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【Bu et Sports de combat】ヌルマゴメドフ✖マクレガー戦から見る──武術の四大要素、総括=入る─04─

UFC229【写真】世紀の一戦を武術の視点でみると、どうなるのか。これはMMAを理解する以上に、武術を理解することとなる(C)Zuffa LLC/Getty Images

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の要素──『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態はMMAで勝利を手にするために生きる。才能でなく修練により、誰もが身に付けることができる倒す力。

『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態を経て、理解できるようになる『入れた』状態とは。武術の四大要素編、総括となる『入る』について剛毅會空手・岩﨑達也宗師に尋ねる。

第4回は10月6日に行われたUFC229のガビブ・ヌルマゴメドフ✖コナー・マクレガー戦を参考に入った状態、そして武術の叡智のMMAへの生かし方を理解していきたい。

<武術の叡智はMMAに通じる。武術の四大要素、総括=入る─03─はコチラから>


──ルールのある戦いに挑むうえで、それはもうスポーツ。格闘技もスポーツです。目的が生き残ることではなく、勝つことになるので。その勝つための戦いのなかで、武術の叡智が生きる状況をどう見極めるのが、選手ではなくセコンドの役割だと。

「ハイ。その通りです」

──では「入る」あるいは「入られる」という武術的な視点を元に、岩﨑さんが先日のカビブ・ヌルマゴメドフ×コナー・マクレガーの試合でセコンドに就いていれば、どのような指示を送ることができていたのかを話していただけますか。

「私はセコンドに就くに当たって、重要なのは選手とチームとの関係値だと考えています。なので今回のマクレガーのような心持ち試合に臨むのであれば、セコンドに付く事はないと思います(笑)」

──それはどうしてですか。

「マクレガーの立場になって考えると、今回の試合は彼は何がなんでも勝たなければならないという試合でなく、勝てれば良いなという試合だったはずです。そのような心構えの選手に対して、セコンドがどのようなアドバイスを送ろうが、効果があることはまずないはずです。戦うのはあくまでも選手ですからね。

逆にヌルマゴメドフの立場とすれば、何がなんでも勝ちたい試合であり、そういう思いに裏づけられた関係値が築くことができるのであれば、セコンドとして選手の得られる結果に貢献したいと思えます。一体感のある関係であるはずです。

結果論だろうと言われてしまいますが、ヌルマゴメドフ×マクレガーは戦う前からかなり結果の見えていた試合だったといえます」

──それでもマクレガーなら、という期待はありましたし、現に3Rなど逆転するのではという試合展開になっていました。

「ハイ。それは思いのほかマクレガーが頑張り、またそれ以上に意外だったのがヌルマゴメドフがここまでプレッシャーを受け、恐怖を感じていたことです。コーカサスのムスリムも人の子なんだなと思いました(笑)。

試合前はTJ・ディラショー×コディー・ガーブラント戦のような片方が一方的に「入る」展開になると思っていました。もちろんヌルマゴメドフが、です。れがデメトリウス・ジョンソンがヘンリー・セフードに敗れた試合のように、入って、入られてという展開となりました」

──この入る、入られるというのが打×打でなく、打×テイクダウンで見られたと考えて良いでしょうか。

「ハイ。その通りです。大きな括りで考えると打撃で倒すのか、テイクダウンしてパウンドで倒すのか。その部分での質量の対峙にあって、開始早々はマクレガーのスタンド打撃の質量がヌルマゴメドフを圧倒します。これはマクレガーの打撃の是非でなく、ヌルマゴメドフがスタンドの打撃に意外なほど恐怖心を持っていたからです。これは本当に意外でした」

──ヌルマゴメドフが圧力を掛けなかったのではなく、掛けることができなったのですね。それでも組んでいきました。

「序盤ヌルマゴメドフは「入られた」状態だったのです。その「入られた」状態からのテイクダウンとは、スタンドでのマクレガーの攻撃を嫌ってのテイクダウンなので質量が低く、なかなか完全に上からコントロールできませんでした。

この時点でセコンドとして注意すべきは、マクレガーがヌルマゴメドフのテイクダウンにビビるよりも、ヌルマゴメドフがマクレガーの打撃にビビっていたということです」

──MMA的にいえば逃げのテイクダウンですね。

「現状を嫌っての行為は、抜本的な戦術たりえません。そして、何とかマクレガーの背中をマットにつかせても、マクレガーの足が中国武術の推手のように上手く聴剄(相手の力を読む)が効いており、なかなかポジションを取らせませんでした」

──あの攻防は普通に柔術やグラップリング的に足がきいているという見方だけでなく、武術的な見方が存在するのですか。

「私も昨年、柔術のムンジアルを視察させてもらったのですが、足の爪先からヒザ、そして足の皮膚全体が蛸の触覚のように動かして、足をきかせることができる柔術家を見て、それはまるで中国武術の推手の達人を見ているかのような気持ちでしたよ(笑)」

──う~ん、そこも非常に興味深いのですが……。ここではまずヌルマゴドフ×マクレガー戦で進ませてください。つまりマクレガーはガードを取ってなお、試合をコントロールしていたと。では、そのような状態のヌルマゴメドフのコーナーに岩﨑さんが就いていればどのような指示を送っていましたか。

「あの時、ヌルマゴメドフは何とかトップキープを続け、スタンドに戻りたくないと思っていたはずです。その何とか上の状態を維持したいという切なる想いが、彼の質量を下げていたと思われます。そうですね、あの場面で私が彼のセコンドであれば、『早く勝って楽になりたいと思うな』と激を飛ばします。

アドバイスではなく、激です(笑)。恐怖にかられた攻撃は、かえって危険だからです。5分×5Rの最初のラウンドです。自分の選手が恐怖を感じているなら、決して勝ち急がせることなく、素直に逃げる選択をさせると思います」

──逃げる選択ですか? ヌルマゴメドフが上で抑えているのに逃げるとはどういう状況に持ち込むことなのでしょうか。

「逃げるというか、余裕を持たせるということですね。トップキープをしたくても、スタンドに戻りたくなくてパウンドアウトしたいという切羽詰まった精神状況だったので、もうポイントは取っているから、ここで終わらせる必要はないぐらいのことを言っていたはずです。

トップは取っていても、質量は似たようなものでした。余裕があれば、逆に質量で上回りしっかりと抑えて、効くパウンドを落とすことができたでしょうね」

──これまでヌルマゴメドフは倒してからも、殴るためにスペースを与えることが多かったです。立たれても、また倒すという繰り返しで相手を削ることができたので。

「武術の原理原則的な部分でいえば、倒されまいとしている相手よりも、立てた相手の方が質量は低いのです。起き上がろうとする人間を抑えつけようとすると、かえって起き上がられてしまうことがあります。ならば抑えられまいとする相手を立たせて、再び倒す方が効果的なのです。

意思と意思が衝突した時、その衝突を先に解いた方が戦況を作れます。私自身、グラップリングの練習をしていた時にもただ倒しに来る動作よりも、ダブルからシングル、またハイクロッチや四つで崩され、さらに足を狙われるという縦横無尽なテイクダウンにはほとほと手を焼きました。

だから、選手には『倒しておきたいなら、立たせろ』ということも機会がれば言っていました。もちろん、ヌルマゴメドフですら、このようなことになるので選手にとってリスキーなことです。キープしていれば、ポイントを取れるポジションを一旦は自ら放棄するということは。日頃から練習で、その縦横無尽さを練っておかないと試合で上手くいくことはないでしょう。

先ほども言いましたが、その一方で武術の原理原則的な部分でいえば、倒れまいとしている人間よりも『立てた』と安堵している人間の方が質量は低い。以前、正しい姿勢と間違った姿勢で行なった実験をしてみれば理解できると思います。倒れまいとする人間と、倒そうとする人間では重さを測ると倒されまいとする人間の方が重いです。しかし、倒そうとしている人間が倒そうとしなくなった途端に、こちらの方が重くなります。

居つくとは、腕相撲のように一方向に意思が偏っている状態をいいますが、片方がその意思を解除することで相手だけ居つかせることになるのです。『入る』相手を居つかせることでもあります──入るとは」

<この項、続く

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