【EJJC2020】ルースター級決勝─橋本知之✖タリソン・ソアレスをカイオ・テハの指示とともに振り返る
【写真】橋本が三角固め?!からの三角絞めで欧州を制した (C)IBJJF
1月21日(現地時間・火曜)から26日(同・日曜)にかけてポルトガル、リスボンにあるパヴィラォン・ムルチウソス・ジ・オジヴェラスにてIBJJF(国際柔術連盟)主催のヨーロピアンオープン柔術選手権が開催された。
ヨーロッパを中心に、各国から強豪が参戦するこの大会。レビュー第5回はルースター級決勝=橋本知之✖タリソン・ソアレス戦の模様を──橋本のコーナー=カイオ・テハの指示とともに振り返りたい。
<ルースター級決勝/10分1R>
橋本知之(日本)
Def. DQ by exited the mat
タリソン・ソアレス(ブラジル)
元絶対王者マルファシーニと芝本を倒し、初出場初優勝にあと一つと迫った20歳のソアレスは、試合開始が待ちきれないかの様子でマットを駆け回って各審判に挨拶。ゆっくりと歩いて移動する橋本とは対照的だ。
試合が始まり、橋本の師カイオ・テハの「足に注意しろ。奴はタックルに来るかもしれないぞ」という高い声が飛ぶなか、低く構える両者。お互いに道着を掴むと同時に座ってダブルガード状態になり、そのまま譲らずブレイクに。
お互いペナルティをもらった後に再開。今度はソアレスが飛び込んだところで、橋本が一瞬座って受け止めてから引き込む形となる。テイクダウンの2点を取られる可能性もあるかと思われたが、ここは宣告なし。
橋本は背中越しに両手で帯を掴んでソアレスの体を跳ね上げようとするが、ソアレスも体勢を低くして耐える。ならばと橋本はソアレスの左足に絡んで引き付けて崩し、さらに内側に回転してのスイープへ。ここもソアレスがこらえると、橋本はソアレスの左足を肩に抱える。
「チャンスがあれば上になれ」というテハの指示のもと、橋本はソアレスを後に崩してシットアップを狙うが、こらえたソアレスは橋本の左足をアキレスグリップで抱えにかかる。すかさず「足を取らせるな」とテハの声が飛ぶ。
さらに両者が場外側に近づいていることに気付いたテハは、「外に出すな! 内側にいるんだ!」と指示を送る。その後ソアレスは距離を取って場外に出るが、橋本の体はマットの内側に止まったまま。上下が保たれた体勢でのブレイクとなった。
中央での再開後、テハはシッティングを取る橋本に「まずグリップを作れ、それから引き込め」と丁寧な指示。その通りに橋本は襟を掴んでから、クローズドガードに入る。「いいぞトモ!勝てるぞ!」とテハの心強い声が飛んだ。
一度離れて距離を取ったソアレスは、低く入って両足かつぎに。「グリップを取れ」という指示のもとソアレスの襟元を掴んで距離を作る橋本。ここでソアレスは、左腕を前方に浴びせながら、橋本の右足に体重をかけて潰す動きに出る。が、その瞬間に反応した橋本は、柔軟な腰を利用して右足を振り解いてソアレスの左ワキの下に差し込み、ソアレスの右腕だけを超えた体勢でガードをクローズしてみせた。
テハが「イエス! 極めろ!」と歓喜の声を上げるなか、橋本はソアレスの体を引きつけて三角のロックを作る。通常三角絞めで極めるのとは逆側の足で組み、まずはソアレスを逃さない形だ。
世界から熱い注目を集める超新星を三角ロックで捕獲するという、千載一遇のチャンスを迎えた橋本。テハは興奮気味に「トモ、よく聞くんだ。奴はこの三角から抜けられないぞ。絶対に抜けられやしない」と声を上げる。橋本は両手で自らの右足を引きつける。「まだ組み方を変えるなよ、右手を使って手首を攻撃しろ。左腕はそのまま自分の足を掴め。体の右側だけをマットにつけるんだ」と細かく指示を出すテハ。
残り5分、ソアレスは深い三角の中に顔を埋め込まれる苦しい態勢ながらも、諦めずに前方に体重をかけて動き続ける。テハが「トモ、マットの内側にいるんだ。奴は場外まで押してゆくつもりだぞ」と指示すると、橋本はうまく方角を変えて場外を回避する。
そしてテハが「そのうち足の組む側を変えられるぞ」と言ってしばらくした後、橋本は足を組み換え、通常の三角絞めでフィニッシュする形を作る。さらにソアレスの右ワキを差して両腕でグリップし、絞り上げる橋本。「イエス! お前はサブミッションで勝つんだ!」とテハの声のトーンも上がる。
苦しくなったソアレスは、前方に体重をかけて橋本を押してゆき場外際に。同時に唯一やや自由な右手で橋本の襟元を掴んでプレッシャーをかけるが、橋本も右手で自分のスネを抱えて、ソアレスの体を引き付ける。絶体絶命のソアレスがさらに場外側に動こうとすると、テハは「中に入れ。タップを取るんだ、サブミッションで勝とうぜ! 失格勝ちじゃなく!」と声を上げる。
が、ソアレスがさらに場外方向に体を動かすと、審判がそこで終了を宣告。テハが予見した通り、ソアレスは場外逃亡により失格となったのだ。その瞬間「イエース!」と歓声を上げるテハ。
「トモ! お前の勝ちだ! お前が勝ったんだ!」というテハの歓喜の声が館内に響きわたる。失格勝ちを宣告されると、拳を突き上げる仕草を見せる橋本。これは本人のSNSでの投稿によると、裁定に対して相手の仲間らしき集団からブーイングが聞こえてきたので、つい煽ってしまったとのこと。当のソアレス本人は、試合後のインタビューで「この裁定にまったく異論はない。自分が担ぐ時にミスをして三角に捕らえられてしまった」と完敗を認めていた。
元絶対王者マルファシーニを倒したソアレスから、実質一本勝ちに等しい形での完勝。世界選手権に匹敵する超強豪揃いの今大会で勝ち取った橋本の優勝は、まさに値千金と言えるだろう。
その橋本は大会後に自ら投稿した動画で、この快挙について「おそらくタリソンは、自分の方が強いと思って余裕を持って戦おうとしていた。対して自分は弱者として泥臭く、勝つためにできる最善の手段を一つひとつやっていく姿勢で臨むことができた」と語っている。準決勝のソウザ戦とこの決勝戦で、序盤から一切の妥協をせず自分の得意な下のポジションを決して譲らなかったことにも、この「泥臭く」勝ちを追求する姿勢が表れていた。
今回のヨーロピアン制覇により、今後は世界の並いる超強豪選手たちが橋本に対して「泥臭く」、ありとあらゆる手段で勝利を奪いにくることが予想される。両者反則失格を覚悟で下のポジションを譲ろうとしない相手も出てくるだろう。そんな状況下、パン大会、世界大会と続く競技柔術の頂点の舞台にて橋本がどんな戦いを見せてくれるのか、見逃せない。
■リザルト・ルースター級
優勝 橋本知之(日本)
準優勝 タリソン・ソアレス(ブラジル)
3位 クレベル・ソウザ(ブラジル)、芝本幸司(日本)