわ』と伝えました」

――なるほど。1Rは観察して試合をつくっていくという、福田選手の戦い方がとてもよく分かりました。

「はい。2Rは1Rに観察したアーセン君の動きを自分なりに解釈して動き、もう彼の動きのパターンは分かってきたから『よし、もう狩りに行こう!』という感じですよね」

――そう聞きながら試合を視ると、2Rに入るとアーセン選手の動きも焦っているように感じます。

「そうなんですよ。アーセン君のパンチが当たっているように見えるかもしれないけど、スリッピング・アウェーでよけている。カーフは軌道も分かっているからカットできる。組まれても大丈夫で、『テイクダウンに来るなら来いよ』と、どんどんプレスをかけて距離を詰めていきます。このあたりはもうアーセン君の打撃は当たらずに、自分のパンチがどんどん当たるようになりました。僕からすれば、相手に対して『大丈夫? あとは何したい?』という感じで。一方でアーセン君は僕のパンチが見えていない。だって僕は1Rに倒すつもりのパンチを打ってへんから」

(C)RIZIN FF

――凄い伏線回収です!

「当てるつもりもないし、効かせるつもりでもない。ただ相手の反応を見るためのパンチでした。それで2Rからは、ちゃんと当てに行くし、効かせに行く。1Rに出してへんかったアッパーとか、いろんな角度の打撃で攻めていきます。このあたりは――ぶっちゃけ、自分の中では『余裕やな』と思っていましたね。相手はジャブが見えてへんから、ジャブを突きながら『これから何したろっかなぁ』と。そこで調子に乗って右フックを食らっちゃいました(苦笑)」

――アーセン選手は右を当てたあと一気に距離を詰め、組んだもののブレイクが掛かりました。

(C)RIZIN FF

「アーセン君はグレコ出身。

だから左の差し上げも強いんかなと思ったけど、組まれても大丈夫でした。練習で、もっと組みが強いヤツと組み合っていますからね。もう8割ぐらいアーセン君の動きは分かっていたから、もう倒されることはない。あとはジャブ、ジャブ――基本どおりです」

――では、この展開で何か不安な要素があるとすれば何でしょうか。

(C)RIZIN FF

「スピニングバックフィストとか変則的な動きですね。

すでにアーセン君のパンチは当たらへんけど、僕のジャブ、ボディ、フックが当たる。相手の攻撃はよけて自分の攻撃を当てる――基礎ですよ。本当に当たり前のことをしているだけで。反対にアーセン君は、おそらく何のパンチを当てられているか分かっていないですよね。反応できていたら、こんなに顔が腫れへんから。

(C)RIZIN FF

でね、2R後のインターバルが面白いんですよ。

映像で視ると、アーセン陣営は『ここが勝負だぞ! 気持ちを強く!』みたいな表情じゃないですか。直後にパッと切り替わった、僕の陣営との温度差が――」

――すでに勝利を確信しているかのようでした。

「いやいや、ここからがメインディッシュですから。最後のラウンドやから、仕留めに行く。この表情は『ここからがメインディッシュやぞ』っていう表情です」

<この項、続く>

PR
PR

関連記事

Movie