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【Special】UFC ESPN52とRoad to UFCを見て。「UFCで勝つために、国内タイトルって必要なのか?」

【写真】相手の攻撃を見て、殴る。殴られても、次の一手がある。後者でイー・チャアが、キム・サンウォンを上回った。組みをこなして、打で攻める。この両者のように戦う日本人セミファイナリストはいなかった (C)MMAPLANET

26&27日の両日にシンガポールでUFC ESPN52、Road to UFC2023の準決勝大会が行われた。両大会を取材したシンガポール滞在6日間でMMAPLANETが試合レポートとして速報を掲載させてもらったイベントは、Road to UFCを形式に則り2大会と計算すると9イベントだった。
Text by Manabu Takashima

Dana White’s Contender Series、Professional Fight League、ONE Friday Fights(立ち技のみの掲載)、Road FC、UFC ESPN、WKG&M-1 Global、UAE Warriors、そしてRoad to UFC2023Ep05&Ep06。このなかでMMAに限ってカウントすると週末のアジアと中東で開催された6大会に13選手(マックス・ザ・ボディを含む)がJ-MMA界から挑み、結果は5勝8敗だった。

結論からいうと、このままでは日本は中国に引き離され続ける。そしてUFCでトップになること、世界最強を目指すという前提でMMAを戦うのであれば、国内のタイトルよりも、どのような戦いを経験するのか。その方が、より重要になってくる。そう強く思った次第だ。


MMAには色々な向き合い方がある。UFCでトップになることだけが全てでない。日頃の練習の成果をプロ興行のなかで披露し、生活のアクセントにすることもMMAに取り組む正当な理由になる。

ここではUFCで活躍する日本人選手を増やしたいという一点に集中して、我々がどうあるべきか──想ったことを書き記したい。UFCをMMA界の軸にするのであれば、頭に入れないといけない現実がある。それは──日本はアジア3位ということだ。中国にはジャン・ウェイリというUFC世界チャンピオンが存在している。男子に限れば、中国と韓国がアジアの二強で日本は両国に遅れを取っている。

UFCはいわば、ふるい落としの場だ。ビッグネーム以外、救いの論理は存在しない。正しくはビッグネームであるなら、それは救済処置でなく、互いの利益を生むWIN WINの関係となり、共存共栄のマッチメイクが実施される。

そうでないファイターは、今や世界中のプロモーションのチャンピオンがコンテンダーシリーズでふるいに掛けられる。「フィニッシュに行け」という公然の指針が存在するコンテンダーシリーズは、あたかも「身を守ることにプライオリティを置いているファイターは必要ない」といわんばかりのファイトが続く。

いみじくも日曜日のRoad to UFCライト級準決勝で原口伸が勝利者インタビューで口にした「勝つことに集中した。面白い試合は、UFCと契約してから」という考えは、コンテンダーシリーズには存在しない。打撃戦、スクランブル戦、その二つが融合し、火花が散るようなバチバチのファイトが必要とされる。

あんなファイトをしているとダメージは蓄積するし、防御能力も最高峰のオクタゴンで、安定して勝利を手にすることは難しいだろう。毎年20人、30人と契約者を生み出しているコンテンダーシリーズだが、7年目を迎えた今年まで、同シリーズからチャンピオンに辿り着いたのはタイトル戦線混迷のライトヘビー級でジャマール・ヒル、群雄割拠のバンタム級のショーン・オマリーの2人だけだ。

弱肉強食の食物連鎖の頂点を争う前に、その多くがカットの対象になる。にも拘わらず、コンテンダーシリーズでは防御力でなく、攻撃力が試される。つまりは豊富な人材が集まってくることで、ふるい落としの理論が成り立っているわけだ。

一方で日本は少子化が進み、競技人口の増加がさほど望めない。加えて国内プロモーションの数が多い。一時期韓国で見られたようなクロスプロモーションも存在しない。結果、ふるい落としの理論と真逆の救いの理論がJ-MMA界には存在している。

老舗3プロモーションもフィーダーショー化され、選手は王座奪取を機に海外かRIZINに戦場を移していく。チャンピオンに勝利して、次のチャンピオンが生まれるケースは少なくなり、暫定王座の昇格が圧倒的に増えてきた。

層が薄くなったタイトル戦線は、コンペティティブさという面において、質の低下はどのプロモーションも否めない。ベルトを巻くために、本当に激しい潰し合いが繰り広げられ、質と量の低下を防いでいるのはDEEPフライ級戦線以外にピンとこないのが現状だ。

底上げのタイトル戦線は、チャンピオンの質も下げている。ただし、興行というビジネスの上で競技が確立しているMMAにあって、この現実は受け入れるしかない。同時にRoad to UFCに行くための肩書を得るのも必要だが、勝ち抜かないとUFCで戦うというスタートラインにつけない。そのためにはベルトだけでなく、如何に国内で経験を積むのかが重要になってくるのではないだろうか。

鶴屋怜や原口伸、上久保周哉がテイクダウンを切られ、危ない打撃を被弾する可能性のある戦いを国内で経験していれば、Road to UFCでの戦い方も違っていた可能性もある。

神田コウヤは既に多くを経験してきたファイターだ。今回の敗北については、リー・カイウェンが暴力的な空気こそ醸し出していたが、前に出てこなかった。ある意味、最初のテイクダウンがズバリと決まり過ぎたことで、前に出る雰囲気だけで前に出て来なくさせた。ただし神田も前に出てこないリー・カイウェンに対し、足を使って誘う展開が多くなりすぎた。何かをされたわけでないが、判定負けは致し方ない。

自分から仕掛ける。テイクダウン防御が絶対のMMAだが、やはり組み技出身で打撃を身につけている選手と、打撃の経験が十分な選手では瞬時にして、危険なパンチとそうでないパンチの見分けがつくと点において違いがある。天性のストライカーは見て、反応することができる。MMAの完成度の高さはそれぞれだが、鈴木千裕、平本蓮、萩原京平らはその手のストライカーで、組みを消化することでそのセンスが生きてくる。

現状、日本では組みを消化して持ち味を発揮できる打撃系の選手より、組み技勝負のファイターの方が多い。ただし、UFCになると打撃戦を制さないで組み勝つケースは減少している。ほとんど不可能といえるほど、技術力は上がった。その一歩手前にあるRoad to UFCで勝ち残っている中国勢、韓国勢は打ち合える強さがある。Road to UFCとの契約に跳びつくのでなく、UFCとの契約を勝ち取るだけの力を何とか国内で養成できないものか。

そんななか昨年のRoad to UFCを制し、UFCデビューを先週末に果たした中村倫也は、国内でベルトは巻いていない。その代わりといっては何だが、キャリア3戦目で修斗ブラジル王者のアレアンドロ・カエタノと対戦している。あの3R、15分の戦いはRoad to UFCの3試合よりも、ファーニー・ガルシア戦に役立っているはずだ。

現状、日本のMMAビジネスではRIZIN以外のプロモーションが、はカエタノのような選手を投入することは難しい。それでも──DEEPが元UFCファイターのブラジル人を来日させようとしたように。パンクラスがキルギス人、南アフリカ人選手を呼び、グラジエイターがモンゴルやフィリピンを発掘しているように、日本人選手強化のための企業努力をするプロモーションも見られる。その姿勢は本当に有難い。

一番の理想はRIZINで活躍することが必要な選手ではなく、RIZINが必要とする選手が、UFCのみならずRoad to UFCで契約できた場合、リリースする一文を契約書に加えてもらえること。まぁ、あれだけ投資を行っているプロモーションに対し、余りにも都合が良い話だ。それは理解している。

では、それ以外のプロモーションに関して、チャンピオンがRoad to UFCで戦う前に国内で競り合いを求めた場合。プロモーションの垣根を越えたファイトを、実現させる協力関係を築くことも夢物語なのか。契約違反でなく、人間関係だけに非常に困難であっても、ひっくり返すことはできるだろう当然、チャンピオンの敗北はリスキーだ。ただし、RIZINでは見られる。デメリットだけでなく、そこにメリットがあるからだ。リスクと利益を各団体が共有する。それがJ-MMAの共生方法になり得ないものか。

例えば、だ。原口伸が雑賀ヤン坊達也と、鶴屋怜が福田龍彌と、上久保周哉が安藤達也とRoad to UFCに参戦する前に対戦していれば──。海外勢でなくとも、このような経験ができていれば韓国、中国勢と相対したときに「初めて」というケースが減っていたと考えるのは暴論だろうか。

あるいは韓国のRoad FC、Double GFC、Angel’s FC、復活が噂されるTOP FC、フィリピンのURCC、グアムのBrawl、モンゴルのMGL-1FCなどでチャンピオンを目指す。

少なくとも選手サイド、指導者サイドは今後、強くなるために現状と違う選手強化のチャンネルを持つことが欠かせない。そうでなければ凄まじい選手層を誇り、そこから選抜された面々が上海のPIで最高の体調管理がなされたうえで、上質のトレーニングを積む中国勢とタメを張るなんて、どだい無理な話になってくる。

救いの理論のJ-MMAにあって、UFCで結果を残すだけの実力を身につけるには、上手くやるのではなく──自らをふるいに掛けて、生き残るしかない。その意気込みこそ、「加油(ヂャーヨ~)」や「テ~ハミング」という掛け声に負けない、『ニッポン!!』、『 ニッポン!!』という大合唱を起こす熱を生み、比較にならない物量を誇る大国を打ち破る──超ハイテク高性能竹槍を創る第一歩となる。

加えて我々メディアも、団体間のレベルの優劣や順序という問題は避けてきた現実に向かい合う必要があるだろ。ケージの中を見て、どのタイトルも横一戦というのはおかしい。もちろん階級によって違いはあるが、各プロモーションの階級別毎だろうが、技術力を基準とした優劣は誌面や記事数に影響させることが、MMAを強くするための我々専門メディアの役割でないのか。同様にメディアに経済力がないが故の、東京偏向という問題に目を瞑ってはならない。金原正徳が減量問題において「選手だけでなく、団体もリスクを」という話をしてくれたが、格闘技界の出来事を伝えるという点において、メディアも同じことがいええるはずだ。我々も格闘技界の一員として、リスクを背負うべきだ。もしくは偏向取材とならないだけの努力と工夫をしなければならない。

なんてことをシンガポール最終日、日本に帰国してから考えていました。




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