【ONE Heavy Hitter】アタイジ戦へ、岡見勇信─02─「自分を全部出すので、それを見てもらいたい」
【写真】岡見勇信は決してスーパーマンじゃない。だからこそ、偉大だ (C)MMAPLANET
14日(金・現地時間)にシンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムで開催されるONE Heavy Hitterでレアンドロ・アタイジと対戦する岡見勇信インタビュー後編。
現役兼指導者として、この2年は後者の役割が多くのパートを占めてきた岡見には、戦いたい気持ちと戻る必要があるのかという葛藤があった。
アタイジ戦を前にした現役ファイター、そして後進を育てる立場の岡見勇信の言葉を伝えたい。
──ではアタイジの印象を教えてください。
「ずっとONEで戦っている選手ですよね。ONEのミドル級といえばンサン、アタイジ、ヴィタリー・ビクダシュ、この3人で。ウェルター級でやっている時は別の階級だから、そういう意識でしかなかったのですが、いざミドル級で戦うことを決めると戦ってみたいのはンサン、そしてアタイジとビクダシュだったんです。
そんな呑気に戦っている年齢でもないので。良い、強い選手ということで彼らと戦いたいとリクエストもしていました」
──自分が持ち続けている岡見勇信のイメージだと警戒はしても、苦戦をしてはいけない相手、それがアタイジの印象です。
「フフフフ。そう言ってもらえると嬉しいです」
──パワーと瞬発力はある。ただし、持続しない。単発です。デカくて動ける選手と戦ってきた岡見選手が、そこを封じ込める試合を勝手ながら期待しています。
「そうですね。過去のことをいってもしょうがないですけど、UFCミドル級でやってきたという自負もありますし、今、自分がやっていることをぶつければしっかりと勝てる相手だと思っています。
荒さがアタイジの良さでもあり、弱点でもある。ガードも下げて、意外とカウンター待ちの選手で。パワフルだけど、駆け引きが単純ではないので警戒は必要です。テイクダウンも打撃もパワーがありますよね。ただし、ここが凄いというのは見えてこないファイトで、やり辛さを上手く使っている選手です。
相手のことも勿論考えますけど、自分ですよね。自分が信じているモノを15分間、アタイジにぶつけ続ける。それが通じるかどうか、そこを貫くことです」
──メインカードでないということは気にしますか。
「まぁ、もうそれはONEに来てからはどうとも思っていないです。2年振りの試合ですし、またここからなので何試合目だろうが、そこは意識していないです」
──93キロで戦うと練習相手というのは?
「内藤(由良)君……内藤君は試合が決まる前にパンクラスで試合があるということで、ガッツリとやって刺激を投入してもらい、凄く良い練習ができましたね。自分の試合が決まると内藤君は試合が終わったので、シビサイ頌真とずっとやってきました。ヘビー級の彼とマンツーで勝負して……アタイジも大きいので、サイズとパワーに慣れるためにシビサイとずっとやってきました」
──ミドル級での目標がンサン戦のようにも感じますが、チャンピオンのライニア・デリーダに関しては?
「う~ん、それはンサンが大好きな選手だからです。同じアジア人としてミドル級、ライトヘビー級でチャンピオンになることの大変さは自分が一番知っているつもりです。何より戦い方もアグレッシブで、フィジカルも強い。勝ちっぷりも凄くて、ある意味リスペクトしていたんですよね」
──岡見選手ならではの含蓄のある言葉です。
「ウェルター級だったので戦う相手とは全く意識していなかったのですが、ONEで一番好きな選手だから試合もずっと追っていました。ただ自分のなかでミドル級転向を考えるようになると、やはり一番に頭に浮かんだのはンサンとの試合でした。ベルトを取られてしまったことはショックでしたが、僕がベルトを取りに行く過程に彼はいます(笑)」
──ということはベルトを狙って、ONEで戦い続けるということですか。
「もちろん、その気でいます。そこがなければ意味はないです。この1戦が最後、ンサンとやって終わりとかっていう気持ちでMMAを続けることはできないです。だからといって先のことを考えているわけでもなく、目の前にある試合に勝つことに集中し、そこで勝つと次があるというだけですけどね。
だけどここで終わりとか思っていたら、こんな苦しい想いをして練習はできないです。MMAを戦うならベルトは狙わないと」
──引退を決めて、最後の数試合とか考えると……。
「できないです。区切りをつけることはない。でも、それは格闘技ですから自分のなかで分かることです。僕はベルトまで走り続ける意欲を持ち続けています」
──POUND STORMで引退試合という仮説が、全く外れました(笑)。
「POUND STORMはそういう場にしちゃダメです(笑)。夢を持ったファイターたちが主役になる舞台です。自分は戦っていく姿を彼らに見せるだけです」
──正直、指導者として彼らをリードする岡見選手に対し、選手たちも格闘DREAMERSのスタッフも弱いところがないスーパーマンのような存在として捉えているような節はないですか。岡見選手は常に自分の弱さと戦ってきており、スーパーヒーローではないのに。
「アハハハハハ。彼らが自分のことをどう見ているのか──それを考えたこともありました。おかしなプレッシャーを感じていましたよね。特に試合が決まる前は『こんな偉そうなことを言ってしまって……自分の試合の時はどうしようか』とか、考えちゃって(笑)。あと色々な選手のセコンドに就くことが多くて、これだけ試合から離れると意欲が戻らないようになっている時期もあり、そことの戦いもありました。
DREMAERS、GENスポーツの仲間のセコンドに就いていると、自分が試合をしていたらって想像をしちゃうんですよ。皆、緊張していて。『いやぁ、ここに戻る必要なくねぇか』とかね、思って(笑)。そういう気持ちが、凄く出てくるんですよ。だから正直に言うと、セコンドに就くのがきつくて(苦笑)。選手に寄り添っていると、感情が全部伝わってくるので。
試合が決まってからは特に『もうちょっとしたら、俺、ここに戻ってくるんだよな』みたいな感情もあって……いろいろと葛藤はありましたけど、結果として『これが岡見勇信だよ』っていうのを見せるしかないのかって。
戦う姿を見せる。どんな姿でも、戦い切らないといけない。試合だから、ファイターだから……人間だし、相手の方が強かったらしょうがないです。でも自分を出さずに負けるとか、諦めるとか──そんな風にならず自分を全部出すので、それを見てもらいたいです。それが今の気持ちです」
──岡見選手の2日後に中村倫也選手と宇佐美正パトリック選手が修斗で試合をします。
「そりゃあ繋ぎたい気持ちはあります。強い姿、勝って……試合を通して彼らにエールを送りたい。現役兼指導者として、EXFIGHT、GENスポーツの若い選手たちに試合を通して言葉でなくメッセージを伝える。この2年間、多くの選手を送り出してきたので、今度はそういう姿を見せないといけないと思っています。
試合が決まった時、最初の方はやっぱり怖くて。久しぶりに眠ることができない。眠りが浅いっていうことがあったんです。分かってはいたのに、忘れていたことがあった。朝に食欲がないとか(笑)。それもハードなスパーリングをこなして、吹っ切れました。ここにきて、生きている実感がしています。あとはやるだけっていうところまで、来ています」