【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その壱─ジム ・ミラー✖ゴンザレス「鉄人文脈」
【写真】オクタゴン38戦、22勝。とんでもないレコードだ (C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年10月の一番、第一弾は10月16日に行われたUFN195より、ジム・ミラー✖エリック・ゴンザレス戦について語らおう。
──青木選手が選ぶ10月の一番、最初の試合は何になりますか。
「ジム・ミラー✖エリック・ゴンザレスです。ジム・ミラーはベテラン中のベテラン、戦績的にもここで持ち直した感は凄いなって素直に思います。相手が少し落ちると、しっかりと勝っています。2連敗していて、また上がっている。そこらへんの強さはなんだかんだと持っていますよね」
──38歳、青木選手と同い年です。
「はい、ギリギリ残している系です。連敗をしたこともあったけど、UFCで13年間勤続していますからね」
──うわぁ、それはもう金字塔じゃないですか。
「確か一番多く試合をこなしているはずです。38試合とか……」
──そしてオクタゴンで得た勝ち星22は歴代2位のようです。
「連敗もあるし、4連敗もしている。厳しい戦いをしているからこそ凄いなって思います。ドナルド・セラーニ、ジョー・ローゾンとかずっとやってきて。今はクレイ・グィダとジム・ミラーですかね。ローゾン、ジョー・スティーブンスとか脱落して、ディエゴ・サンチェスも終盤はジム・ミラーのような試合はできていなかった。
ここで残っているというのは技術力があって、コンディションが良いですよね。だから今もあの戦いができる」
──例えば青木選手の場合は一度フェザーで戦い、そこでの経験もあって過度の減量とリカバリーということをしなくなった。そしてONEの計量方法も変わったことなども、今のコンディションの良さに通じていると思います。対してミラーは北米階級で水抜きをしているわけですね。
「そこは合う、合わないもあると思います。ミラーは水抜きをしても、あれだけのコンディションを保っている。もちろん食事制限もしているだろうし、日々のトレーニングを真面目に続けているに違いないです。減量に関しては、人それぞれでしょうし、もちろんダメージの蓄積もあるし。打たれ弱くはなっています。今回の試合も初回は押されていたように。
でも2Rにはカムバックして、内回し蹴りに左ストレートを打ち込んでKOした。真面目に今もやっているのが伝わってきます。真面目にやる、そこが重要じゃないかと。そしてジム・ミラーにはテクニックがありますから」
──決してトップではない。タイトルに絡むかということではビッグネームに負けています。それでもUFCという場で、下から上がってきた選手を潰してきました。このところ、そこに食われることがでてきた感もありますが。
「だって、去年と今年の負けって対戦相手は12勝2敗とか10勝2敗の選手ですよ」
──その前に勝ったローズベルト・ロバーツにしても、その時点での戦績は10勝1敗でした。
「リスペクトされているけど、レジェンドでもない。レジェンドっていう文脈までいけない。階級は違いますけど、BMF(Baddest Mother Fucker)のベルトを争うというようなキャラ立ちもしていないし」
──はい。コツコツ、コツコツとここまで戦い続けてきた。
「でレジェンドじゃないから、第一線から退いていなくて、トップを目指す選手たちと戦い続けているということですからね。今回の相手の戦績も14勝5敗とかの選手で……。この凄さっていうのは、選手が認める選手ということになるのですが、その一方でUFC最多出場とかしっかりとプロモーションされているから、ファンからもリスペクトされ愛されている。
ジム・ミラーの境遇を見ると、『選手を道具のように』と言われることもあるUFCが、意外とファミリーっぽくて不思議なんですよね」
──確かに。歴史をリスペクトする文化というか。何か存在していると思います。
「レジェンド文脈ではないですが、ジム・ミラーは鉄人文脈。でも、ここからは厳しいです。それはもう絶対に。39歳、40歳とどういう風に枯れた美学を魅せてくれるのか」
──と同時に、今のコンテンダーシリーズ世代というか。とにかくフィニッシュ、リスクをおかしてもフィニッシュというスタイルが根付いる選手に対して、防御力の高さを見せて勝ってくれそうな期待があります。
「穴をつけるということですよね。それでもパワーで押し切られることも増えてくるはずです。引退が常にチラついているかと思いますが、ジム・ミラーは僕らの世代の希望です。クレイ・グィダにしても、続けてくれているだけで嬉しいです」