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【Column】ニッポンのメジャーリーガー(世界戦)

2011.12.21

Okami
【写真】2011年8月、UFC初出場から5年、10勝2敗という戦績を以て岡見勇信はアンデウソン・シウバの持つ世界ミドル級王座に挑戦。世界を代表するミドル級ファイターに成長していた。

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年10月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

コラム前編はコチラ] 2006年1月20日、いやもう21日に日付が変わろうとしていた夜分、ワイキキのデニーズに磯野さんと現れた岡見勇信の顔は、敗者のソレそのものだった。

あの反則勝ちに対し、いつまでたっても『オカミは戦えたのに、反則勝ちしたいから再開に応じなかった』という声を、アンデウソン陣営から聞かされた。反則を犯した方として、そうはどうなの?という意見。

ケージサイドで写真を撮っていた者として、見えない角度からカカトで顔面を蹴り抜かれ、もんどりうってダウンしたのに、試合なんて続けられるわけがないと断言できる。

ただ、岡見自身は反則攻撃で受けたダメージ以上の傷を、それ以前の攻防のなかで、心に負っていた。前年の3月にブライアン・フォスターを相手に、打撃を出して前に出られたという自信は、木端微塵に砕かれてしまった。最初のアンデウソン戦の前から、今に至るまで、「パンチを受ける」ことに恐怖を感じ、試合に出ていることを隠すことはなかった岡見。その恐怖が、マックスに達したのがROTRのアンデウソン戦だった。

ただし、人間、MAXを経験すれば、その後はそれ以下しか感じないようになる。この年の8月にUFC初出場を果たした岡見は、ROTRを遥かに凌ぐような引きつった表情でオクタゴンに現れたものの、試合自体は特に危ない場面はなく、判定勝ち。堅実な勝利を収め、岡見は日本人最強MMAファイターへの道のりを歩み始めた。


UFCデビューから5年を経て、この8月にアンデウソンの世界王座に挑み敗れたことは、記憶に新しい。

彼のUFC戦績は10勝3敗だ。日本人歴代2位が3勝、実にその3倍の勝ち星を一人で挙げている。特にPRIDE活動停止後の2007年以降にUFC出場を果たした日本人選手で岡見以外に、複数の勝利を手にしているのは、水垣偉弥だけ。この数字からも、岡見が残してきた記録がいかに偉大なものか、理解できるだろう。

それでも、岡見が2度目のアンデウソン戦“でも”完敗を喫した事実に変わりはない。

僕はUFCの世界戦は、その座にいる期間が長く、防衛戦を多く経験しているほど、王者に有利な戦いだと思っている。

世界戦は5R、そして王者は究極的に勝利のみを追求している。対して、挑戦権を得るためには3R戦で、勝利数を伸ばすだけでなく、如何にインパクトを残せるかも、重要になってくる。

ダナ・ホワイトやジョー・シルバは、勝利数+インパクトの強さ、あるいは勝利数×インパクトの強さでチャレンジャーを選んでいるに違いない。インパクトの強さは人気、認知度に言い換えることができる。

よって世界挑戦権を手に入れるまで、ファイターたちは110メートル障害物競走を走り、ゴール時点でバック転をするような戦いを繰り広げつつ、走り勝つ必要がある。そうでない場合は、岡見のように二ケタに及ぶ勝利を挙げなければならない。

バック転をするような戦いをしてきてファイターたちも、世界戦に挑むや、そこでの試合は、ひたすら400メートル先のゴールを目指すものに早変わりする。挑戦者側が不利なのは明らかだ。

08年12月、6勝1敗という戦績の岡見にUFCはディーン・リスターという対戦相手をあてがった。

寝技では一発の強さがあるが、打撃はからっきしという相手だ。この試合で、岡見は打撃戦で圧倒していながら、寝技に付き合いトップキープ+パウンドで判定勝ちを収めた。

岡見が打撃でリスターをKOしていれば、もっと早く挑戦権が回ってきたはずだ。

打撃で戦っても、まず岡見がリスターに敗れることはなかった。それでも、磯野さんは最終ラウンドに『組んで、トップキープ』という指示を出し、『スタンドで殴り合うな』と大声を張り上げ続けていた。

岡見の試合は、リスク・マネージメントが徹底されていた。

その後も、リスク・マネージメントを前提とした戦い方で、勝利を積み重ね、岡見は挑戦権を手にした。岡見の場合は200メートル走を勝つことだけに拘ってきたので、バック転をしてきたファイターほど戦い方を変える必要はない。

そう、世界戦は勝ち方に拘る必要がない試合だ。

それなのに、彼はクリンチ+テイクダウン=削るという作戦を実行せずに、打撃戦を挑んだ。岡見のジャブは、アンデウソンに届いた。ROTRでは、決して見られなかったシーンだ。世界最強、アンデウソン・シウバを相手に、打ち合いを挑めるだけの力をつけた。

しかし、ジャブの間合いで戦うことは、勝利に必要な攻撃ではなかったはずだ。勝負に徹するべき試合で、セコンド達の気持ちをこれっぽっちも鑑みることなく、打撃戦を選択した岡見。

なんとも勿体ない話だけど、それだけの強さと自信を彼が身につけていたのなら、それはそれで……こんなに嬉しいことはない。

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